18
倒れた水谷のもとへ、金田がゆっくりと歩み寄る。
しゃがみ込むと、水谷の額へそっと手を当てた。
次の瞬間。
淡い光が金田の手のひらから溢れ、水谷の身体を優しく包み込む。
木下は息を呑んだ。
金田は目を閉じたまま、何かを探るように静かに黙っている。
数秒後。
光が消え、金田はゆっくりと手を離した。
「…何してるの?」
森田が不思議そうに金田に尋ねる。
金田は静かに立ち上がった。
「水谷くんの記憶を消した」
二人は同時に目を見開く。
「目が覚めた時には、能力を得る前……。
いじめられていた同級生を助けて、君たちから事情聴取を受け、君たちと一緒に自宅まで行った時までの記憶しか残ってない…」
「…いじめられてた同級生を助けた?」
木下が聞き返す。
金田は頷いた。
「彼の記憶を辿って分かった」
少し寂しそうな表情を浮かべる。
「君たちが担当した校内暴力事件…」
木下の脳裏に、事情聴取室での出来事が蘇る。
三人の生徒が被害を訴え、水谷だけが黙り込んでいたあの日。
「あれには、ちゃんと理由があったんだ」
金田は静かに続ける。
「水谷くんは、一方的に暴力を振るったわけじゃない。
いじめられていた生徒を守るために、三人へ立ち向かった。
それが、全ての始まりだったんだ」
木下は言葉を失う。
もっと早く真実に気づけていたら。
そんな後悔が胸を締めつける。
「本人の記憶を消せば、持っていた能力も消えるんですか?」
木下が静かに尋ねる。
金田は一呼吸置き
「確証は持てない。だけど、少なくとも今は使えない」
そう言って倒れている水谷へ視線を向ける。
「能力の存在そのものを知らなければ、自分が使えるなんて思いもしないだろう?」
そう言うと、金田は森田へ歩み寄る。
「え?なに?」
森田は首を傾げる。
「ごめんね、森田ちゃん」
金田はゆっくりと森田の額に手を伸ばす。
その指先が森田の額へ触れようとした、その瞬間――。
パシッ。
木下が金田の手首を掴んだ。
金田が目を細める。
森田は状況が分からず、二人を交互に見つめた。
「きのっち?」
木下は金田を真っ直ぐ見据える。
「また、森田の記憶を消すんですか?」
その声には、静かな怒りが込められていた。




