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モラルスリップ  作者: Yem
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19/22

19

木下は金田の手首を掴んだまま、まっすぐその目を見つめた。


「この先、同じようなことが起こったら、その度に森田の記憶を消すんですか?」


金田は何も答えない。

木下は続ける。


「森田の気持ちも考えずに」


握る手に力が入る。


「今回だって、森田は事件に巻き込まれてる。何も知らないまま、怖い思いをしたんです」


森田は二人を見つめ、小さく口を開いた。


「私……」


震える声だった。


「頭の中に、水谷くんの声が聞こえたの」


木下が振り返る。


「『ここに来い』って……」


森田は思い出すように目を閉じた。


「それで、気づいたらここに来てた」


一度息を吸い込み、ゆっくりと続ける。


「水谷くん……言ってた。

警察官を襲えば、もっと凄い能力が得られるかもしれないって」


その場に重い沈黙が流れる。

金田は腕を組み、しばらく何も言わなかった。

やがて、小さくため息をつく。


「森田ちゃん」


「はい」


「能力のこと、誰にも言わないと約束できる?」


森田は迷わなかった。

真剣な表情で金田を見つめ返す。


「はい。約束します」


金田はその瞳をしばらく見つめる。

そして、ゆっくりと頷いた。


「…よし」


そう言うと、水谷のもとへ歩み寄り、その身体を抱き起こした。


「木下くん、手伝って」


「はい!」


二人で意識を失った水谷を抱え、車の後部座席へ静かに寝かせる。

ドアを閉める音が夜の静寂に響いた。

木下は金田へ向き直る。


「水谷くんを、どうするつもりですか?」


金田は車にもたれかかりながら答えた。


「後始末は上層部に任せて…、しばらくは児童養護施設で様子見ってところかな」


「児童養護施設……」


「そう。この子を親元へ返すわけにはいかないからね…。

まずは水谷くんが安心して暮らせる場所を用意する。

そこでもう一度、この子の人生をやり直させてあげたい」


その言葉に木下は静かに頷いた。






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