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モラルスリップ  作者: Yem
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2/22

2

事情聴取を終えた木下たちは、水谷を公用車の後部座席に乗せ、そのまま水谷の自宅へ向かった。


車内は静かだった。

運転席の木下は前だけを見つめ、助手席の森田は何度か水谷に話しかけようとしたが、少年は窓の外を眺めたまま、一言も口を開かなかった。


三十分ほど走ると、公用車は住宅街の外れにある古びた一軒家の前で止まる。

外壁はところどころ剥がれ落ち、庭は雑草が伸び放題。郵便受けには何日分も溜まったチラシが突っ込まれていた。


「ここ」


水谷はそう言うと車を降り、玄関の扉を開ける。


「入っていいよ。どうせ誰もいないし」


木下と森田は顔を見合わせ、靴を脱いで家へ入った。


鼻を突く酒と煙草の臭い。


リビングには空き缶や酒瓶が転がり、灰皿から溢れた吸い殻が床に散乱している。洗っていない食器が積み重なり、足の踏み場もないほど荒れ果てていた。

森田は辺りを見回し、小さく肩を震わせる。


「きのっち……なんか、すっごく嫌な予感がするんだけど……」


木下はため息をついた。


「俺は先輩だ、木下さんと呼べ。それに、タメ口じゃなく敬語で話せって何度言えば分かる?」


「……いいじゃん別に」


森田は悪びれもなく笑うと、水谷の前にしゃがみ込んだ。


「ねぇ、水谷くん。ご両親は? どこにいるの?」


水谷は表情一つ変えずに答える。


「さぁ? 借金取りに追われて、もう殺されてるんじゃない?」


あまりにも淡々とした口調だった。

森田の笑顔が消える。

木下もわずかに眉をひそめた、その時だった。


ガチャリ。

玄関の扉が勢いよく開く。


酒の臭いを漂わせた四十代ほどの男が、ふらつきながら家へ入ってきた。

目は充血し、髭は伸び放題。服は汚れ、まともに風呂へ入っている様子もない。

木下は警察手帳を見せながら一歩前へ出る。


「失礼します。もしかして、水谷くんのお父さんですか?」


男は木下を睨みつけると、舌打ちをした。


「……警察が何の用だ」


「本日、学校で起きた暴力事件について、お話を――」


「帰れ!!」


男は木下の言葉を遮った。


「え?」


「帰れって言ってんだよ!」


怒鳴り声が家中に響く。

男は木下と森田の肩を強引に押し、玄関の外へ追い出した。


「お父さん、少しだけでもお話を――」


バタンッ!


木下の言葉を遮るように、玄関の扉は乱暴に閉められる。

そのまま鍵が掛かる音が響き、中から出てくる気配はなかった。

しばらく玄関を見つめていた森田が、困ったように頭をかく。


「きのっち。また明日、出直そうよ」


木下は森田を横目で見た。


「……だから木下さんだ」


小さく息を吐くと、閉ざされた玄関へもう一度視線を向ける。


「……仕方ない。また改めて来よう」


そう言って二人は公用車へ戻った。





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