7
――同じ頃。
街外れにある、誰も近づかない廃墟。
割れた窓から吹き込む風が、錆びた鉄骨を軋ませていた。
その薄暗い建物の中央で、一人の少年が肩を震わせていた。
「……ふふ」
やがて笑いは大きくなる。
「あはは……!」
水谷裕太は両手を広げ、誰もいない廃墟へ向かって叫んだ。
「すごい……俺、超能力者じゃん!」
興奮で息を荒げながら、口元を大きく歪める。
「悪いことをすればするほど……思った通り、新しい能力を手に入れられるんだ!」
脳裏によみがえるのは、自宅に火を放った時のことだった。
朝、父親が火のついたタバコをゴミ箱に捨て、家を出ていく。
裕太はそのゴミ箱の中にアルコール度数の高い酒をしみこませたティッシュを入れ、
燃え広がる炎を背に、その場から立ち去った。
そして間もなく、自分の身体に異変が起きた。
手のひらが熱を帯び、意識を向けた瞬間――。
炎が生まれた。
「この火の力……」
水谷は両手を前へ突き出す。
ボッ。
手のひらの上に、小さな炎が揺らめいた。
その赤い光が、水谷の笑顔を妖しく照らす。
「万引きした時は……瞬間移動だったな」
そう呟くと、水谷の姿がふっと消えた。
次の瞬間には、廃墟の二階。
さらに一瞬後には、廊下の奥。
また消え、今度は割れた窓の前。
まるで空間を飛び越えるように、何度も瞬間移動を繰り返す。
「あははっ!すげぇ!」
だが、十数回ほど繰り返したところで、水谷の呼吸が乱れ始めた。
「はぁ……はぁ……」
膝から力が抜け、その場へ崩れ落ちる。
額から汗が流れ落ちていく。
「能力にも……限界があるのか……」
荒い息を整えながら、水谷はぼんやりと空を見上げた。
「親父……今ごろ家が燃えて驚いてるかな」
口元がゆっくりと歪む。
「はは……ざまぁみろ」
その笑みには、喜びよりも長年押し殺してきた憎しみが滲んでいた。
「母さんは俺を捨てて、男と出ていった」
握り締めた拳が震える。
「親父は毎日のように俺を殴った」
水谷はゆっくりと立ち上がる。
そして、自分の手のひらで燃え続ける小さな炎を見つめた。
「でも…」
炎が一瞬だけ大きく燃え上がる。
「最後に勝つのは俺だ」
水谷の目には、狂気にも似た光が宿っていた。
「この能力があれば……誰にも負けない」
廃墟の中に、不気味な笑い声が静かに響き渡った。
「あはははは……!」




