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事情聴取を終えた木下たちは、水谷を公用車の後部座席に乗せ、そのまま水谷の自宅へ向かった。
車内は静かだった。
運転席の木下は前だけを見つめ、助手席の森田は何度か水谷に話しかけようとしたが、少年は窓の外を眺めたまま、一言も口を開かなかった。
三十分ほど走ると、公用車は住宅街の外れにある古びた一軒家の前で止まる。
外壁はところどころ剥がれ落ち、庭は雑草が伸び放題。郵便受けには何日分も溜まったチラシが突っ込まれていた。
「ここ」
水谷はそう言うと車を降り、玄関の扉を開ける。
「入っていいよ。どうせ誰もいないし」
木下と森田は顔を見合わせ、靴を脱いで家へ入った。
鼻を突く酒と煙草の臭い。
リビングには空き缶や酒瓶が転がり、灰皿から溢れた吸い殻が床に散乱している。洗っていない食器が積み重なり、足の踏み場もないほど荒れ果てていた。
森田は辺りを見回し、小さく肩を震わせる。
「きのっち……なんか、すっごく嫌な予感がするんだけど……」
木下はため息をついた。
「俺は先輩だ、木下さんと呼べ。それに、タメ口じゃなく敬語で話せって何度言えば分かる?」
「……いいじゃん別に」
森田は悪びれもなく笑うと、水谷の前にしゃがみ込んだ。
「ねぇ、水谷くん。ご両親は? どこにいるの?」
水谷は表情一つ変えずに答える。
「さぁ? 借金取りに追われて、もう殺されてるんじゃない?」
あまりにも淡々とした口調だった。
森田の笑顔が消える。
木下もわずかに眉をひそめた、その時だった。
ガチャリ。
玄関の扉が勢いよく開く。
酒の臭いを漂わせた四十代ほどの男が、ふらつきながら家へ入ってきた。
目は充血し、髭は伸び放題。服は汚れ、まともに風呂へ入っている様子もない。
木下は警察手帳を見せながら一歩前へ出る。
「失礼します。もしかして、水谷くんのお父さんですか?」
男は木下を睨みつけると、舌打ちをした。
「……警察が何の用だ」
「本日、学校で起きた暴力事件について、お話を――」
「帰れ!!」
男は木下の言葉を遮った。
「え?」
「帰れって言ってんだよ!」
怒鳴り声が家中に響く。
男は木下と森田の肩を強引に押し、玄関の外へ追い出した。
「お父さん、少しだけでもお話を――」
バタンッ!
木下の言葉を遮るように、玄関の扉は乱暴に閉められる。
そのまま鍵が掛かる音が響き、中から出てくる気配はなかった。
しばらく玄関を見つめていた森田が、困ったように頭をかく。
「きのっち。また明日、出直そうよ」
木下は森田を横目で見た。
「……だから木下さんだ」
小さく息を吐くと、閉ざされた玄関へもう一度視線を向ける。
「……仕方ない。また改めて来よう」
そう言って二人は公用車へ戻った。




