18話 エピローグ
「本当に行くのか?」
事件から数か月後。
旅支度を整えたアメリアに、ウィルが不満そうに問う。
「あら、寂しくなりましたの? かわいいところがありますのね」
「そんなわけないだろ! お前なんていなくなってせいせいする!」
そう言ってぷいっと横を向く。
けれど、しばらくして。
「……たまには遊びに来いよ」
小さく付け加えた。
「気が向いたらですわね」
「そこは来るって言えよ!」
いつものように叫ぶウィルを見て、アメリアは満足そうに笑う。
「おーほっほっほ。その場のノリと勢いだけで決めるわたくしに、約束など無意味にして無価値ですわ!その日のその時の勢いで、何かあったら考えてさしあげてもよろしくってよ!!」
「ひでぇ!!」
「それに……」
突っ込むウィルからアメリアが視線をうつすとそこにいたのは、見送りにきていたゲオルグ。
「ああ、ウィルのことは任せてくれ」
ゲオルグはそう言って、アメリアに手を差し出す。
「母上も、あれからウィルを敵視することはなくなった。自分がやってきたことが俺を苦しめていたことにも、ようやく気づいたらしい」
以前のようにすべてが元通りになったわけではない。
それでも第二王妃は少しずつ毒気をなくし、穏やかさを取り戻していた。
「それにしても、父上が兄上にあそこまで厳しい処分を下すとは思わなかった」
「まぁ、そこはだいたい予想しておりましたけれどね」
アメリアはそう言って、隣に立つマークをじとりと睨んだ。
「何のことでしょう?」
「そういう態度が気に食わねーですわ」
にっこり。
「第一皇子は優秀すぎましたもの。
まだ皇位を譲る気もない皇帝陛下からすれば、自分以上の勢力を持ち始めた皇子を警戒するのは当然ですわ。
優秀だから皇位が継げると調子に乗りすぎたのが敗因ですわね」
だからこそ。
皇帝は第一皇子の管理下に置かれない人間を必要としていた。
「そして貴方は……」
そう言ってアメリアはマークに視線を向ける。
「最初から皇帝陛下の命令でウィル皇子を守りながら、第一皇子を監視していた――違いまして?」
「え!?」
「そうなのか!?」
ウィルとゲオルグが同時に声をあげた。
しかしマークは涼しい顔のまま、アメリアを見つめ返した。
「さて。何のことでしょう」
「あら、わたくしが気づかないとでも?」
アメリアが目を細める。
「新聞をわざと置いていったことも、わたくしをこの国へ連れてきたことも、全部説明して差し上げても――」
しゃらり。
マークがアメリアの手のひらに、宝石を一つ落とした。
「旅の餞別です。アメリア嬢。道中お気をつけて」
アメリアは宝石を光にかざす。
「…………」
「…………」
「OKですわ!! この件については綺麗さっぱり忘れて差し上げますわぁぁぁぁ!!」
「現金すぎるだろ!!」
ウィルの叫び声が響く。
「それでは皆様、ごきげんよう!」
アメリアはくるりと背を向けた。
「この世にはまだまだ知らない事件も、謎も、面白いことも、穿り返せば眠っているはず。
娯楽もなくて暇ですし、好奇心の赴くまま、気の向くまま、首を突っ込んでまいりますわ」
そして振り返り、いつものように扇子を広げる。
「どんな企みが待っていようとも――」
にまぁ。
「すべてお見通しにして差し上げますわぁぁぁぁぁ!!」
そうしてアメリアは、新たな旅へと歩き出すのだった




