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モラルスリップ  作者: Yem
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7/22

7

 ――同じ頃。

街外れにある、誰も近づかない廃墟。

割れた窓から吹き込む風が、錆びた鉄骨を軋ませていた。

その薄暗い建物の中央で、一人の少年が肩を震わせていた。


「……ふふ」

やがて笑いは大きくなる。


「あはは……!」


水谷裕太は両手を広げ、誰もいない廃墟へ向かって叫んだ。


「すごい……俺、超能力者じゃん!」

興奮で息を荒げながら、口元を大きく歪める。


「悪いことをすればするほど……思った通り、新しい能力を手に入れられるんだ!」


脳裏によみがえるのは、自宅に火を放った時のことだった。

朝、父親が火のついたタバコをゴミ箱に捨て、家を出ていく。

裕太はそのゴミ箱の中にアルコール度数の高い酒をしみこませたティッシュを入れ、

燃え広がる炎を背に、その場から立ち去った。

そして間もなく、自分の身体に異変が起きた。


手のひらが熱を帯び、意識を向けた瞬間――。

炎が生まれた。



「この火の力……」

水谷は両手を前へ突き出す。


ボッ。


手のひらの上に、小さな炎が揺らめいた。

その赤い光が、水谷の笑顔を妖しく照らす。


「万引きした時は……瞬間移動だったな」


そう呟くと、水谷の姿がふっと消えた。

次の瞬間には、廃墟の二階。

さらに一瞬後には、廊下の奥。

また消え、今度は割れた窓の前。

まるで空間を飛び越えるように、何度も瞬間移動を繰り返す。


「あははっ!すげぇ!」


だが、十数回ほど繰り返したところで、水谷の呼吸が乱れ始めた。


「はぁ……はぁ……」


膝から力が抜け、その場へ崩れ落ちる。

額から汗が流れ落ちていく。


「能力にも……限界があるのか……」


荒い息を整えながら、水谷はぼんやりと空を見上げた。


「親父……今ごろ家が燃えて驚いてるかな」

口元がゆっくりと歪む。


「はは……ざまぁみろ」


その笑みには、喜びよりも長年押し殺してきた憎しみが滲んでいた。


「母さんは俺を捨てて、男と出ていった」

握り締めた拳が震える。


「親父は毎日のように俺を殴った」

水谷はゆっくりと立ち上がる。

そして、自分の手のひらで燃え続ける小さな炎を見つめた。


「でも…」


炎が一瞬だけ大きく燃え上がる。


「最後に勝つのは俺だ」


水谷の目には、狂気にも似た光が宿っていた。


「この能力があれば……誰にも負けない」


廃墟の中に、不気味な笑い声が静かに響き渡った。


「あはははは……!」





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