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モラルスリップ  作者: Yem
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10/22

10

 木下は金田の前に立ち、深く頭を下げた。

「一緒に……水谷くんの事件を担当させてください。お願いします」


廊下に静寂が流れる。


金田は困ったように頭をかき、小さくため息をついた。


「君はさ……話だけじゃ通じないタイプ?」


「え?」


「ここだけの話~」


金田は周囲を見回し、誰もいないことを確認してから続けた。


「前にヤクザの組へ潜入捜査したことがあってね」


木下は黙って聞いている。


「そこで学んだんだよ。人を暴力で支配する方法」


その言葉に木下の表情が曇る。


「人はね、優しい言葉だけじゃ止まらないこともある。痛い目を見ないと引き返せない人間もいる」


金田は真っ直ぐ木下を見つめた。


「僕は優しいから、今、君をこの事件から遠ざけようとしてる。暴力を使わずに、言葉を使ってあげてるんだ。わかる?」


木下はゆっくりと首を横に振る。


「……それでも」

拳を強く握り締める。


「俺は水谷くんを助けたいんです!」


金田はしばらく黙っていた。

やがて静かに口を開く。


「木下くん」


「はい」


「君のことは全部、調べてある」


木下の表情がわずかに変わる。


「君は幼い頃に両親を亡くしているね」


胸の奥がざわつく。


「……それが、この事件となにか関係あるんですか」


金田は答えない。

木下は一歩踏み込んだ。


「俺の両親を殺した人間……超能力を持った人物が犯人だったとでも言いたいんですか?」


廊下に沈黙が落ちる。

金田は窓の外へ目を向けたまま、小さく呟いた。


「犯人は、今も捕まってないみたいだからね~、その可能性はある」


木下は息を呑む。


「俺は……ただ知りたいんです」


金田がゆっくり振り返る。


「能力のこと……それに関わる事件を!」


木下の目に迷いはなかった。


「何より、水谷くんを放っておけない」


その真っ直ぐな瞳を見つめ、金田は困ったように笑う。


「……やっぱり、止めても無駄かぁ~」


そう呟いた金田の表情には、どこか諦めにも似た色が浮かんでいた。





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