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木下は燃え盛る家の前まで駆け寄ると、大声で叫んだ。
「水谷くん!」
返事はない。
「水谷裕太くん!」
炎が轟々と音を立て、声を飲み込んでいく。
木下はさらに叫ぶ。
「お父さん!聞こえますか!」
しかし、返ってくるのは木材が崩れ落ちる音だけだった。
火の勢いはあまりにも強い。
家の中へ踏み込める状態ではなかった。
木下は悔しそうに拳を握る。
「くそっ……」
ほどなくして消防車が到着し、サイレンが住宅街に鳴り響く。
消防隊員たちは迅速に消火活動を開始し、大量の放水が炎を飲み込んでいった。
三十分後――。
激しく燃え上がっていた炎は、ようやく鎮火した。
消防隊員が慎重に家の中を確認していく。
焼け焦げた柱。
崩れ落ちた天井。
煙が立ち込める室内を隅々まで捜索していく隊員たち。
「隊長!人はいません!」
その報告に木下は目を見開く。
「誰も……いない?」
その時だった。
「なんだこりゃ!」
怒鳴り声とともに、一人の男が規制線を押しのけて走ってくる。
酒臭い息を漂わせた、水谷の父親だった。
「おい! これはどういうことだ!」
父親は消防隊員へ詰め寄る。
「誰がこんなことしやがった!」
隊員が事情を説明しようとするが、父親は興奮して聞く耳を持たない。
木下は間に入り、男を落ち着かせようとした。
「落ち着いてください」
「落ち着いてられるか!」
父親は荒々しく息を吐く。
木下は真っ直ぐ男を見据えた。
「水谷くんはどこですか」
「あ?」
「水谷裕太くんです。今どこにいますか」
「知らねぇよ!」
父親は舌打ちをする。
「くそっ……誰かが火をつけやがったんだ!絶対にゆるさねぇ!」
「……」
木下はすぐにスマートフォンを取り出し、水谷が通う中学校へ連絡を入れた。
数分後、電話を切る。
「水谷くん、学校に行ってないみたいだ」
と木下が森田の方を見る。
森田が不安そうな表情を浮かべ
「あの!お父さん、裕太くんの携帯番号は分かりますか?」
と水谷の父親に声をかけた。
「んなもんねぇ!」
父親は怒鳴るように答えた。
「ガキに携帯なんか持たせてねぇよ!」
聞き込みは、それ以上進まなかった。
父親は怒鳴り散らすばかりで、有力な情報は一つも得られない。
夕方になり、人だかりも消防隊も次第にいなくなっていく。
木下と森田だけが、焼け跡となった水谷の家の前に立ち続けていた。
「水谷くん……どこに行っちゃったんだろ……」
森田は焼け焦げた家を見つめながら、小さく呟く。
木下は腕を組み、ゆっくりと視線を周囲へ巡らせた。
「手がかりを探すなら、防犯カメラだ」
その一言に、森田の表情が引き締まる。
「映ってるかもしれないね、水谷くん。それで居場所がわかるかも!」
木下は静かに頷いた。
「まずは、この周辺の映像を全部洗おう」
二人は新たな手がかりを求め、再び公用車へ乗り込んだ。




