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モラルスリップ  作者: Yem
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15/22

15

木下は思わず一歩前へ出た。


「止めないと!」


その声には焦りが滲んでいた。

金田は慌てる様子もなく、ポケットへ手を入れる。


「うん」


穏やかな口調で続ける。


「だからこそ、地道にやっていこう」


「……」


「焦る気持ちは分かる。でも、焦った捜査ほど失敗する」


そう言うと、金田はスマートフォンを取り出した。


「現場周辺の防犯カメラ映像は、事前に全部送ってもらってる」


画面を操作し、一本の映像を木下へ見せる。


「もう一回ちゃんと見てみようか、はい、どうぞ」


木下は金田のスマートフォンを受け取り、真剣な表情で映像を見つめる。

道路を歩く通行人。

走り去る車。

街路樹。

怪しい人物は、一人も映っていない。


「……何も怪しいものは写っていないですね」


「そう思う?」


金田はニヤリと笑った。


「よーく見てごらん。不自然な点があるはずだよ」


木下は映像を最初から再生する。


一時停止。


巻き戻し。


拡大。


何度も繰り返し確認する。


そして――。


「あっ!」


木下が声を上げた。


「風が……」


金田は何も言わず続きを待つ。


「周囲に強い風が吹いてます!」


画面の中では、落ち葉やビニール袋が一方向へ勢いよく流されていた。

その瞬間だけ風向きが不自然に変化しているように見える。


金田は嬉しそうに笑った。


「その通り」


木下は画面から目を離さない。


「瞬間移動した衝撃で、空気が動いた……?」


「まだ仮説だけどね~」

と、金田はため息をつきながら言った。


「でも、もし能力の発動で周囲の空気が押し出されるなら――」

木下はすぐに答えへ辿り着く。


「風が吹いている方向が……」


「そう」


金田は人差し指を立てた。


「不自然な風を追っていけば、水谷くんがどこへ向かったのか、おおよその見当がつく」


木下はもう一度映像を見返す。

落ち葉が流れた方向。

揺れた街路樹。

舞い上がる砂埃。

すべてが、一つの方向を示していた。


「こっちです……!」


木下が指差した先を見て、金田は満足そうに微笑む。


「思ったより優秀だね~。頼もしいよ」






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