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森田の姿が廊下の向こうへ消える。
静まり返った廊下で、木下は金田を真っ直ぐ見据えた。
「金田さん……あんた、記憶を消せるのか?」
「……まぁね」
金田は肩をすくめる。
「正しくは、記憶を吸い取る……かな」
「吸い取る?」
「相手の記憶を探って、取りたい記憶だけを自分の頭の中にぶち込めるってわけ」
そう言って金田が自分のこめかみを指で軽く叩く。
「便利だけど、頭の中が人の記憶だらけになるから結構しんどい能力なんだよね」
木下は驚きを隠せなかった。
「だから森田の記憶を……」
「うん。今回の事件に関する記憶だけ抜き取った。森田ちゃんの記憶はいま、今日の朝から今までのことがごっそり抜け落ちてる」
金田は苦笑する。
「まぁ、君には効かなかったみたいだけどね」
悔しそうに息を吐き、自分の手のひらを見つめた。
「なんで弾かれたんだろうなぁ……」
木下は一歩詰め寄る。
「あんた……勝手に森田の記憶を――」
「今回の事件」
金田は木下の言葉を遮った。
「彼女が関わるには危険すぎる」
その声は、先ほどまでの軽い口調とはまるで違っていた。
「……だろ?木下くん」
木下は何も言い返せない。
頭では理解している。
だが、納得はできなかった。
「だからって……」
それ以上、言葉が続かない。
金田は木下の肩を軽く叩く。
「いいか?」
木下は顔を上げる。
「明日、君はいつも通り森田ちゃんと一緒に別の仕事をする」
人差し指を一本立てる。
「いつも通り仕事を終わらせて」
二本目を立てる。
「そのあと、僕と合流」
木下の目を真っ直ぐ見つめる。
「いいね?」
木下はしばらく黙っていた。
森田の笑顔が脳裏をよぎる。
この事件に巻き込みたくない。
その気持ちは、木下も同じだった。
「……分かりました」
静かに頷く。
金田は満足そうに微笑んだ。
「よし。それじゃあ、明日から君は僕の"臨時相棒"だ」
その言葉とともに、二人は夜の静まり返った廊下を歩き始めた。
誰にも知られることのない、極秘の捜査が幕を開けようとしていた。




