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モラルスリップ  作者: Yem
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18/22

18

倒れた水谷のもとへ、金田がゆっくりと歩み寄る。

しゃがみ込むと、水谷の額へそっと手を当てた。


次の瞬間。

淡い光が金田の手のひらから溢れ、水谷の身体を優しく包み込む。

木下は息を呑んだ。

金田は目を閉じたまま、何かを探るように静かに黙っている。


数秒後。

光が消え、金田はゆっくりと手を離した。


「…何してるの?」


森田が不思議そうに金田に尋ねる。

金田は静かに立ち上がった。


「水谷くんの記憶を消した」


二人は同時に目を見開く。


「目が覚めた時には、能力を得る前……。

いじめられていた同級生を助けて、君たちから事情聴取を受け、君たちと一緒に自宅まで行った時までの記憶しか残ってない…」


「…いじめられてた同級生を助けた?」


木下が聞き返す。

金田は頷いた。


「彼の記憶を辿って分かった」


少し寂しそうな表情を浮かべる。


「君たちが担当した校内暴力事件…」


木下の脳裏に、事情聴取室での出来事が蘇る。

三人の生徒が被害を訴え、水谷だけが黙り込んでいたあの日。


「あれには、ちゃんと理由があったんだ」

金田は静かに続ける。


「水谷くんは、一方的に暴力を振るったわけじゃない。

いじめられていた生徒を守るために、三人へ立ち向かった。

それが、全ての始まりだったんだ」


木下は言葉を失う。

もっと早く真実に気づけていたら。

そんな後悔が胸を締めつける。


「本人の記憶を消せば、持っていた能力も消えるんですか?」

木下が静かに尋ねる。


金田は一呼吸置き

「確証は持てない。だけど、少なくとも今は使えない」

そう言って倒れている水谷へ視線を向ける。


「能力の存在そのものを知らなければ、自分が使えるなんて思いもしないだろう?」

そう言うと、金田は森田へ歩み寄る。


「え?なに?」

森田は首を傾げる。


「ごめんね、森田ちゃん」


金田はゆっくりと森田の額に手を伸ばす。

その指先が森田の額へ触れようとした、その瞬間――。


パシッ。


木下が金田の手首を掴んだ。

金田が目を細める。

森田は状況が分からず、二人を交互に見つめた。


「きのっち?」


木下は金田を真っ直ぐ見据える。


「また、森田の記憶を消すんですか?」


その声には、静かな怒りが込められていた。






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