14話 これはトラップですわぁぁぁぁぁ!!
「演劇?また面倒な行事があるんだな」
早朝。ウィルは自室で今日の予定をマークに聞きながらお茶を飲んだ。
「帝国の成り立ちを舞台にしたものです。処女航海にふさわしいものだと思いませんか」
と、ティーカップを置きながら言うマーク。
マークの言葉にアメリアが「さすが魔法のある世界は違いますわね」とぼやき「まるで魔法のない世界をご存じのような口ぶりですね」と突っ込まれている姿をウィルはぼんやり見ていると、コンコンと扉がノックされる。
「どうかしましたか?」
扉を開けるときたのはマークの部下らしく何やら話し込み――
「昨日、演劇の控室のウィル皇子の部屋のあたりを第二皇子が一人でいたのを目撃したという報告がありました。念のため、先に行って部屋を確認しておきます。演劇ホールのある区画は夜には通路が混むことになりますので、皇族は少し早めの夕方に控室に待機することになります。ウィル皇子は時間通りに来て下さい」
と、部屋をでていった。
***(夕方)***
「何か仕掛けてくると思うか?」
演劇の開始を待つためのVIPルームに行く道中、ウィルが問う。
「仕掛ける状況としては最高ですわ。航海中ですから現場検証の専門家はいない、証拠隠滅は海にポイ捨てすればいいだけですもの」
「この航海中さえ乗り越えてしまえばうやむやにできるってわけか。怖いな」
ウィルのセリフにアメリアはにんまりする。
「その通りですわ。敵・味方関係なくなる美味しい状況だと思いませんこと?」
「敵・味方関係なくって……まさかお前変な事たくらんでないだろうな?」
ウィルがうめいたその瞬間。
「きゃぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
悲鳴が響き渡る。
「なっ!!」
ウィルがアメリアとともに慌てて悲鳴の方にいくと、VIPルーム周辺にできる人だかり。ドアの空いた部屋の前で兵士たちが慌てて腕をあげてて「こっちに来るな!」と指示をだしている。
が、もちろんアメリアがそんな指示を聞くわけもなく、兵士たちの制止をふりきってウィルとともにドアの中を覗きこむと――
そこには落ちたシャンデリアと飛び散る血痕。
そして血だらけになった女性に自らのマントをかけて顔を隠しているマークの姿があるのだった。
「どういうことだよ……」
シャンデリアの下敷きになった椅子とテーブル。
血や何かがが飛び散った床や壁。
そしてマントをかけられたドレスを着た女性――。
顔は見えない。が、おそらく第二王妃だろう。
救護班を呼ぶべき状況で呼んでいないということは……
ウィルがマントの女性に向けていた視線をマークに移すと
「大変申し上げにくいことですが……」と首を横に振った。
飛び散った何か、から推察するに……つまりはそういうことなのだろう。
「何があった!!」
兵士をかき分けて、現れる第二皇子。
その後ろには第一皇子や第二皇子と第一皇子の護衛もいる。
第二皇子は部屋の中と置かれた女性のそれを確認すると
「母上!!」
慌てて近寄ろうとして
「動くな!!!!」
マークの怒号で止められる。
「な!?」
「ふざけるな!!俺の母上だぞ!!」
第二皇子がかまわず近づこうとして、兵士にその動きを止められた。
「離せ!!貴様何の権限があって!!」
第二皇子が、兵士の抑止を振りほどこうとするが屈強な騎士二人に両腕を掴まれているため、振りほどけない。
「……これはどういうことかな。マーク伯爵」
部屋の中を確認して、第一皇子が目を細めた。
「見ての通りです。シャンデリアが落ち、第二王妃が下敷きになりました」
マークはそういって、ウィル、第二皇子、第一皇子と、順々に視線を移し――息を吸う。
一瞬の沈黙。
「よって、この場においては皇帝陛下より任じられた勅命監察官のこの私の指示に従っていただきます」
そう言って、マークが取り出したのは―黄金の獅子の紋章。
皇帝陛下の勅命を受けた者だけが所持を許される特別な証だった。
***
「父上の勅命……だ、と?」
第二皇子が衛兵に動きを封じられながら呻いた。
「私はこの航海における皇帝陛下の勅命監察官です。
よって、重大な事件が発生した以上、現場の保全と調査については私の指示に従っていただきます」
「なるほど。君がその立場に選ばれていたということは僕も試される側だったということかな」
第一皇子がふむとうなずく。
管理責任者の第一皇子ではなくマークが選ばれたのはそういうことなのだろう。
「ふざけるな!!母が無事かも確認できないなんてことが!!」
第二皇子が吠える。
「すでにお亡くなりになっており、確認に意味を見出せません。
そしてこれは事故ではありません」
マークの言葉に部屋の中が一瞬、沈黙訪れる。
「事故じゃないって……どういうことだよ?」
やっと声をだしたのはウィルだった。
そう――事故ではない。それが指す意味は一つでしかない。
「何者かが故意に事故を誘発した――殺人事件です」
「殺人事件って、そもそも第二王妃が死んだというのは本当なのかい?」
第一皇子がマークのマントをかぶって横たわっている女性に視線を向けて問う。
「ええ、脈もなく心臓も動いていませんでした。
……そして何より、どう見ても生きていられる外傷ではありませんでした」
その言葉にウィルがごくりと息をのんでアメリアのスカートを掴む。
「殺人事件なんて信じられるか!!
どうせシャンデリア設置の不備を誤魔化して第一皇子の罪を不問にしたいだけだろう!
俺は騙されないぞ!!!」
第二皇子は納得できないのか、兵士に手を振りほどいてマークに詰め寄るが――
「いいえ。これはシャンデリア設置の不備などではありませんわ。」
詰め寄る第二皇子を止めたのは――アメリアだった。
視線が集まる。
「お前も第一皇子側の人間だろう!信じられるか!
大体事件なんて何を根拠に言ってるんだ!!」
第二皇子の叫びにアメリアはにやりと笑うと
「それでは、証明してみせましょう。これが事故ではなく―――仕組まれた罠。
シャンデリアトラップだということを」
そう言って、アメリアはシャンデリアの照明部分のガラスを拾い、皆の前につきつけるのだった。




