表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/88

魔王の手下と第三王子

「え……?第三王子!?」

ミイナは驚愕した。

盲目のディエスの為に買い出しをしていた青年。

ミイナ達にも気さくに話しかけてくれた青年が、目の前にいる冷たい印象の男と同一人物だとは、とても信じられなかった。

「でも、良いんですかー? 総大将が前線に出てきてー。あなたを潰せば、全てお終いですよー」

サンサはサンディを睨めあげ、不敵に笑った。

サンディは、瞬き一つしない。

「そうですね」

あっさりと、肯定した。

サンサの眉が、わずかに動く。

「……へぇー」

「怖くないんですかー?」

サンディは、ゆっくりと剣に手を掛ける。

「恐怖は、“失う物がある者”が抱く感情です」

金属が擦れる、乾いた音。

「私は、この国の頂点を目指しています」

「恐怖など感じている暇はないのです」

ミイナの背中を、冷たい汗が伝った。

サンサは、楽しそうに笑った。

「なるほどー」

「やっぱり噂通りですねー」

「人の皮を被った怪物みたーい」

サンディは、視線を逸らさない。

「本物の怪物に言われる筋合いはありません」

その一言で、空気が変わった。

サンサの周囲に、冷気が噴き上がる。

地面が、きしりと凍り始めた。

サンディの背後。

弓兵たちが、一斉に矢を番える。

誰も、声を出さない。

「……いいですねぇ」

サンサは、舌なめずりをした。

「じゃあ――」

「どっちが怪物か、確かめましょうかー」

サンディは、短く言った。

「第四射構え」

「放て!」

相当に訓練されているのだろう。

放たれた矢は寸分違わずサンサに殺到する。

しかし、命中したかに思われた矢は、氷の膜で防がれていた。

「残念ですねー。威力が足りませんよー。次は私の番ですー」

サンサの周囲に冷気が漂う。

氷柱が出現し、さらに鋭く、回転を加えながら浮遊し始める。

「盾兵構え」

サンディの号令で弓兵は下がり、盾を構えた屈強な兵士達が前線に躍り出る。

「くらえー」

ビュン!

回転を加えられた氷柱は亜音速に達した。

盾ごと貫かれ、兵士は背後の弓兵を巻き込んで吹き飛んだ。

しかし、サンディは動じない。

「なるほど。申し分ない威力です」

「余裕ぶっこいてると死にますよー」

さらに冷気が強まる。

氷柱の本数はさらに増え、百本に迫る勢いだ。

回転を加え、いつでもサンディを貫けるように浮遊している。

「余裕? ええ。負ける気がしませんので」

サンディは挑発するように微笑みかける。

「ムカつくガキだ。死ねよ」

サンサの口調が怒気を孕む。

次の瞬間、無数の氷柱はサンディに向かって放たれた。

「下弦」

百本に迫る亜音速の氷柱は、サンディではなく地面に向かって叩きつけられた。

「遅いですよ。ラニスタ」

「申し訳ありません。思いの外、手こずりました」

宮廷魔術師ラニスタが、サンディ王子の前に立ち塞がる。

「どりゃあ!」

次の瞬間、校舎の影から男が飛び出してサンサに切り掛かった。

レイヴンだ。

刀はサンサの腹部に命中する。

氷でガードしたものの、衝撃は殺しきれず、校舎の壁に激突する。

「もう失敗は許されませんよ? レイヴン」

サンディは一瞥すると、冷たく言い放った。

「はっ。心得ております」

サンディ王子の傍に、ラニスタとレイヴン。

剣と魔術の両翼が、ここにそろったのだった。



「次から次へと、賑やかなことですねー」

「……本当に、腹立たしい」

サンサは相変わらず間延びした口調だったが、明らかに憤怒していた。

ミイナは、第三王子の背後からラニスタを見つめていた。

クロスケとモノは、どうなったのだろう。

ラニスタがここにいるということは、負けてしまったのか。

それとも――逃げられたのか。

その視線に、ラニスタが気づく。

「心配いりません。猫と案山子は捕らえました」

淡々とした声。

「あとで再会させてあげますよ。檻の中でね」

冷たい言葉だった。

だが、少なくとも――

二人は、まだ生きている。

安堵すべきか。

それとも、絶望すべきか。

ミイナの胸中は、ぐちゃぐちゃだった。

「レイヴン。第二段階です」

「はっ!」

レイヴンは、自分の首元へ手をやる。

革製の首輪につけられた、小さな金属の輪。

コルソがしていたのと、同じ首輪だ。

カチリ。

小さな音。

首輪が、赤く光った。

「――――」

レイヴンの喉から、低い呻き声が漏れる。

筋肉が膨張する。

血管が浮き上がる。

骨格が盛り上がり、一回り大きくなる。

「ふーっ!」

レイヴンは大きく息を吐いた。

次の瞬間。

空中のサンサへ、跳躍。

「チッ!」

サンサは氷で剣を生成し、レイヴンの斬撃を受け止める。

ガキン!

受け流すようにいなし、上空へと飛び上がる。

「上弦」

ラニスタが唱える。

レイヴンの身体が、ふわりと浮き上がった。

「おりゃあ!」

叩き下ろす一撃が、サンサの肩口に命中する。

「下弦」

落下速度が、さらに加速。

サンサの身体が、凄まじい勢いで地面へ叩きつけられた。

ドンッ!!

砂埃が舞い上がる。

サンディが、淡々と告げる。

「殺す必要はない。重要なサンプルだ」

「それに――父上に、魔王復活の証拠として突きつけられる」

氷よりも冷たい声だった。

「はっ!」

「承知しました」

サンサは、地面に這いつくばっていた。

「……やってくれましたねー。身動きが、取れません」

「当然です」

ラニスタは、地面を指差し続ける。

「私の術式・“重月”からは逃れられません」

「それなら――」

サンサの周囲に、かつてない冷気が噴き出す。

「何もかも、凍らせてやる!」

空気中の水分が凍結する。

キラキラと、ダイヤモンドダストが舞い始めた。

サンディは怯まない。

ゆっくりと、サンサへ歩み寄る。

手には、蛇の装飾が施された杖。

「無駄です」

冷気が、杖へと吸い込まれていく。

「は? なんだよそれ!」

サンディは、表情を変えない。

「終わりです。レイヴン」

「はっ」

「どりゃあ!」

呪力で強化された鉄拳が、サンサの側頭部を打ち抜いた。

ゴッ!!

鈍い衝撃音。

サンサの身体が、力なく崩れ落ちる。

「終わりましたね」

サンディの、小さな呟き。

ラニスタとレイヴンは、片膝をついて傅く。

「帰りましょう」

サンディは、ミイナへと向き直る。

「貴女も一緒にね」

右手を差し出す。

そして。

先ほどまでの冷たい表情が嘘のような、

華やかな笑顔を浮かべたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ