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午後の日差しが柔らかく差し込む頃、一台のパトカーが警察署の駐車場へ滑り込んだ。
運転席から降りたのは、警察官の木下拓真。二十五歳。切れ長の目と高い身長が印象的な青年で、真面目で冷静沈着な性格から署内でも一目置かれていた。
「きのっち!一緒にいこ!」
元気いっぱいの声が駐車場に響く。
駆け寄ってきたのは後輩警察官の森田明音だった。茶髪のロングヘア、アイドルのような可愛らしい顔立ちをしており、いつも明るく人懐っこい笑顔を浮かべている。
「みんな事情聴取室で待ってるよ!被害にあった生徒さんたちと保護者の方も来てるみたい」
「分かった」
木下は短く答え、森田とともに事情聴取室へ向かった。
部屋の中には加害者であろう制服姿の男子中学生。被害者と思われる男子中学生3人と、その保護者たちが立っていた。誰もが怒りと興奮を隠せない様子だった。
木下が椅子に腰を下ろすと、一人の男子生徒が勢いよく口を開く。
「いきなり水谷が俺たちに暴力を振るってきたんです!」
続いて別の生徒も身を乗り出す。
「そうです!急に体が吹っ飛ばされて……。たぶん骨も折れてます!」
三人目は頬を押さえながら悔しそうに言った。
「俺なんて顔を殴られて、歯が折れたんですよ!」
三人の証言は一致していた。
しかし、水谷という名の少年は、一言も口を開かない。
制服は汚れたまま、拳には擦り傷が残っている。
それでも俯いたまま黙り込み、弁解する様子はなかった。
その態度に、保護者たちの怒りはさらに膨れ上がる。
「こんなの傷害事件じゃないですか!」
「親は何をしているんです!」
「今すぐ水谷君の親に会わせてください!一緒に私たちへ謝罪してもらいます!」
と、一人の母親が机に手をつき、木下へ詰め寄る。
森田は慌てて立ち上がった。
「ちょ、ちょっと皆さん!気持ちは分かりますけど、落ち着いてください!一人ずつお話を聞きますから!」
その明るく大きな声に、室内はわずかに静けさを取り戻す。
木下は保護者たちを見渡し、落ち着いた口調で言った。
「皆さん、ご協力ありがとうございます。まずは事実関係を確認します。その後、水谷君の保護者にも話を聞きますので、少しお待ちください」
三人の証言は一致している。
一方で、水谷は終始無言。
――よくある子ども同士の喧嘩だろう。
木下はそう判断すると、水谷へ静かに視線を向けた。
「水谷君。これから君の家へ向かう。親御さんと話をさせてもらうよ」
水谷は小さく頷くだけだった。
この時の木下は、まだ知らなかった。
水谷は普通の中学生ではない、ということを。




