硬質化と真紅の悪魔
東の戦場。
ペルシャとハイランドは苦戦していた。
「……攻撃が、通らない!」
ペルシャが奥歯を噛み締める。
ハイランドも片膝をつき、肩で息をしている。
「そんなもんかい? つまらないね。このデクサ様の相手をするには、百年早かったようだ」
真紅の悪魔、デクサは余裕綽々といった口調で、剣を肩に担いだまま笑った。
「どれ、もう一度いくよ!」
デクサがペルシャへ斬りかかる。
大振り。
パワー重視の一撃。とても洗練された剣士の斬撃とは思えない。
ペルシャは身体を斜めにして躱し、シャムシールで横薙ぎに首を払う。
――はずだった。
刃は、デクサの首で止まっている。
薄皮一枚、傷ついた様子すらない。
ニィ、と音が聞こえそうなほど、デクサは口角を吊り上げる。
振り切った剣を返し、ペルシャの脇腹を狙う。
「ペルシャさん! 防御を!」
《二重増幅円衝撃魔術陣》
ハイランドが拳でデクサを撃ち抜いた。
魔術で衝撃力を増幅した拳が、デクサを吹き飛ばす。
建物をいくつか貫通し、瓦礫の中へと叩き込んだ。
だが――
デクサは、すぐに立ち上がる。
「な、何度目ですか……」
ハイランドは唖然とする。
そうなのだ。
先程から何度も、ペルシャとハイランドは猛攻を加えている。
それでもデクサは――
「効かないね。どうした? もっと全力で来なよ」
一切のダメージを感じさせない。
飄々とした態度で、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「ハイランド」
ペルシャが小声で呟く。
「隙を作ってください。私の竜血特性を試します」
術式を介さず、エステラのみで発動する固有能力。
それが竜血特性。
ペルシャの場合、素手で触れたものを“柔らかくする”力を持っていた。
「……わ、わかりました。や、やってみましょう」
ハイランドが頷く。
「何をごちゃごちゃ喋ってるんだい! もう終わりにするよ!」
デクサは単調だ。
ガードの必要がない。
ただ真っ直ぐ突っ込めばいい。
ハイランドが拳を構える。
《二重増幅円炸裂魔術陣》
橙の光が右腕を照らす。
だが、狙いはデクサではなかった。
ズドォン!
拳が地面を砕く。
石畳が砕け、砂煙と礫が舞い上がる。
デクサはその中へ突っ込んだ。
「小賢しい!」
「ぐっ!」
止まらない斬撃が、地面に拳を突き刺したままのハイランドの二の腕を貫く。
その瞬間――
ヒタリ。
ペルシャの左手が、デクサの腹部に触れた。
「なんだい? そりゃ。痛くも痒くもないね!」
直後、ペルシャは横薙ぎに斬りつける。
血が噴き出す。
シャムシールが、デクサの腹部を切り裂いた。
「なにぃ!?」
(浅い! もう一撃!)
ペルシャが回転し、追撃を狙う。
デクサは剣を引き抜こうとするが、ハイランドが二の腕の筋肉を締め、抜かせない。
「チッ!」
舌打ちと共に、デクサは飛び退いた。
そこへペルシャの追撃。
今度こそ首を捉える。
シャムシールが迫る――
ゴン!
その瞬間。
ペルシャの側頭部に瓦礫が直撃した。
バランスを崩す。
刃は空を切った。
「ふぅー……危ないところだった。竜血特性とはねぇ。でも、もう喰らわない。これならどうだい?」
バキバキと音を立て、周囲の瓦礫が浮遊する。
それらはデクサの四肢、腹部、頭部へとまとわりついた。
巨大な鎧が形成される。
「もちろん、この瓦礫も硬質化してある。これで剣も拳も、竜血特性すら封じたぞ。さぁ、どうする?」
ハイランドとペルシャの顔には、明らかな疲労。
対するデクサは、戦いを楽しむかのように高笑いを響かせた。




