17
「森田!」
鋭い声が廃墟に響く。
木下だった。
車を降りるなり、全力で二人のもとへ駆け寄ってくる。
その姿を見た水谷の表情が一変した。
「来るな!!」
水谷は森田の肩を掴み、叫ぶ。
「来たらこの人を殺す!」
木下は足を止め、両手をゆっくりと上げた。
「落ち着け」
穏やかな声で語りかける。
「俺は君に何もしない」
「そんなの嘘だ!」
水谷の声が震える。
「みんな……みんな俺を傷つける大人ばっかりだ!」
怒りと悲しみが入り混じった叫びが、廃墟の中に響き渡る。
「先生も!親父も!母さんも…!
誰も俺を助けてくれなかった!」
水谷の瞳から涙がこぼれる。
「でも、もう違う」
ゆっくりと右手を木下へ向ける。
「俺はもう傷つかない」
手のひらに赤い炎が灯る。
「俺は……強くなったんだよ!」
ボッ――。
手のひらの炎が一気に燃え上がる。
水谷はその手を森田へ向けた。
「やめろ!」
木下は迷わなかった。
森田へ向かって飛び込み、その体を強く抱き寄せる。
次の瞬間。
轟音とともに炎が木下の身体を包んだ。
「きのっち!!」
森田は目の前で木下が自分を庇う姿を見て叫ぶ。
「いやぁぁぁぁ!!」
泣き叫ぶ声が廃墟中に響き渡る。
次第に、木下の身体を包んでいた炎がおさまっていく。
木下の身体は火傷1つ負っておらず、無傷だった。
水谷の呼吸が乱れる。
「はぁ……はぁ……なんで…だよ」
炎を放ち続けた反動か、その身体が大きくふらついた。
木下の肩を掴んでいた手が、ゆっくりと離れる。
その瞬間だった。
――パンッ!
乾いた発射音が廃墟に響く。
「え……?」
水谷の首筋に一本の麻酔針が突き刺さっていた。
数メートル離れた場所では、拳銃のような形をした麻酔銃を構えた金田が静かに立っている。
「ごめんね…」
水谷は何か言おうと口を開くが、言葉にならない。
「い……や……だ……」
膝から崩れ落ち、そのまま床へ倒れ込んだ。
静寂が訪れる。
水谷の能力を受けたのに傷1つ負っていない。
木下はそんな自分の状況を理解できず、金田へ視線を向けた。
金田は倒れた水谷を見下ろしながら、小さく笑う。
「やっぱりね」
その言葉に木下が眉をひそめる。
「金田さん……これは」
金田は木下へ振り返る。
「君には能力を無力化する力があるみたいだ」
木下は言葉を失う。
「能力を……無力化?」
金田は静かに頷いた。
「君は水谷くんの炎を無力化した。その結果、君は傷を負うことなく生還したってわけ」
そう言って森田の方を見る。
「おそらく、その力は君自身だけじゃない。触れている相手にも作用するらしい」
木下はゆっくりと自分の手を見つめた。
「俺は、普通の人間じゃない…のか…?」
廃墟には、重苦しい沈黙だけが流れていた。




