第四章 半数が潜む「ノーペナルティ」の海
文化人類学において、数字は嘘をつかない。世間がどれほど「不倫は倫理に反する」「浮気は許されない」と声を大にして叫ぼうとも、統計という冷徹な鏡は、人間の隠された行動様式を容赦なく炙り出す。
ある最新の調査データによれば、日本の既婚男性の約半数。実に四六・七%が、結婚後に配偶者以外の異性と関係を持ったことがあると回答している。別の広範な意識調査にいたっては、「過去に不倫したことがある」「現在進行形でしている」を合わせた経験率が、男性で六割を超え、女性でも約半数に達するという驚くべきデータすら存在する。 つまり、この国のマジョリティ、あるいはそれに限りなく近いボリューム層が、配偶者の目を盗んで別の誰かとシステム外の接続を試みているのだ。
「日本人の半分は、私と同じ側の世界にいる」
私は大学の研究室で、液晶画面に映る統計グラフを眺めながら、満足げに口元を歪めた。世の不倫体験談や週刊誌のスキャンダルがこれほど溢れ返っているのは、それが特殊な悪人の奇行だからではない。ありふれたありのままの人間行動だからだ。だが、私と彼らの間には、決定的な、そして深すぎる断絶がある。彼らは半分の側に身を置きながらも、その多くが罪悪感に苛まれ、あるいは初歩的なエラーによって本拠地:家庭を崩壊させている。スマートフォンの画面を見られた、レシートを残していた、車の助手席のシート位置が変わっていた。そんなお粗末なセキュリティホールからバグが露見し、手痛い慰謝料や破局を支払わされているのだ。
「愛や情緒に流されるから、そうなる」
彼らは隠蔽のプロではない。ただの欲に負けた素人だ。だから、数式が狂う。私にとって、この「日本人の約半分が浮気をしている」という統計データは、免罪符などではない。むしろ、これほど多くの人間が潜む巨大な隠蔽の海の中で、自分だけが完全なる無傷、すなわち〇・〇〇%の不審感を維持し続けるための、極上のエビデンスだった。誰もがエラーを犯す世界だからこそ、私の組んだ秒速の全裸脱出アルゴリズムや、一ミリの死角も残さないデバッグの価値が際立つ。世間がどれほど混沌に満ちていようとも、私はその半数の海を優雅に泳ぎ切り、定数B:妻の待つ港へと、今日も何食わぬ顔で帰還する。私の数式は、この膨大な統計データすらも、己の完全性を証明するための美しい変数へと昇華させてみせるのだ。




