覚醒と勇者
「ミイナ。ありがとう」
空色の目の少年は言った。
「モノ……」
ミイナは、人間の姿のモノを初めて見た。
そのはずなのに、なぜか懐かしい。
初めて会った気がしないのだ。
「呪いが解けたぁ? それがどうした!」
「わからないのか? お前に勝ち目がなくなったってことだ」
「ふざけたことを抜かすな!」
デビルヘッドは左手を槍から離し、モノとミイナへ向かって掲げる。
そして、その掌から電撃が迸る。
――筈だった。
掌を構えた瞬間。
モノの右手が、デビルヘッドの顔面を殴りつけた。
ミイナは猫魔法“弾き”を思い出していた。
デビルヘッドは建物を突き破って吹き飛ぶ。
三件分の壁を突き破り、ようやく瓦礫の中へ埋もれた。
「ミイナ」
モノがミイナに向き直り、静かに言う。
「剣を貸してくれ」
「え?」
ミイナは逡巡した。
自分も戦うつもりだった。
剣を渡せば足手まといになる気がした。
「心配すんな。もう、アイツには指一本触れさせねえ。約束する」
モノはそう言うと、ニカリと歯を見せて笑った。
本当に少年のような、無邪気な笑みだった。
「うん。任せる」
ミイナはショートソードをモノへ手渡す。
「ありがとな」
モノはそう言うと、デビルヘッドへ向き直る。
ミイナには、その少年の小さいはずの背中が、とても大きく見えた。
*
モノは剣を構える。
特別な構えではない。
無造作に、正眼。
それなのに、それだけで威圧感がデビルヘッドを襲った。
デビルヘッドは、自らの手が震えていることに気づく。
(俺が……震えてる?……恐怖しているのか?)
そんなことは許されない。
許されるはずがない。
「どうした? かかってこいよ」
モノが軽く言い放つ。
あまりにも軽い口調。
世間話でもしているようだった。
「舐めやがって!」
デビルヘッドは両手を前にかざす。
パチン! パチン!
指を鳴らす。
黒い呪いの炎が発生し、モノを一気に飲み込んだ。
「焼け死ね!」
瞬間。
デビルヘッドの視界が傾く。
「あ?……れ?」
自分の首が落ちていた。
炎の中にモノはいない。
モノのショートソードが、すでに首を切断していたのだ。
ポトリ、と頭部が地面へ落ちる。
モノは続けざまに、残った身体を両断した。
デビルヘッドの身体は、溶けるように霧散した。
「このクソガァ! 舐めんなこのガキいい!」
落ちた首が肥大化していく。
「なんだ。やっぱり頭が本体か。デビル“ヘッド”って言うぐらいだもんな」
「馬鹿にするなぁあぁああ!」
デビルヘッドは口から暗黒の霧を吐き出す。
モノは避けることすらしない。
ただ、剣を横薙ぎに振るった。
凄まじい剣圧が突風を呼び起こす。
暗黒の霧が逆巻き、巨大な頭部を飲み込んだ。
「まだ、終われるかぁ!」
霧が霧散し、人型へ戻る。
「ここからが本気だ! 全力でやってやる! 殺してやるぞ! 勇者!」
デビルヘッドが雄叫びを上げる。
「なんだよ。最初から本気でこいよ」
「硬質化!」
身体が薄い膜に覆われていく。
「幻影!」
数十体へ分裂。
「影分身!」
影が自立し、さらに倍増する。
「どうだ!? 勇者! 今度はお前が恐怖する番だ!」
「恐怖しろって? この程度で?」
モノはショートソードを肩に乗せて笑った。
「ほざくなぁ! 死ねぇ!」
大群が一斉に飛び掛かる。
モノは構えない。
ただ見つめる。
それだけで、すべての動きが止まった。
“殺戮眼”が発動したのだ。
「学習しない奴だな」
「う、動けん……この俺が……? ば、馬鹿な!」
“殺戮眼”ジェノサイドアイは、すべての動きを支配する。
デビルヘッドの運動エネルギーは、すべてモノによって支配された。
「お前はもう終わりだ」
横薙ぎ。
霧散。
「ありゃ? ハズレか。まぁいい。当たるまでやるだけだからな」
無邪気に剣を振るう。
幻影が次々と消えていく。
「ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう!」
「叫ぶなよ。お前が本物か?」
モノが面倒そうに歩み寄る。
「そうさ! 俺が本物だ! そして、お前を呼び寄せた!」
「何を言ってる?」
「道連れにしてやる! この里ごと吹き飛ばしてやる!」
エステラが膨張する。
次の瞬間――爆発。
モノの眼前で。
そう、“眼”の前で。
爆発は収束し、すべてのエネルギーがデビルヘッドへ直撃した。
黒焦げの身体。
「……が……あ……!」
「じゃあな。デビルヘッド」
ショートソードが振り下ろされる。
頭部を縦に両断。
今度こそ――
デビルヘッドは復活することはなかった。




