作法
ヒロは自分の部屋に戻ると上着をベッドの上に投げ捨てるように放った。
「くそ、なんで俺がこんな格好を!!いっ、痛い!!」ベッドの角を思いっきり蹴ったら小指に当たり強烈な痛みが脳天まで駆け抜ける。
その痛みを誤魔化すように何度もピョンピョンとジャンプしながらベッドの上に倒れ込んだ。
深くため息をついてからベッドの隣を見るとなにやら見たことの無い家具が置かれている。朝部屋を出る時にはそれは無かったはずであった。
ヒロはベッドから起き上がると、その家具の前に立つ。どうやら家具の上部が動く仕組みになっているようである。ヒロは上部に手をかけてから手前に引いた。
「か、鏡か……?」それは三面鏡であった。その鏡を覗き込むと、化粧をした女が色々な角度で写っている。洋服の試着や化粧をしている時は、恥ずかしくて自分の姿をまともに見ることは出来なかったが、今初めて自分の姿を直視した。
「これが……、俺の顔なのか……?」ヒロはゆっくりと自分の顔に触れる。もちろん鏡の向こうに映るヒロも同じように顔を触った。そこにはいつも埃や泥で薄汚れたいつもの自分はいなかった。そこに居るのは美しく若い女の姿だった。引き出しを開けると、口紅や頬紅などの化粧品が置かれている。ヒロは右手で口紅を掴むとゴクリと唾を飲み込んでから、自分の唇にラインを引いた。
「な、なにをやっているんだ!俺は……!」我に変えると掴んでいた口紅を引き出しの中に投げ入れた。
「オリオン様!オリオン様!!」ヒロは怒り心頭でオリオンの部屋のドアを叩く。
「どうしましたか?ヒロ君」オリオンはゆっくりと扉を開く。
「いくらなんでも悪戯が過ぎます!」ヒロは不当な扱いを抗議しているようだ。
「怒った顔も可愛いですね」オリオンはヒロの言い分を無視するかのように微笑んだ。
「な、なにを、言うのですか……!」ヒロは赤くなって何も言えなくなった。
「そういえば今晩祭りがあるそうですよ。カルディアさん達と一緒に行きませんか?」
「……、カルディアに聞いてみます……」完全にヒロの敗北であった。
今晩は、バーブンの街の収穫祭だそうである。収穫祭と言うのは実際は名ばかりで夜通し踊り明かして気のあったカップルが求婚するというイベントだそうだ。
カルディア達も面白そうだと喜んでいた。ヒロはくれぐれも女性の仕草を心がけるようにとオリオンから釘を刺されている。
「ヒロ様、がに股ダニよ!もっと足を閉じるダニよ!」イオがアドバイスをする。
「えっ、!こ、こうか!?」ヒロは周りに歩いている女性の歩き方を盗み見て真似をする。
「どうして、私の真似をしないのよ!?」その様子を見てカルディアが怒る。
「だって、お前もがに股じゃないか!俺の参考にならん」
「な、なんですって!!」カルディアは顔を真っ赤にして怒っている。
「俺もダメですちゃ!私、自分の事は私ですっちゃ」アウラが突っ込む。
「あ、ああ、そうか!私、私だな」ヒロは何度も繰り返す。
その、様子を少し離れた後ろから見ているオリオンがふきだしそうになっている。
「ヒロ様はダンスは出来るのですかなの?」カカが聞いてきた。
「お、ダンスか……、ま、まぁなんとかなるだろう」勿論、ヒロはダンスを踊った事など一度もなかった。
「し、仕方ないわね。ダンスくらい私が教えてあげるわよ」カルディアが口を開いた。
「えっ!?お前ダンスできるのかよ!」
「ヒロ様、ヒロ様!そこはあなたはダンスできるの?ダニ!」イオの指導が入る。
「あっ、そうか……!あなたはダンスを踊れるの?……って、普通に話をさせろよ!!」
それを聞いてカルディアとアウラ達は爆笑した。
「あっ!お前達!俺をからかいやがって!!」
「だから、私、私ですっちゃ」またアウラの指導が入る。
「ふん!」ヒロは拗ねたような顔をした。
「か、可愛いい~」そのヒロの仕草を見てアウラが身震いしながら叫んだ。
「オリオン様、もう勘弁してくださいよ」ヒロはオリオンに泣きを入れるが、相変わらず彼は微笑んでいるだけであった。




