表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
福口哲郎の車選び  作者: 福口哲郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/6

福口哲郎はいつでもレッドゾーン

今回もブースト全開でお送りいたします^_^


ブーストオン⁉︎


ついに、買う車も決まった。

長かった。


車雑誌を何冊も買い込み、毎日のように中古車情報誌を眺め、あれがいい、これがいいと何度も心が揺れた。


ロードスター、セラ、AZ-1、FTO……。

どれも魅力的だった。

しかし絶対条件リトラで最後に残ったのは、やはりMR2だった。

「背中には二人を酔わせるハートがある。」

あのキャッチコピーを初めて見たときの衝撃は、今でも忘れられない。


あとは、どこで買うかである。

個人売買という手もある。

中古車専門店もある。

オークション代行という方法も知ってはいた。

でも、免許を取ったばかりの車初心者だった自分には、やはりディーラーが一番安心に思えた。

確かに値段は少し高い。

それでも、その「安心料」だと思えば決して高くはない。

ディーラーに並ぶ中古車は、オークションや下取りの中でも比較的状態の良いものが選ばれるという。

逆に程度の悪い車は、そのまま業者向けオークションへ流してしまうらしい。

もちろん絶対ではない。

しかし、少なくとも「変な車をつかまされる可能性」は少ない気がした。

そして何より大きかったのは、購入後の対応である。

中古車は中古車。

どんなに整備されていても、機械である以上、いつ何が壊れるかは誰にも分からない。

だからこそ、何かあったときに相談できる相手がいるという安心感は大きかった。

少しくらい無理なお願いも聞いてくれるかもしれない。

そんな期待もあった。

休日の午後。

少し緊張しながらディーラーの自動ドアをくぐる。

展示場には新車が太陽の光を浴びて並び、その奥に中古車コーナーが見える。

洗車されたボディがキラキラと輝き、独特のタイヤとオイルの匂いが漂っている。

あの匂いを嗅ぐだけで、なぜだか胸が高鳴る。

営業マンが笑顔で近付いてきた。

「いらっしゃいませ。」

「すみません。MR2ってありますか?SW20なんですけど。」

ちなみに初代はAW11

二代目はSW20といいます。

三代目は発売せずに廃盤(T ^ T)

一応後継機はMRSですがオープンになったので正統ではないですね。


「色は黒か青が希望です。予算は80万円くらいで……。」

営業マンは少し考えたあと、

「ターボですか?NAですか?」

と尋ねた。

一瞬迷う。

ターボは確かに速い。

アクセルを踏めば、背中を蹴飛ばされるようなドッカン加速が味わえる。

でも、自分が欲しかったのは、速さだけではない。

アクセルを踏んだ分だけ自然に吹け上がるエンジン。

自分の操作に素直に反応してくれるレスポンス。

車を操る楽しさだった。


「NAでお願いします。」

……まあ、本当は値段が安いという理由も半分くらいあったのだけれど(笑)。

定価も高く、中古も20万ぐらい高い。


営業マンは少し申し訳なさそうに笑った。

「うーん、人気車種だからねぇ。なかなか入ってこないんだよ。でも探してみるよ。」

その日はそれで終わった。

期待半分。

諦め半分。

「まあ、何週間かかるんだろうな。」

そんな気持ちで帰宅した。

ところが、わずか三日後だった。

電話が鳴る。

「入りましたよ!」

受話器の向こうの声が少し弾んでいる。

「人気車だから、すぐ売れちゃうと思います。できれば早めに見に来てください。」

電話を切った瞬間、心臓が一気に高鳴った。

「本当に来た!」

いても立ってもいられず、その日のうちにディーラーへ向かった。

展示場の奥。

営業マンが一台の車の前で待っている。

「あれです。」

黒いボディ。

小さいがリトラがスパーカーの雰囲気を出す。

写真では何百回も見てきた。

ゲームでも何度も運転した。

でも、本物はまったく違った。

想像していた以上に低く、想像していた以上に美しかった。


「これって……事故車ですよね?」

営業マンは隠すことなくと言うか、ディーラーで隠されたらどこも信用できないが、答えた。

「はい。でも、この手のスポーツカーは事故歴があるものが本当に多いんですよ。」

「これは後ろから追突された事故です。フレームには影響ありません。走りにも問題ありません。」

少しだけ不安になる。


「事故車だけはやめておけ。」 


そんな話は、それまで何度も耳にしてきた。

確かに、大事故でフレームまで歪んでしまった車は怖い。車で言えば、人間の骨格にあたる部分だ。そこが狂ってしまえば、どれだけ外見をきれいに直しても、本来の走りには戻らないこともある。

逆に、軽い追突などで外装部品を交換した程度なら、きちんと修理されている車も少なくない。

要は、「事故車」という言葉だけで判断するのではなく、どんな修理が行われたのかが大切なのだと、そのとき初めて知った。


営業マンの説明を聞きながら、車体を一周する。

ドアを開け閉めしてみる。

ボンネットの隙間を眺める。

塗装の色に違和感はないか、じっと見つめる。

もちろん、素人の自分にすべてが分かるはずもない。

それでも「本当に大丈夫かな」と不安になりながら一つひとつ確認していた。

中古車選びとは、車を見ているようでいて、実は自分の覚悟を試される時間なのかもしれない。

現在の修理技術は本当にすごい。

昔なら廃車になっていたような車でも、高い技術で見事によみがえらせてしまう。

パネル交換や溶接技術、塗装技術も年々進歩し、一見しただけでは修復歴が分からない車も珍しくない。

昔は「ニコイチ」と呼ばれる車が話題になった。

二台の事故車から使える部分を組み合わせ、一台の車として仕上げるという方法だ。

前をぶつけた車と、後ろをぶつけた車を組み合わせる。

そこから生まれたのがあの伝説の名車「シルエイティ」や「ワンビア」という有名なカスタムスタイルだった。


もちろん、当時は強度面などが心配されるケースもあり、「ちょっと怖いな」と思われることも多かった。

今では修理技術や溶接技術も進歩し、昔とは状況も変わっている。

素人どころか、なんとプロも騙すのだ。つまりオークションに通してしまう。オークションで事故車じゃないと判定されたら、プロも認めた?のだから逆に安心だろうwww


とはいえ、やはり修復歴がある車は、内容をしっかり確認したうえで納得して買うことが大切だ。

……もっとも、その頃の自分は、そんな難しいことを考えているようで考えていなかった。



不安よりも「欲しい」という気持ちの方が、少しずつ勝ち始めていたのである。

「走行8万キロ、9年落ちで79万円ですか……。もう少し安くなりませんか?」


最後の悪あがきで値段交渉をしてみる。

営業マンは苦笑しながら首を横に振った。

「正直、この車は人気がありますからね。しかも、もう生産終了しています。これ以上の値段は厳しいですね。」

やっぱり駄目か。

はっきり言って当時も割高だ。

同じ値段の一般車で走行距離8万キロ9年落ちなんて買取は、ほとんど価値がないであろう。

良くて30万を多分整備して50万ぐらいで売る感じだろう。

しかし、スポーツカーなら、価値は倍以上になる。これがスポーツカーが人気はあるが玉数が少ないから仕方ない話である。

今現在でも定価300万のスポーツカーは8万キロ10年落ちぐらいでも180万近くするだろう泣

同じ300万のファミリーカーなら下手したら80万切って余裕で買えるだろうが、人気人気って言うが結局圧倒的に売れない数が少ないスポーツカーの運命さだめだろう。



少し肩を落としかけた、そのときだった。

「でも、その代わりサービスは頑張らせてもらいます。」

「サービスですか?」

「タイヤは新品に交換します。バッテリーも新品にします。」

「タイミングベルトやファンベルトは?」

「本来なら10万キロまでは十分使えます。でも安心して長く乗っていただきたいので、それも交換して納車します。」

その一言で、心はほとんど決まってしまっていた。

ディーラーを選んでよかった。

値引きはなくても、「大切に乗ってほしい」という気持ちが伝わってきたからだ。

「じゃあ、一度乗ってみてください。」

ついに試乗の瞬間がやってきた。

運転席へ腰を下ろす。

スポーツカーらしく低い着座位置。

地面がすぐそこにある。

ドアを閉めると、外の音が少し遠くなる。

キーを回す。あのキュルキュル音が最高である。


「ブォン。」

背中のすぐ後ろでエンジンが目を覚ます。

普通の車では前から聞こえるはずの音が、自分の肩越しから聞こえてくる。

「これがMRなんだ。」

思わず独り言を言ってしまい、笑ってしまった。

クラッチをつなぎ、ゆっくりアクセルを踏む。

車が軽い。

いや、「軽い」というより、自分の意思がそのままタイヤへ伝わっていくような感覚だった。

ハンドルを少し切るだけで、スッとノーズが向きを変える。

アクセルを踏けば、自然にエンジンが吹け上がる。

そして、柿本改のマフラーが奏でる乾いた低音。

決して耳障りではない。

それでいて、アクセルを一杯まで踏みたくなる絶妙な音だった。

「……これが、車なのか。」


それまで運転した教習車とは、まるで別の乗り物だった。

ただ移動するための道具ではない。

運転そのものが楽しい。

曲がるだけで笑ってしまう。

アクセルを踏むだけで心が躍る。

気付けば営業マンの話など耳に入っていなかった。

「最高だ。」

「最高だよ、お前。」

「もう、お前しかいない。」

そんな言葉が自然と頭の中に浮かぶ。

運命という言葉は、少し大げさかもしれない。

でも、あの日の自分には、本当にそう思えた。

試乗が終わり、車を降りる。

営業マンが笑顔で聞く。

「いかがでしたか?」

答えは、もう決まっていた。


「買います。」


即決。

迷いは一秒もなかった。

こうして何か月も悩み続けた車選びは、最後の最後だけ驚くほどあっさり終わった。


結局、税金や登録費用、保険などの諸経費を合わせると、総額は105万円を超えてしまった。


予算オーバーだがそれでも、不思議と高いとは思わなかった。


あの日の自分は、お金では買えない「夢」を、ようやく手に入れたのだから。




つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ