16話 おーほっほっほっほ!そうは問屋がおろしませんわ!
「さぁ、答えてもらおうか、ゲオルグ」
第一皇子がゲオルグが所持していた魔道具を取り出して問う。
第一皇子の詰問に、ゲオルグは息を飲んだ。
「違う!!!俺じゃない!!! 俺が母上を殺して何の得があるんだ!!!」
「見苦しいですよ!魔道具をもっているのが証拠ではありませんか」
ゲオルグを取り押さえていた衛兵が逃げようとしたゲオルグを逃がさないとさらに力を強める。
そう、ゲオルグがリモコンを所持していた。
他者から見れば、誰がどう見てもゲオルグが犯人だろう。
どう考えても、言い逃れできない。
でも違う。
「本当に俺じゃないんだっ!!」
ゲオルグが叫んだ瞬間。
「はい。その通り。犯人は他にいます」
と、あっさり肯定したのは……アメリアだった。
一瞬の沈黙。
「……え?」
アメリアに注目が集まる中、やっと声をあげたのはウィルだった。
「いや、だって魔道具をもってたぞ?」
ウィルの問いにアメリアは視線をウィルから、第二皇子に移した。
「心当たりがあるのではありませんか?ゲオルグ皇子」
言った途端
がくん
第二皇子は膝から崩れる。
「……本当に俺じゃない。
……俺は、母上を止めようとしただけだったんだ。
なんでことに……」
言って頭をかかえた。
「どういうことだい?」
第一皇子が問う。
「思い出してください。昨日、クラリスを捕まえた衛兵の証言を。
第三皇子の部屋――盾のエンブレムの部屋に入ろうとしていたものの、鍵が合わず入れなかった、と」
「確かにそんなことを言っていた気がするけれど」
「実際クラリスはVIPルームの鍵をもっていました。
けれどそれは隣の鷲の部屋の鍵だった」
「……部屋を間違えただけでは?」
「クラリスの証言では朝メイド長と一緒に入った時は確かに鍵は開いた。
そしてそのままカギを渡された。けれど夜ははいれなかったと、証言していますわ」
「……つまりどういうことでしょう?」
アメリアにマークが問う。
「考えるまでもないですわ。
答えは簡単。
エンブレムが入れ替わっていたのですわ」
「な!?」
室内の皆が驚く中、アメリアは淡々と続ける。
「マーク伯爵、確か貴方は第二皇子がウィル皇子の控室あたりにゲオルグ皇子がいるのを目撃したという証言で調査に向かいましたね」
「はい。兵士の一人が、盾のエンブレムの前で何かしていたのを目撃したという証言を得たということで、調査に向かいました」
「その証言ではいつ頃ゲオルグ皇子を見かけていたですの?」
「確か舞踏会の中です――。なるほど、どうして。
つまり……」
マークの視線が第二皇子に移る。
「そう、その時。
ゲオルグ皇子は、ウィル皇子の部屋と自分の部屋――その扉のエンブレムを入れ替えたのです」
「「「な!?」」」
「なんでそんなことを?」
「先ほど、本人が言った通りです。彼は王妃のたくらみを知っていた。
だから被害がでないように、自分の部屋とウィル皇子の部屋をいれかえた」
「なるほど。自分の部屋にしてしまえば、照明さえつけなければ誰も被害がでないと?」
「ご名答。第二王妃は、入れ替えられたことを知らず、第二皇子の部屋となった罠の部屋に入ってしまいましたわ」
「そ、それは……」
「じゃあつまり――犯人は―――」
第二王妃の死体に視線が集まる。
「そう 第二王妃彼女自身です」
「第二王妃は第三皇子を疎ましく思っていました。そして第一皇子の責任として追及するためにこのような罠を仕掛けたと思われます」
「確かに第二王妃の権力なら、僕が発注した中に別の物を混ぜるのは可能だろう。
けれどこんなトリックを思いつくものだろうか?」
「そこについて不思議ではありません。このトリックについては、すでに小説で世に発表済みです」
マークが言う。
「もちろん実際できないように、魔石の名前や、照明部分に砂を混ぜるなど、実際と手法は違いますが、原理はそのまま利用しています」
「その本は確か匿名の女性作家が書いてる推理小説で、帝都で流行しているものだったね。
……たしか発行が2年前――。ちょうど内装の着工が始まった時期だ」
「つまり――。これは王妃の自爆?」
皆の視線が王妃に集まる。
「確かに、シャンデリアを仕掛けたのは母で、エンブレムを変えたのは俺だ!
でも、危ないからトラップのリモコンは確かに俺が回収した!!」
「ええ、貴方は回収しました。ですがタイミングが問題です。
エンブレムは外側なので昨日変えることができましたが、
演劇用のVIPルームは使用時間まで施錠されていました。
ですからリモコンを回収したのは今日の夕方です」
「そ、それは……」
「おそらく、ゲオルグ皇子がリモコンを回収し部屋を後にしたタイミングで、第二王妃が部屋にはいってしまった。そしてポケットかどこかにいれたものが間違ってボタンがおされてしまった。
重みで壊れる仕組みがゆえ、ボタンを押してからタイムラグがありますから」
アメリアの言葉に沈黙が走る。
***
「……それじゃあ……俺が母上を……」
「兄上……」
ウィルがうなだれたゲオルグに近づく。
「お前のせいだ!!お前なんか守ろうとしなければ!!」
と、肩にかけようとした手を振り払った。
そうだ。昔は仲がよかった。
幼少期、神童とよばれる第一皇子と比べられる劣等感から、すさんだことがあった。
けれど、ウィルがいたおかげで、自分が嫌な思いをしたから、ウィルには嫌な思いをさせないようにと守らないという使命感をもてたことが――救いだった。
兄としてふるまうことで、自分の存在意義が保たれる気がしたのだ。
だから、大事だった。
嘘じゃない。
仲のよかった第三王妃が死んだことで、母がウィルを第三王妃を奪った敵として、憎みだしてから、すべてが狂ってしまった。
もう関わるな、敵だと母親に何度言われても、一度沸いた『兄弟』の感情を捨てることができなかった。
だから守ろうとした。
なのにこんな結果になった。
(そうだ、こんなやつ最初から見捨てておけばよかったんだ――!!)
そう思ってウィルを睨みつけた瞬間。
ウィルの傷ついた表情。
その姿に、はっとする。
違う。
違う。
こんな顔をさせたかったわけじゃない。
「違う、その、違うんだ」
思わず言い訳が漏れる。
けれど、傷つけたのは自分だ。
母を正面から止めるべきだったのに、それが出来なくてこんな回りくどいことをした。
そのせいで母は死んだ。
全部自分のせいなのに。ウィルのせいじゃない。
「ああ、そうか。うん……そうだ……」
ゲオルグが顔を抑えて はは と笑う。
「これじゃあ、八つ当たりだ。母がおかしくなったのも、第三王妃がなくなった怒りのやり場を、結局ウィルに押し付けただけだった。
そんな母が嫌だったはずなのに……」
「だから、陰ながらウィル皇子を守っていたと?」
マークが問うと、
「……え」
と、ウィルが振り返った。
「毎年狩猟祭で、ゲオルグ皇子が常にウィル皇子に嫌がらせしていたのはおそらく、
王妃の放ったものの手から守るためだったのでしょう?」
「そう……なのか?」
ウィルが問うがゲオルグは無言でうつむいた。
それを言って何になるのだろう?
ウィルには嫌われているし、母も死んでしまった。
おそらくこの件で捕まるだろう。
自分には何も残っていない。
「つもる話はあるだろうけれど、ここで終わりだ。
理由はどうあれ――ゲオルグ、君はこのトリックを知っていた。
そしてそれを隠した罪は免れないよ。いくら皇族とはいえ、幽閉は免れないとおもったほうがいい」
第一皇子の声が無慈悲に響く。
そうだ――いつだって兄である第一皇子が正しかった。
結局は自分は出来の悪い引き立て役で、こうやって兄を引き立たせるために生まれてきたのだろう。
「……そうだな」
ゲオルグは手錠を構える衛兵にそっと手を差し出した。
「兄上」
「ウィル。俺がこんな事言える立場じゃないのはわかってる。
でも母上を恨まないでやってくれ。
母は本当にお前の母親も、お前も大事に思っていた。
でも第三王妃への思いが強すぎて、こうなっただけなんだ。
俺と同じさ。
恨む相手がいなければやっていけなかった」
「……」
「……なんて言っても無理だよな。悪かった」
無言でうつむくウィルにゲオルグが自嘲気味に笑った――瞬間。
「本当ですわ。実は愛されてたとか知りませんわ。
やられたことがすべてであり、真理において事実。
不快にされたその瞬間がすべてであり、絶対。
絶対許せることではありませんわぁぁぁぁぁ!!全力でふぁっくゆーです。
おとなしく牢屋にぶち込まれてOKですわぁぁぁぁぁ!!」
おーほっほっほと、アメリアが高笑いをした。
「あ、アメリア!?」
ウィルが慌てて止めにはいるが
「謝ったらさぞかし楽になれたでしょう?で、ウィルの気持ちはどうなりますの?
そこまで言われてしまったら恨む自分が悪いのかと、罪悪感を植え付けただけではありませんか。
本当に悪いと思ってるなら、恨まれて恨まれて、怒りのはけ口になってやるくらいの気概をみせなさいまし。自己満足の謝罪なんてそれこそノーサンキューですわ」
その言葉にゲオルグがはっとなり、――ウィルがうつむいた。
そして拳を握ると、沈黙した後。
「そうだ!絶対許さない!」
と、力強く顔を上げる。
「……」
「だから、僕に殴られるために、絶対早く牢から出てこい!!絶対にだ!!」
そう言うウィルのゲオルグを睨む目はまっすぐで――よくケンカをしたときの幼いウィルを彷彿とさせた。少し泣きそうになりながら強がる幼少期と何一つかわってない。
「……ああ、そうだな」
そういって笑うゲオルグ。
兵士に促され、出口へ向かうゲオルグ。
部屋に沈黙が訪れる。
こうして事件は――終わりを迎えた。
――かのように見えた。
が。
唐突に。
「おーほっほっほっほっほ!!!!」
アメリアの笑い声が響き――皆の注目が集まると、アメリアが嬉しそうに
「と、いう筋書きにしたかったのでしょう?真犯人さん?」
と、振り返るのだった。




