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モラルスリップ  作者: Yem
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14/22

14

警察署の地下駐車場。

一台の黒い外車が、木下の目の前で静かに停車した。


運転席の窓がゆっくりと開く。


「行こうか〜」


ハンドルを握っていた金田が、助手席を親指で指した。

木下は何も言わず頷き、助手席へ乗り込む。

重厚なエンジン音を響かせながら、車は地下駐車場を後にした。


「これからどこへ行くんですか?」


シートベルトを締めながら木下が尋ねる。

金田は意味ありげに笑う。


「なーいしょ」


「教えてくれないんですね」


「うん。秘密主義だから、教えない」


それ以上は何も話さず、車は夜の街を走り続けた。

十分ほどして、一台のパトカーと数人の警察官が立つ現場へ到着する。

辺りには規制線が張られ、黄色いテープが風に揺れていた。


金田は車を降りると、現場を見渡しながら言う。


「皆、仕事熱心でなによりだね~」


「ここで、なにかあったんですか?」


車を降りた木下が金田に訊ねる。


「昨日、ここで強盗未遂事件があった」


木下は規制線の中へ視線を向ける。

その先にある一件の住宅が目に入った。

住宅の玄関前に置いてある植木鉢が倒れて割れている。


「幸いにも、被害者は留守で家には誰もいなかったらしい」


「……ここに、水谷くんが来ていたと?」


「おそらくね」


金田は静かに頷いた。


「根拠は?」


「付近の防犯カメラだよ」


金田は近くのコンビニを指差す。


「今日、現場周辺のカメラを全部確認した。

でも、怪しい人物は誰一人として映っていなかった。

それなのに、僕は水谷くんがここに来たと考えてる。理由は、わかるかな?」


木下は一瞬考え込み、すぐに顔を上げた。


「……瞬間移動」


金田は満足そうに笑う。


「正解!水谷くんは監視カメラの死角を利用したんじゃない」


金田は規制線の向こうを見つめた。


「瞬間移動で現場に到着、犯行を終えたあと、その能力をつかってどこかへ消えた」


冷たい風が二人の間を吹き抜ける。


「能力を使った犯罪が、もう始まってる」


金田のその一言が、木下の胸に重く響いた。





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