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殺戮眼と竜人形態

玉座の間は、崩落していた。

魔王城の、あまりにも高すぎる天井が崩れ落ちる。

目の前には、瓦礫の山。

積み上がり、視界を覆っている。

日はとっぷりと暮れ、

崩れた天井の穴から、星空が覗いていた。

静寂。

――戦いの終わりを思わせる、静けさ。

「モノ! やったね!」

ミイナが、弾けるように声を上げる。

そのまま駆け寄ろうとする――が。

「まだだ。来るな」

モノが、右手を上げて制した。

その声音に、緩みは一切ない。

「念には念を入れる」

次の瞬間。

モノの眼が、開く。

――殺戮眼。

瓦礫が、浮き上がる。

意思を持ったかのように集まり、球体を形作る。

その中心。

下敷きになっていた魔王竜を――

圧縮する。

ギリ……ギリ……と。

空間ごと押し潰す。

バキャッ!

骨の砕ける音。

瓦礫の隙間から覗いていたヘカトキリオスの腕が、力なく垂れ下がる。

「まだまだいくぞ」

容赦はない。

バキャッ!

バキャッ!

バキャッ!

何度も。

何度も。

押し潰す。

「やはり、これが最適解か」

モノが、低く呟く。

「オゼロのジジイのやった通りだったな」

その眼に、油断はない。

バキャッ!

バキャッ!

バキャッ!

脳裏に、蘇る声。

【戦え】

【奴を殺せ】

(これで、少しは褒めてくれるかよ……ジジイ)

心の中で呟く。

さらに圧を強める。

バキャッ!

バキャッ!

バキャッ!

バキャッ!

――バキッ。

――ギギッ。

「……なんだ?」

音が、変わった。

砕ける音ではない。

潰れる音でもない。

鈍く。

硬い何かが、擦れるような音。

違和感。

次の瞬間――

「嫌な殺し方をしてくれるものだ」

パァン!

衝撃。

モノの身体が弾かれる。

腹部に叩き込まれた衝撃で、後方へと吹き飛んだ。

瓦礫が――崩れる。

いや。

崩れたのではない。

――砂になっていく。

さらさらと。

音もなく。

形を失っていく。

その中心から、現れたのは――

リザードマン。

否。

それは、明確に違う。

顔は、より魔族に近い。

頭部には、捻れた角。

赤黒い眼が、爛々と輝く。

額には――肥大化した、第三の眼。

背中には、竜のような皮膜の翼。

引き締まった肢体。

そして――六本の腕。

そのすべてが、翡翠色の鱗に覆われている。

静かに、立つ。

瓦礫の中心に。

その姿は――

もはや竜でも、魔族でもない。

――竜魔人。

そう呼ぶべき存在だった。



「モノ!」

ミイナが叫ぶ。

その声に応じるかのように――

ヘカトキリオスは、無造作に拳を振るった。

パァン!

空気が破裂する。

見えない衝撃が、一直線に走る。

「ミイナ殿!」

クロスケが、割り込むように前へ出る。

身体を縦にして受ける。

「うぐっ!」

衝撃。

クロスケの身体が弾き飛ばされる。

そのままミイナに激突した。

「行きなさい」

フィリアの声。

ドラゴンゾンビが、巨大な腕を振り上げる。

そのまま叩きつけた。

だが――

ヘカトキリオスは、片腕でそれを受け止める。

止まった。

完全に。

パァン!

別の腕が、軽く振られる。

それだけで、ドラゴンゾンビは吹き飛んだ。

衝撃波。

ただそれだけで。

「素晴らしいと思わんか? 竜の力」

ヘカトキリオスが、ゆっくりと語る。

「単純なフィジカルが――すべてを凌駕する」

その隙を突くように、

ハイランドが術式を展開する。

《九重増幅円爆裂魔術陣》

ズガァァァアン!

爆発。直撃。

だが――

ヘカトキリオスは、動かない。

ガードすらしない。

バリッ!

雷鳴。

爆炎の中から、姿が消える。

次の瞬間。

ハイランドの眼前に、立っていた。

「なっ――」

パァン!

パァン!

パァン!

至近距離。

腹部へ。

見えない衝撃が、叩き込まれる。

「ブッ……!」

ハイランドが吐血する。

内側から、破壊された。

「好き放題しやがって!」

モノが斬り込む。

超高速の突き。一直線。

だが――

ヘカトキリオスは、それを三本の指で摘まむ。

止めた。

あまりにも容易く。

《四十重増幅円龍炎術式》

腕から炎が溢れる。

龍の形を成す。

そのまま、モノへと噛みついた。

炎が包む。

肉が焼ける。

一瞬で――炭化。

バリッ!

バリッ!

バリッ!

「その辺にしておくでござるよ!」

クロスケが踏み込む。

雷鳴の異名に違わぬ速さ。

背後を取る。

頸へ――斬撃。

しかし。

手刀。

軽く振るわれた腕。

それだけで、鎌鼬が生まれる。

クロスケの両腕が、宙を舞った。

「再生を!」

フィリアが叫ぶ。

火車髑髏の車輪が回転する。

紫の炎が、強くなる。

クロスケの腕が接着される。

モノの炭化した皮膚が、再生する。

ハイランドも、かろうじて体勢を立て直そうとする。

「やはり、聖女か」

ヘカトキリオスが呟く。

「再生は任せてください! 攻め続けて!」

フィリアが叫ぶ。

火車髑髏が、守るようにフィリアを握る。

――その瞬間だった。

音が、ない。

次の瞬間。

フィリアの視界が跳ねた。

火車髑髏の腕ごと、吹き飛ばされていた。

バキャン!

壁に叩きつけられる。

「うっ!」

ズガァァァアン!

ズガァァァアン!

追撃。

ドラゴンゾンビが、次々と叩きつけられる。

ヘカトキリオスの表情が、変わっていた。

額の第三の眼。

それが――満月のような黄金に輝いている。

「勇者の眼!!」

ミイナが叫ぶ。

その瞬間。

黄金の眼が――ミイナを捉えた。

ヒュン!

空間が、歪む。

ミイナの身体が弾かれる。

そのまま――壁へ。

叩きつけられた。

「ミイナ!」

モノが叫ぶ。

ヒュン!

ヒュン!

ヒュン!

モノ、クロスケ、ハイランドが吹き飛び、壁に激突する。

ガラガラと瓦礫が崩れ落ち、三人は瓦礫に埋もれた。

夜空が覗く玉座の間。

立っている者は――

ただ一人。

魔王のみだった。


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