19
木下は金田の手首を掴んだまま、まっすぐその目を見つめた。
「この先、同じようなことが起こったら、その度に森田の記憶を消すんですか?」
金田は何も答えない。
木下は続ける。
「森田の気持ちも考えずに」
握る手に力が入る。
「今回だって、森田は事件に巻き込まれてる。何も知らないまま、怖い思いをしたんです」
森田は二人を見つめ、小さく口を開いた。
「私……」
震える声だった。
「頭の中に、水谷くんの声が聞こえたの」
木下が振り返る。
「『ここに来い』って……」
森田は思い出すように目を閉じた。
「それで、気づいたらここに来てた」
一度息を吸い込み、ゆっくりと続ける。
「水谷くん……言ってた。
警察官を襲えば、もっと凄い能力が得られるかもしれないって」
その場に重い沈黙が流れる。
金田は腕を組み、しばらく何も言わなかった。
やがて、小さくため息をつく。
「森田ちゃん」
「はい」
「能力のこと、誰にも言わないと約束できる?」
森田は迷わなかった。
真剣な表情で金田を見つめ返す。
「はい。約束します」
金田はその瞳をしばらく見つめる。
そして、ゆっくりと頷いた。
「…よし」
そう言うと、水谷のもとへ歩み寄り、その身体を抱き起こした。
「木下くん、手伝って」
「はい!」
二人で意識を失った水谷を抱え、車の後部座席へ静かに寝かせる。
ドアを閉める音が夜の静寂に響いた。
木下は金田へ向き直る。
「水谷くんを、どうするつもりですか?」
金田は車にもたれかかりながら答えた。
「後始末は上層部に任せて…、しばらくは児童養護施設で様子見ってところかな」
「児童養護施設……」
「そう。この子を親元へ返すわけにはいかないからね…。
まずは水谷くんが安心して暮らせる場所を用意する。
そこでもう一度、この子の人生をやり直させてあげたい」
その言葉に木下は静かに頷いた。




