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モラルスリップ  作者: Yem
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17/22

17

「森田!」


鋭い声が廃墟に響く。

木下だった。

車を降りるなり、全力で二人のもとへ駆け寄ってくる。

その姿を見た水谷の表情が一変した。


「来るな!!」


水谷は森田の肩を掴み、叫ぶ。


「来たらこの人を殺す!」


木下は足を止め、両手をゆっくりと上げた。


「落ち着け」

穏やかな声で語りかける。


「俺は君に何もしない」


「そんなの嘘だ!」


水谷の声が震える。


「みんな……みんな俺を傷つける大人ばっかりだ!」


怒りと悲しみが入り混じった叫びが、廃墟の中に響き渡る。


「先生も!親父も!母さんも…!

誰も俺を助けてくれなかった!」


水谷の瞳から涙がこぼれる。


「でも、もう違う」

ゆっくりと右手を木下へ向ける。


「俺はもう傷つかない」

手のひらに赤い炎が灯る。


「俺は……強くなったんだよ!」


ボッ――。


手のひらの炎が一気に燃え上がる。

水谷はその手を森田へ向けた。


「やめろ!」


木下は迷わなかった。

森田へ向かって飛び込み、その体を強く抱き寄せる。


次の瞬間。

轟音とともに炎が木下の身体を包んだ。


「きのっち!!」


森田は目の前で木下が自分を庇う姿を見て叫ぶ。


「いやぁぁぁぁ!!」


泣き叫ぶ声が廃墟中に響き渡る。

次第に、木下の身体を包んでいた炎がおさまっていく。

木下の身体は火傷1つ負っておらず、無傷だった。


水谷の呼吸が乱れる。


「はぁ……はぁ……なんで…だよ」


炎を放ち続けた反動か、その身体が大きくふらついた。

木下の肩を掴んでいた手が、ゆっくりと離れる。


その瞬間だった。


――パンッ!


乾いた発射音が廃墟に響く。


「え……?」


水谷の首筋に一本の麻酔針が突き刺さっていた。

数メートル離れた場所では、拳銃のような形をした麻酔銃を構えた金田が静かに立っている。


「ごめんね…」


水谷は何か言おうと口を開くが、言葉にならない。


「い……や……だ……」


膝から崩れ落ち、そのまま床へ倒れ込んだ。

静寂が訪れる。


水谷の能力を受けたのに傷1つ負っていない。

木下はそんな自分の状況を理解できず、金田へ視線を向けた。


金田は倒れた水谷を見下ろしながら、小さく笑う。


「やっぱりね」


その言葉に木下が眉をひそめる。


「金田さん……これは」


金田は木下へ振り返る。


「君には能力を無力化する力があるみたいだ」


木下は言葉を失う。

「能力を……無力化?」


金田は静かに頷いた。

「君は水谷くんの炎を無力化した。その結果、君は傷を負うことなく生還したってわけ」

そう言って森田の方を見る。


「おそらく、その力は君自身だけじゃない。触れている相手にも作用するらしい」


木下はゆっくりと自分の手を見つめた。


「俺は、普通の人間じゃない…のか…?」


廃墟には、重苦しい沈黙だけが流れていた。



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