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金田はモニターを見つめたまま、小さく息を吐いた。
「でも、見る限り……厄介な事件の中でも、これは――」
そこで言葉を切る。
珍しく、金田の表情から余裕が消えていた。
「なんです?」
木下が問いかける。
金田はゆっくりと二人へ向き直った。
「僕らみんな……下手したら死ぬ」
その一言で、部屋の空気が凍りつく。
「い……いやだよ……」
森田の顔から笑顔が消え、怯えたように木下の腕を掴む。
木下は金田を真っ直ぐ見つめた。
「説明してください」
しかし金田は首を横に振る。
「無理だ」
そう言うと、机の上に置かれていた防犯カメラの記録媒体を手に取る。
「あとは僕に任せて、君たちはこの件から手を引くんだ」
「金田さん!」
金田は振り返ることなく部屋を出ていく。
「待ってください!」
木下は慌てて廊下へ飛び出し、その背中を追いかけた。
「一体、何が起こってるんですか!?」
金田は足を止める。
「水谷くんは……普通の子じゃないんですか?」
しばらく沈黙が流れる。
やがて金田は静かに振り返った。
「木下くん」
「はい」
「モラルスリップって言葉、知ってる?」
「……すみません。分かりません」
金田は廊下の窓から夜の街を見つめながら、ゆっくりと話し始めた。
「人は普通、善悪の境界線を越えることに強い抵抗を感じる。人を傷つける、物を盗む、命を奪う。そういう行為には"心のブレーキ"が働く」
金田は自分の胸に手を当てた。
「そのブレーキ……つまり道徳や倫理が、何らかの理由で完全に壊れてしまう人間が、ごく稀に存在する。小さな罪から始まり、やがて大きな罪に…行動が徐々にエスカレートしていくんだ」
木下は息を呑む。
「それが……モラルスリップ」
金田は話を続ける。
「そして、さらに稀なケースでは、その"道徳を踏み外した行為"そのものが、人知を超えた現象を引き起こすことがある」
木下の脳裏に、防犯カメラの映像が浮かぶ。
瞬間移動した水谷裕太。
水谷の自宅が燃えた直後にその力を得たであろう少年。
点だった出来事が、一本の線で繋がり始めていた。
「つまり……水谷くんは」
金田は木下の言葉を遮るように、小さく頷いた。
「普通の少年ではない」
その声には、経験者だけが知る重みがあった。




