プロローグ編010/悪意の痕跡
『ふふ・・・うふふふ・・・
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ・・・
さぁ・・・
そろそろ・・・始めようかしら・・・
私は全力を出さない。
全力を出せばあなたはすぐに消し飛ぶ。
消えてしまう。
だから、ほんのちょっと・・・
ほんの少しずつ、あなたを苦しめてあげる・・・
死なない様にギリギリ・・・苦しむ様にしてあげる・・・
だから必死でもがいて。
苦しんで・・・
苦悶して・・・』
邪悪な声が響き渡る。
聞いている者は居ない。
ただ空しく響く独り言だ。
この独り言の主・・・
それは、生前、【東雲 紫乃】と呼ばれた【遺体タイプ】の【ラスラスボス】/【シュトゥアイトゥアイ】だ。
彼女は【恭侍】を苦しめる事に喜びを見いだしている。
彼女が最初に目をつけたのは・・・
「ったく・・・
ふざけんじゃないっての・・・
私を何だと思ってんだ、ゲス野郎っ
ひっく・・・
私を甘く見るんじゃないわよ・・・」
とつぶやく、【キャバクラ】のホステス、【朱美】である。
つい、先日、【恭侍】が【吟侍】と【奏多】を連れて彼女の店に来店したが、【朱美】の皮肉に空気が凍り付き、【吟侍】が店を変えようと言って出て行ってしまった。
【朱美】としては、【吟侍】をきっかけとして【恭侍】と【セフレ】として復縁したかった。
が、【恭侍】は、【朱美】の事は全く眼中に無く、適当にあしらわれたと思ってショックを受けたのだ。
【恭侍】に謝って欲しい・・・とは思わないまでも、
「お前が俺には必要だ」
とか、
「お前との関係が最高だ」
とか、
「お前を抱きたくなった」
とか言って欲しかった。
そんな時、
「ばぁ~か。
あんたなんか相手にするかっての」
とか
「えぇ~?
どうしようっかなぁ?
私、結構ショックだったのよねぇ~」
とか拗ねたりして、【恭侍】に、
「頼むよぉ~。
お前が欲しいんだ」
とか、
「ごめん。
謝るから許してくれ」
とか言われたりして、もう少し引っ張った後、ほだされた様に許す事を夢見ていた。
だが、そうはならなかった。
全くあっさりと袖にされた。
その事を恨んでいた。
そこへ・・・
《ふふ・・・うふふふ・・・
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ・・・
お前の気持ち・・・
よくわかるよ。
お前の様にあの男に泣かされた女は山ほどいる。
仲間を集めなさい。
そして、あの男に復讐してやるのよ。
あの男には女難の相がある。
そして、お前達が復讐者。
あの男に死の鉄槌を。
さぁ・・・
立ち上がりなさい。
あの男に復讐を。
さぁ・・・》
と言う誘惑の声が頭に響いた。
【朱美】は、
「だ、誰?」
と怯えたが、
《怯える事はない・・・
お前に復讐の力を与えよう。
お前の身体は明日には腐って崩れ落ちる。
そうならないためには、お前の同類を増やせ。
そうすれば、しばらくは身体が持つ。
お前はゾンビだ。
お前の仲間を増やしなさい。
これは命令だ。
拒否権はない。
お前に残されたのはあの男に復讐の刃を突き立てる事。
お前には復讐しか残っていない。
さぁ、動きなさい・・・
死の輪舞曲を踊りなさい》
と頭に響いた。
そんな訳ない。
これは空耳だと思っていたら、身体がかゆくなり、肌が欠けた。
【朱美】は、
「ひいぃぃぃぃぃ・・・
な、何で?」
と恐怖したが、こんな事、誰にも相談出来ない。
人を蹴落として来た彼女にとって家族も含めて相談出来る相手はいない。
唯一の存在・・・となって欲しかったのが【恭侍】・・・だったのかも知れない。
強制的に【朱美】には、【恭侍】への復讐しか残されなくなった。
こうして【ラスラスボス】/【シュトゥアイトゥアイ】の狂気は静かに始まったのだった。




