13話 怪しいですわぁぁぁぁぁ!!
「で、彼女どうやってこの船に乗り込んだかわかったかい?」
第一皇子が取り調べを受けている、クラリスをガラス越しに見ながらマークに問う。
「クラリスの叔母の紹介だと証言しております」
「身元の怪しいものはいれるなって厳重注意していたはずなんだけどなぁ」
「その条件が貴族限定となり、幅を狭めてしまったのかもしれません…が
窃盗の容疑があった者が、皇族専用の部屋の掃除担当になったのは問題ですね」
マークが目を細めて言う。
クラリスが入ろうとしたのは第三皇子が演劇の舞台が始まるまで待機するVIP部屋。
もっと厳重に注意すべき案件だった。
今回は経緯を調べる必要のある案件だろう。
「クラリスは皇族用の部屋に入ろうとしていましたの?」
アメリアが聞くとマークが頷いた。
「その話もう少し丁寧に教えていただけるとありがたいですわ」
そういってマークに微笑むアメリアの目は――笑っているようで笑っていなかった。
****
「で、どうして今日は伯爵がこちらに?」
第三皇子に割り当てられた船室の一室で。
アメリアがマークに問う。
「貴女の妹がこの船にいたのは第二皇子派の貴族の紹介の可能性が高くなりました」
「なるほど。私をウィル皇子から引き離すために仕組んだ可能性があると?」
「はい、確定ではありませんが、可能性がある以上、無策というわけにもいきません。
狩の時のようにウィル皇子の命を狙ってくる可能性が高い。
私なら貴方の婚約者と勘違いされているため、同室しても問題ないでしょう。
私が護衛するのが適任かと」
「なるほどですわ。
でも許可をとるならわたくしではなくウィル皇子……」
アメリアがちらりとウィルを見ると、ウィルはうなだれていた。
「ウィル皇子?」
先ほどまで元気に会話していたウィルの変化にアメリアが疑問をなげかける。
「……アメリアに任せる。俺はちょっとだけ一人になりたい」
「では、この部屋で待機しております」
マークが言うと、ウィルはうなずいた。
一人寝室に向かうと
ばたんっ。
ベッドに倒れこんだ。
ぼんやりと頭に浮かぶのは、母親が生きていたころの朧気な記憶。
幼すぎてはっきりとは覚えてないがそのころは第二皇子とも第二王妃とも仲が良かった気がする。
優しく談笑する母たちの姿が脳裏に浮かんだ。
(俺が邪魔ならまだわかる。
ただ、第一皇子を追い落とすためだけに俺を簡単に殺すってなんだよ)
ゴロン。
寝返りをうったとたん。
――所詮、ウィルなど第一皇子と第二皇子が何かあった時のスペア。
かつて貴族が言っていた陰口が脳裏に浮かんだ。
なんだよそれっ!!!
むかむかと怒りがこみあげて、感情が抑えられなくなる。
うるさい!!うるさい!!――うるさいっっっ!!!
勢いのまま枕をもってそのまま投げつける体勢になり――
ぴたっ。
そこで止まる。
そう、癇癪をおこしたってなにも変わらない。
それは何度も体験したはずだ。
我慢しなきゃ。
――そうだ。
悔しかったらそれでいい。
その怒りを忘れるな。
怒りは悪い事じゃない。
その怒りをちゃんと、力にかえて、やり返すことを考えろ。
『怒りは素晴らしいですわ!!その感情から出たパワーをうまくコントロールできればどんな甘美な言葉でおだてられるよりも、自分の欲求すら凌駕する行動力につながるのですから!!』
かつてアメリアが言った言葉。
そう――怒りから生まれた感情はコントロールしにくい。
でもコントロールできれば力になる。
何度も心の中で言い聞かせて息をすってはーっと吐きだし、ウィルは思う。
アメリアーーー。
(やっぱり普通に考えてあの女やばいやつだよな……)と。
***
「で、ウィル皇子の護衛だけが本当にあなたの目的なのかしら?」
ウィルに割り当てられた区画。ウィルの寝室の隣の部屋でマークと二人きりになって、アメリアがグラスを傾けるとマークは目を細めた。
「何のことでしょう?」
「ここまで来て、しらばくれるのはどうかと思いますけれど」
そう言ってアメリアは以前マークが部屋に忘れていった新聞を差し出した。
指さす先には事件の記事がある。
「さて、何のことでしょう」
そういってグラスの水を飲むマークにアメリアは少し不機嫌になった。
「癪にさわりますわね。そのヒントをくれてやっている感が」
アメリアが上目遣いで睨みながら笑うと
「ええ、ですがこれで私の立ち位置も貴方なら理解してくれていると信じていますよ――期待の新鋭作家様」
と、マークも笑って応えた。
***
カラン。
グラスの氷が鳴った。
演劇用に用意されたVIP部屋――第二王妃は窓際に立っていた。
手にはグラスと夜にはじまる演劇の演目表。
それを見ながら第二王妃は目を細める。
――うふふ。
――すべて計算通り。
今夜憎い第三皇子を片付けて、第一皇子を失脚させる。
皇位は愛しい第二皇子のもの。
先ほど第三皇子がVIPルームに向かっているという報告が入った。
――もうすぐすべて終わる。
第三皇子は死に、安全管理を理由に第一皇子は罪に問われることになるだろう。
「私は高見の見物をするだけだわ」
そういって優雅にソファに腰を下ろし、
「あとで愛しいあの子と乾杯しないと」
第二皇子が皇位についた瞬間に思いを馳せ笑顔を浮かべる。
「そのためには――死んでもらわないとね。
さようなら。第三皇子」
そういってコップを掲げた瞬間。
しゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
何かがすれる音が聞こえ――。
がしゃりんと――盛大な音をたてて、どこかでシャンデリアが落ちた。




