12話 舞踏会で着飾るのは淑女の嗜みですわぁぁぁぁぁ!!
「ちょ、めちゃくちゃ豪華だな」
「おーほっほっほっほ!!舞踏会に着飾るのは淑女としての嗜みですわ」
(後に引けなくなった王妃がどうでてくるか)
「にしても、派手な格好だな」
「当たり前ですわ。今回はメイドとしてではなく、一令嬢として参加ですもの。
わたくしの美貌にあう正装をしてこなければ失礼ですわ。
このわたくしの美しさに対して!!」
「……。いや、まぁ。うん」
「素でドンびくのはやめてくださいまし」
……まぁ、本来、一メイドが来れる場所ではないのですけれどね。
***(二ヶ月前)***
「わたくしを豪華客船の就航記念航海に正式に招待ですの?」
ウィルの自室で。メイドなのにいつものごとくウィルとお茶をしていたところに、第一皇子が招待状をもってきた。
「うん。できればぜひ参加してほしいな。
この豪華客船は僕が何年もかけて手がけた事業だからね。
第二王妃としては失敗させたいはず。何か仕掛けてくるのは明らかだ。
ウィルの護衛についていてほしい」
「やったな!アメリア」
無邪気に喜ぶウィルと、ニコニコ笑う第一皇子。
その後ろで無表情で後ろ手を組むマーク。
「なるほどですわ。その招待全力でのっからせていただきますわ」
そう言って頷いたアメリア。
そして現在に至る。
(帝国を挙げての事業ですから、舞踏会も豪勢ですわ――さて、この舞台で一体何が起きるのかしら?)
アメリアは嬉しそうにほくそ笑んだ。
***
「王妃様、王妃様のお兄様が逮捕された今、もう計画はやめたほうがいいのでは?」
船内に用意された王妃の自室で。
おずおずと、王妃付きの侍女が進言する。
「何を言っているの!?何年も前からこの計画を用意していたのは貴方だって知っているでしょう!?ここで引くわけにはいかないわ」
そう言って、王妃が視線を落としたその先には――、船内で行われる劇場の隣に用意された控室のカギがあるのだった。
***
「伯爵と婚約したという噂は本当だったの?」
「あんな弱小国の令嬢が」
「シンデレラストーリーだわ」
船内のパーティー会場の中を覗ける甲板。
彼女たちの視線の先には優雅に踊るマーク伯爵とアメリアの姿がある。
(ほ、本当に伯爵と結ばれていたなんて)
令嬢たちがきゃっきゃっと眺めるその後ろで、ホウキを持ったメイド姿の女がわなわなと震えていた。
(なんであの小憎たらしい姉が、帝国主催の処女航海式の舞踏会に呼ばれて、私はみすぼらしくウエイトレスとしての参加なのよ!!)
そう――。
結局あの時、大公妃の追及を逃れることができず王族の宝石を盗んだと国外追放されたのだ。
――帝国の貴族に求婚された姉。
――それに比べて私はどう?
――辺境国に追いやられてメイドにさせられて、あげくに下働き。
ホウキをぎゅっと握る。
視線の先にはガラス越しに踊る貴族達の姿。その中には憎き姉までいる。
――本来、煌びやかな舞台にふさわしいのは私クラリス。
――あんな底意地の悪い女がいていい場所じゃない。
許せない。
許せない。許せない。許せない。
クラリスがわなわなと震えていると。
ガシャン。
唐突にグラスの割れる音が聞こえ、そこにはワイングラスをたたきつけた令嬢の姿がある。
「私がマーク伯爵と添い遂げるはずだったのに!!
マーク伯爵があんな品行のない女性と婚約なんて、許せないわ!!!」
グラスをたたきつけて叫ぶ令嬢。
その姿に――。
クラリスはにまぁっとほほ笑んだ。
「伯爵様の婚約者と浮かれていらっしゃるようですが。行いに問題があるのでは?」
船内のパーティー会場。
先ほどクラリスがたきつけた令嬢がアメリアに問いかけた。
「あら、何のことですの?」
アメリアがワインを片手に微笑むと
「ハキーノ王国での悪行がこちらの耳にはいっていないとでも?
アルベルト皇太子殿下の催した式典にそのような犯罪者がいるのはどうなのかしら」
そういって、わざと周りに聞こえるように、一歩一歩わざとらしくアメリアに近づく。
「ハキーノ王国では他の貴族が開催するお茶会におしかけ、他の令嬢にワインをかけたり、契約がまとまりそうな貴族の間に割ってはいって、契約そのものを乗っ取ったり悪行の限りをしたとか」
その様子を会場内の柱の陰からクラリスはにんまりとしながら見ていた。
――うまくいったわ。
クラリスが教えた過去の悪行を令嬢が指摘するたび、会場からは「ひどい」「噂通りあまり褒められたお方ではありませんわね」「伯爵はなぜこんな人を?」
と、貴族たちのヒソヒソになっていないヒソヒソ声が聞こえてくる。
悪口が心地よい。
―― そうよ!
―― 姉は皆に叩かれているべきなのよ!!
―― 一人だけ幸せになるなんて許せない!!!
これだけ悪行をばらされたらさすがのマーク伯爵も愛想をつかすはず。
家から追い出された自分と同じ運命になるのよ――と、わくわくしながらクラリスがマークに視線を向けると、マークはつかつかと悪口を言っている令嬢に歩み寄った。
「おや、私はそれを承知のうえで婚約しました。
相手にふさわしいかふさわしくないか他人の貴方にとやかく言われる筋合いはありませんが」
と、ほほ笑むマーク。
――え?ちょっと何言ってるの?
――嫌いになるのが普通でしょ!!
――人前で悪口を言って嫌がらせする女のどこがいいのよ!
「え? で、でも人に嫌がらせをやっていたご令嬢ですよ!この女は!
お茶会で悪口を言いふらし、他人を貶めた女のどこがいいのです!!」
令嬢がアメリアを指さすが、マークが冷たい目で見降ろして
「ふむ。確かに。それはひどいかもしれません」
と、ちらりとアメリアを見る。
――勝ったわ!!
クラリスが勝利を確信した瞬間。
「ですが、貴方が今、私の=ルタリーナ=(親愛なる人)にやっていることと何が違うのでしょう?」
――は?
「え……?」
アメリアを追及した令嬢が一歩たじろぐ。
「他者の悪評をばらまくのはよくないと言いつつ、今貴方がやっていることが、まさにそれだと思うのですが違いますか?」
「え、でも……確かに聞きました……し」
「マーク伯爵様。
相手にするだけ無駄ですわ。
他人を貶める事に快楽を得るタイプの方に正論など無意味ですわ。
彼女の中では自分が他者を追及するのは“証拠がなくても”正義。
けれど自分の悪いところを指摘してくるやつは、悪いやつをかばっていて正義を邪魔してくる愚か者と脳内変換してくる方に、正論は何の意味ももちませんから」
アメリアがにっこりと言う。
途端――ざわりと空気がかわる。
「確かにアメリア嬢の言うことにも一理あるわ」
「こんなところでなんの確証もないのにこんな目立つことをして相手を貶めるなんて……貴族としてどうなのかしら」
「そう言えばあの令嬢、確かマーク伯爵の事好いていましたわよね?」
「まさか悔しいからってあんなことを?」
今までアメリアを責めていたはずの会場が一気に令嬢の方を責める空気にかわったのだ。
――違う。
――違うわ!!こんなはずじゃ!!
クラリスがハラハラと令嬢に視線をむけると
「わ、私はそんな私怨で動いたわけではありませんわ!!!
大事な就航記念航海にそのような令嬢が参加していたら、皇太子殿下にご迷惑がかかると……」
令嬢が会場に訴えるかのように言いかけたその瞬間。
「僕が招待したんだから、何の問題もないんじゃないかな」
令嬢の言葉を遮ったのは――他でもない第一皇子だった。
――どうしよう。どうしよう。どうしよう。
第一皇子の登場で、会場の空気が一気にかわる。
クラリスが焚きつけた令嬢はフリーズしたかのように固まり、どう見ても分が悪い。
――早く逃げなきゃ!!
クラリスが逃げようとしたその瞬間。
「あ、あの女です!!私!!あの女がアメリア嬢はひどいと吹き込まれただけなのです!!」
クラリスは令嬢に指をさされてしまうのだった。
はっ。はっ。はっ。
全速力で走っているせいか息が苦しい。
(なんで私がこんな目にあわないといけないのよ!!)
人をかき分け甲板を走りながらクラリスが心の中で毒づいた。
特に犯罪をしたわけではなかったので、兵士たちもどうするべきかと一瞬迷ってくれた。そのため兵士が動くのが若干遅れ、かなり距離を離すことに成功はしてはいた。
けれど。
遠くで「待てー!」という声が聞こえているので追手がないわけではない。
――どうしよう!?
――どうしようっ!!なんとか逃げないと!
クラリスが思った瞬間。
がちゃがちゃ
ポケットでなる金属音。
エプロンのポケットに入れていた鍵があることに気が付く。
(これだわ!?
甲板の掃除が終わったら、掃除しておけと頼まれた部屋に隠れればいいのよ!
確かここのすぐ近くのはず!)
一度メイド長に案内されているので間違いない。
甲板から船内に入り階段を降りややこしい通路を走り抜ける。
声はもう聞こえてきていない――
(これなら逃げ切れるわ!!)
クラリスが階段から降りた先――盾のエンブレムのついた扉が視える。
(あったわ!!!
ここは明日演劇の待合で使う予定だけど、明日の昼までは誰も使わないって!!ここに身を潜めて騒ぎが収まるのをまつしかないわ!)
そう思って、クラリスがカギを開けようとしたその瞬間。
鍵を差し込んでも――回らない
(え、なんで!? この部屋で間違いないのに!!)
「おい!!!貴様何をしている!!!」
屈強な兵士に急に肩を掴まれる。
「え?な、何って掃除を……」
「この部屋は第三皇子ウィル様が使う部屋だ!!ちゃんと身分証を提示しろ」
兵士の言葉に
「へ?」
クラリスは一瞬固まり
「まてー!!!そいつを捕まえてくれー!!」と後から追ってきた衛兵の声で、兵士にさらに肩を強くつかまれる。
「ゆっくり話を聞こうか?」
言う兵士。
「なんで私がこんな目にあわなきゃいけないのよぉぉぉぉぉ!!」
クラリスの絶叫があたりに響くのだった。




