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戦闘と宝の番人

ミイナは、考えなかった。

考える前に、身体が動いていた。

「ミイナ!?」

ペルシャの声が、背後で弾ける。

だが、ミイナは止まらない。

黒曜石の床を蹴り、踵を返し、ネフェルアンプへと駆け戻る。

『ミイナ! 無茶だ!』

モノの声。

それでも。

『……チッ!』

舌打ちと同時に、モノも方向転換する。

『置いていけるかよ!』

ネフェルアンプは、片手でバスティの喉を掴み上げたまま、ゆっくりとこちらを見た。

鈍い金色の眼。

そこに、感情はない。

ただ――

「所有物」を奪おうとする存在を、排除する意思だけ。

バスティは必死にネフェルアンプの腕を掴んでいるが、指は食い込むばかりで、びくともしない。

「……ッ、ミイナ……来るんじゃ……!」

声が掠れている。

ミイナは、歯を食いしばった。

ポーチから、銀の盃を取り出す。

『ミイナ、まさか――』

「これが欲しいんでしょ!」

ミイナは、盃をネフェルアンプに向かって高く掲げた。

ネフェルアンプの視線が、はっきりと盃へ移る。

一瞬。

本当に、ほんの一瞬だけ。

掴んでいたバスティへの力が、緩んだ。

『今だ!』

モノが跳ぶ。

小さな黒い影が、ネフェルアンプの顔面へ一直線。

爪を立て、眼を狙う。

ネフェルアンプが、低く唸る。

その瞬間。

ミイナは、バスティの身体を全力で引き寄せた。

「バスティさん!」

二人とも、床に転がる。

同時に、ネフェルアンプの巨大な手が、空を掴む。

――間一髪。

『走れ!!』

モノが叫ぶ。

ミイナは、バスティの腕を掴んで引き起こす。

「走れる!?」

「……ああ……!」

バスティはふらつきながらも、立ち上がる。

背後で。

ズズ……ッ。

床を引きずるような音。

ネフェルアンプが、ゆっくりとこちらへ歩き出している。

怒りはない。

焦りもない。

ただ。

「逃がさない」という、執念だけ。

『ミイナ! 後ろ!』

ミイナは振り返らない。

走る。

ただ、走る。

出口へ。

仲間たちが待つ通路へ。

その背中に、ネフェルアンプが迫ってきていた。



幸いなことに、通常のアンプには麻痺毒が効いているようだった。

アンプたちは床に倒れ伏したまま、起き上がる気配がない。

ミイナはアンプたちを横目に、通路へ向かって走っていた。

バスティに肩を貸しているため、速度が出ない。

盃のことは、後で考える。

「ミイナ!」

ペルシャが叫んだ。

思わず振り返る。

ネフェルアンプが、宝刀を振り上げている。

ガキィィィン!

間一髪。

ペルシャがシャムシールを抜刀し、ネフェルアンプの一撃を受け止めていた。

「ペルシャさん!」

そこから、激しい剣戟の応酬になる。

ネフェルアンプの剣技とパワーは相当なものだった。

一撃一撃が重く、ペルシャのシャムシールが弾かれる。

しかし、ペルシャはミイナが知る限り、最高峰の剣士の一人だ。

弾かれつつも体勢を崩さず、攻撃を華麗にいなし、次の一撃へと繋げる。

間違いなく、ペルシャが優勢だった。

――だが。

ネフェルアンプの強みは、剣技だけではない。

「ワウォォォォオン!」

遠吠え。

狼や、ジャッカルがするようなそれ。

すると、ミイナは腰に違和感を覚えた。

「……え?」

ズシン。

ミイナは立っていられず、腰を落とす。

剣だ。

ミイナのショートソードが、重さを増している。

ポーチも重い。

おそらく――金属。

金属の重量を上げる魔法だ。

ミイナは慌てて、剣の鞘を結いつけていた革ベルトと、ポーチを外した。

ペルシャを見る。

ペルシャは、シャムシールを手放していた。

シャムシールは、地面に張り付くようにしている。

あれも、重くなったのだ。

ペルシャは、腰に結いつけた封印された二本目の刀を外そうとはしなかった。

明らかに、動きがぎこちない。

「ペルシャさん!」

ミイナは叫ぶ。

だが、ペルシャは防戦一方だった。

『ミイナ殿! 拙者も動けないでござる! どうか、モノと一緒に援護を!』

背後で、クロスケも地面に突っ伏していた。

仕込み刀を脚に仕込んでいるからだろう。

「仕方ない! これが最後の一発だ! いくよ!」

バスティが、黒い瓶――閃光弾を投げる。

炸裂。

強烈な光が、部屋を満たした。

「今のうちに盃を!」

誰かが叫んだ。

ミイナは目を細めたまま、走り出す。

ネフェルアンプの脇をすり抜ける。

地面に転がっている盃に、手を掛けた。

――重い。

持ち上がらない。

きっと、先ほどの術が盃にも作用しているのだ。

その間に。

ネフェルアンプの視力が、回復した。

盃を必死に床から剥がそうとしているミイナを、睨め付けていた。



ミイナが盃から手を離すより先に、ネフェルアンプが動いていた。

ミイナの頭上に宝刀を振り下ろそうとした瞬間だった。

電撃がネフェルアンプを貫いた。

モノだった。

猫魔法《雷》。

黒猫の尻尾から放たれた電撃が直撃したネフェルアンプは、一瞬動きを止める。

盃が軽くなった。

ミイナは盃を持ち上げて、走り出した。

しかし。

「ウォォォォォォォォォォォォン!」

再びの遠吠え。

盃の重量が、急激に増加する。

ミイナは盃を持ったまま、前のめりに転んでしまう。

『ミイナ! ダメだ! 気絶させる必要がある!』

モノが叫ぶ。

『武器がない! 近接は無理だ! 魔術でやるぞ!』

「うん!」

魔術。

魔術の専門家は、この場にいない。

魔術師のハイランドと、聖女のフィリアは地上で待機している。

ミイナは、少量の水を作り出すこと、そしてそれを操作することしかできなかった。

……二年前までは。

「いくよ、モノ」

ミイナは両手を掲げると、拳大の水球を無数に作り出した。

水球はふわふわと浮遊し、シャボン玉のように漂っている。

そこに、構うことなくネフェルアンプが突っ込んでくる。

ネフェルアンプが、水球に触れた瞬間だった。

ボン!

水球が、衝撃を伴って爆発した。

水蒸気爆発。

この二年間で、ミイナが新たに習得した魔術だった。

その衝撃で、さらに爆発が連鎖する。

ボンボンボンボンボンボン!

四方八方からの衝撃が、ネフェルアンプを襲う。

水蒸気の霧が晴れる。

ネフェルアンプは、怯んでいなかった。

構わず、宝刀を振り回して突進しようとする。

そこに、再びの電撃をモノが放つ。

今度は全身が濡れているため、電撃の威力が増幅していた。

ネフェルアンプは全身から煙を上げ、その場で立ち尽くした。

しかし、眼のギラ付きはまだ死んではいない。

怒りのこもった表情で、ミイナとモノを睨みつける。

「ごめんね」

ミイナが両手を翳す。

今度は大きな水球が現れ、ネフェルアンプの頭を覆った。

ゴポゴポと気泡が、水球の中で弾ける。

ネフェルアンプは水球を引き剥がそうと踠くが、水球を掴むことはできない。

その場で、しばらく踠き苦しんだ後、地面に仰向けに倒れた。

ミイナは水球を解除する。

ネフェルアンプの呼吸が、再開する。

どうやら、気絶しただけのようだ。

「……本当に倒しちまったよ」

バスティが、驚愕と感嘆の声を上げる。

「なんとかなりました。いきましょう」

ミイナは盃を両手で拾い上げる。

剣とポーチを回収し、大事そうにポーチに収める。

「強くなりましたね」

ペルシャが、ミイナの頭に手を置く。

「えへへ。ありがとうございます」

ミイナは、少し照れ臭そうにする。

『良いからさっさと帰るぞ』

モノがぶっきらぼうに言う。

『なんと言うか、モノはデリカシーがないでござるよな……』

『うるさい』

「まぁ、モノは相変わらずだから」

ミイナは、苦笑しながら言った。

こうして、一行は盃と共に、地底ピラミッドを後にしたのだった。


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