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モラルスリップ  作者: Yem
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12/22

12

森田の姿が廊下の向こうへ消える。

静まり返った廊下で、木下は金田を真っ直ぐ見据えた。


「金田さん……あんた、記憶を消せるのか?」


「……まぁね」

金田は肩をすくめる。


「正しくは、記憶を吸い取る……かな」


「吸い取る?」


「相手の記憶を探って、取りたい記憶だけを自分の頭の中にぶち込めるってわけ」


そう言って金田が自分のこめかみを指で軽く叩く。


「便利だけど、頭の中が人の記憶だらけになるから結構しんどい能力なんだよね」


木下は驚きを隠せなかった。


「だから森田の記憶を……」


「うん。今回の事件に関する記憶だけ抜き取った。森田ちゃんの記憶はいま、今日の朝から今までのことがごっそり抜け落ちてる」


金田は苦笑する。


「まぁ、君には効かなかったみたいだけどね」


悔しそうに息を吐き、自分の手のひらを見つめた。


「なんで弾かれたんだろうなぁ……」


木下は一歩詰め寄る。


「あんた……勝手に森田の記憶を――」


「今回の事件」


金田は木下の言葉を遮った。


「彼女が関わるには危険すぎる」


その声は、先ほどまでの軽い口調とはまるで違っていた。


「……だろ?木下くん」


木下は何も言い返せない。

頭では理解している。

だが、納得はできなかった。


「だからって……」

それ以上、言葉が続かない。


金田は木下の肩を軽く叩く。


「いいか?」


木下は顔を上げる。


「明日、君はいつも通り森田ちゃんと一緒に別の仕事をする」


人差し指を一本立てる。


「いつも通り仕事を終わらせて」


二本目を立てる。


「そのあと、僕と合流」


木下の目を真っ直ぐ見つめる。


「いいね?」


木下はしばらく黙っていた。

森田の笑顔が脳裏をよぎる。

この事件に巻き込みたくない。

その気持ちは、木下も同じだった。


「……分かりました」


静かに頷く。


金田は満足そうに微笑んだ。


「よし。それじゃあ、明日から君は僕の"臨時相棒"だ」


その言葉とともに、二人は夜の静まり返った廊下を歩き始めた。

誰にも知られることのない、極秘の捜査が幕を開けようとしていた。





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