悪魔の頭と解呪の巫女
ミイナとモノ、そしてエスナは敵と対峙していた。
敵は魔王軍幹部デビルヘッド、そしてその手下の漆黒のシスターズだ。
ミイナはショートソードの柄に手を掛け、抜刀術の構えを取る。
蜥蜴人の里以来、使い続けてきた最も得意とする形だ。
モノは地に伏せ、毛を逆立たせる。
尻尾を立て、いつでも飛びかかれる体勢だ。
エスナは背筋を伸ばし、ただ立っているように見えた。
構えを取ることはない。
それでも、だらりと垂らした両手――
無防備な立ち姿には、一切の隙が感じられなかった。
「臨戦体制とはな。まさか、俺と闘うつもりか?」
デビルヘッドは嘲笑う。
「油断大敵です。相手は猫になっても勇者。そしてシャクナ族のエスナです。こちらも万全の状態で相手をするべきです」
漆黒の悪魔は抑揚のない声で言う。
「お前はいちいちうるさいぞ、メディアナ」
デビルヘッドは肩をすくめた。
メディアナと呼ばれた漆黒のシスターズはため息をつく。
「はぁ。あなたはそれだから、ドラゴンヘッド様に嫌われるのです」
「アイツの名前を出すな。ただの古株なだけで威張り散らすジジイじゃないか」
まるで緊張感がない。
斬りかかるべきだろうか。
『……ミイナ。動くなよ。アイツら相当強い……普通じゃない……』
モノの声は硬い。
「え?」
「相手の力量もわからないようならば、下がっていなさい」
エスナが冷たく言い放つ。
「そんなに冷たいこと言うなよ。ミイナちゃんが可哀想だろ?」
――いつのまにか。
デビルヘッドはミイナに抱きついていた。
冷たい手が髪を撫でる。
「なっ!」
慌ててショートソードを振り抜く。
しかしデビルヘッドは煙のように消え失せ、距離を保った空中に漂っていた。
(反応できなかった……)
『……ダメだ。俺も見えなかった……。ミイナ、下がってろ』
モノがこれほど弱気な台詞を吐くのを、ミイナは初めて聞いた。
「そんな! 私も戦うよ!」
ミイナは慌てて主張する。
「ミイナ……気持ちはわかる……だが、今回ばかりは守りきれない……」
「守ってもらわなくても――」
その瞬間だった。
「少々、うるさいですね」
メディアナがどこからともなく三叉の槍を取り出し、ミイナへ突きを繰り出す。
バチィ!
槍は触れる寸前で弾かれた。
エスナが結界を張ったのだ。
またしても、ミイナは反応できなかった。
「これでわかったでしょう? 次は防ぎませんよ」
相変わらず、エスナの声は冷たい。
「その通りです。場違いです」
メディアナも無表情に続ける。
その横面へ、モノが電撃を放った。
避けもしない。
メディアナは左手をかざし、電撃を受け止めた。
「ガッカリです。勇者がその程度ですか」
「な? メディアナ。大したことないだろ? 油断するくらいが丁度いいのさ」
『舐めやがって』
モノは奥歯を噛み締めるが、追撃はできなかった。
「今のでわかりました。猫勇者。貴方も戦力外です。下がっていなさい。今の私がどこまで出来るかわかりませんが、あなた方よりはマシです」
エスナの声はさらに冷たくなる。
そして無造作に前へ進み出た。
*
「私には時間がありません。さっさとやりましょう」
エスナの声に感情はない。
「本来なら、私の力は継承して魔王を討ち滅ぼすためのものなのですが。出し惜しみは出来ませんね」
パキ――と、空気が張り詰める音がした。
「エスナの本気ですか。それこそ油断できませんね。まずは私からいきましょう」
メディアナが三叉の槍を向ける。
先端から黒い雷が奔り、エスナへ襲いかかる。
「反転」
黒い雷は瞬く間に白へ変わり、逆方向へ跳ね返った。
メディアナを撃ち抜く。
「落ちろ」
呟きと同時に、メディアナは地面へ叩きつけられた。
「世話が焼ける部下だな」
デビルヘッドが突進する。
「止まれ」
その一言で、空中停止。
「大人しくしてろ」
次の瞬間、デビルヘッドが苦しみ始めた。
「ぐぅおぉ! なんだ!? これはぁ!」
「なるほど。お前は呪いそのものか」
エスナはつまらなそうに言う。
「救いようがない」
そしてメディアナへ手をかざす。
「うっ! ううぅ! 何を!?」
苦悶。
翼が縮み、角が短くなる。
衣服の色が抜け落ち、白へ近づいていく。
「お前は元々人間か。話が早い」
「喜べ。人間に戻してやろう」
「やめろぉぉ!」
メディアナは絶叫した。
*
「……すごい! 圧倒してる!」
ミイナが思わず声を上げる。
『……いや、エスナの消耗も激しい。時間との勝負だ』
額に冷や汗。
それでも浄化は進む。
「いい加減にしろ! この女ぁ!」
黒い火球。
「無駄だ。反転」
白炎となり逆流。
「クソがぁぁあぁ!」
だが――異変。
エスナが膝をついた。
激しく咳き込む。
「エスナさん!」
「来るな!」
その瞬間。
三叉の槍が空間を貫いた。
本来ミイナを貫く軌道。
だが――
槍はエスナの腹部を貫いていた。
『エスナ!』
「エスナさん!」
「ぐふっ……私とした事が……貴女を盾にするべきでした」
血が溢れる。
「いいですか……よく聞きなさい……もう私には二人を抑える力がありません……ですがデビルヘッドだけは押さえつけます……今のうちにシスターズを……弱体化した今なら戦えるはずです……」
「わかりました……」
ミイナは再び構える。
『任せろ』
メディアナが立ち上がる。
角は短く、翼も小さい。
だが構えに隙はない。
「あなた方を倒し、次こそエスナにトドメを指します」
「させません!」
『やってみろよ』
エスナに残された時間は少ない。
ミイナとモノは、それを肌で理解していた。




