20
数日後。
木下と森田は、水谷が入所した児童養護施設を訪れていた。
広い庭では、子どもたちが楽しそうに走り回っている。
「裕太お兄ちゃん!」
「一緒に遊ぼう!」
何人もの子どもたちが、一人の少年のもとへ駆け寄っていく。
その中心にいたのは、水谷裕太だった。
以前のような険しい表情はなく、子どもたちに囲まれて優しく笑っている。
その姿を見た木下は、胸をなで下ろした。
「水谷くん!」
森田が大きく手を振る。
水谷は二人に気づくと、笑顔で駆け寄ってきた。
「こんにちは」
そう言って、軽く頭を下げる。
「元気そうで安心したよ」
木下が微笑む。
「水谷くん。今日、君と同じ学年の山田くんから話を聞いた」
水谷は俯きつぶやく。
「山田…」
「君は、山田くんを守るためにあの三人を殴ったんだって」
水谷は驚いたような表情を浮かべる。
「それ、山田が言ったの?」
木下は静かに頷く。
「あの子たちの親にも事情を説明した。
みんな、君に謝りたいって言ってたよ」
水谷は少し俯き、小さく息を吐くと
「そっか……」
と寂しそうに笑った。
「…俺、なんか、全然覚えてなくて……。
気づいた時には、ここにいたから……」
「大丈夫」
木下は穏やかな声で言った。
「無理に思い出す必要はないよ」
そう言うと、ポケットから一通の手紙を取り出す。
「それより……はい、これ」
水谷は手紙を受け取り、不思議そうに見つめた。
「これは?誰から?」
「山田くんから、君へ」
木下は優しく微笑む。
「それじゃ、また来るよ」
「またね、水谷くん!」
森田も笑顔で手を振る。
二人は施設を後にした。
その背中を見送ったあと、水谷はゆっくりと手紙を開く。
『水谷くんへ。
あのとき、助けてくれてありがとう。
ずっと誰も助けてくれないと思ってた。
本当のこと、もっと早く言えばよかった。
勇気が出なかったんだ。
ごめん。
でも、あのとき思ったよ。
君は正義のヒーローだって。
本当にかっこよかった。
僕も君みたいになれるように頑張るよ。
また会おうね。
山田より』
読み終えた水谷は、手紙を胸に抱きしめた。
肩が小さく震える。
「うぅ……」
頬を一筋の涙が伝った。
堪えていた想いがあふれ出す。
嬉しさと、後悔と、救われた安堵が入り混じった涙だった。
遠くからは、子どもたちの明るい笑い声が聞こえてくる。
「裕太お兄ちゃん!」
「早く遊ぼうよ!」
水谷は涙を拭い、小さく笑った。
「……うん、いま行く」
その返事は、これまでで一番優しく、穏やかなものだった。




