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第二形態と竜の力

魔王の肉片が、プスプスと煙を立てる。

モノとクロスケが、油断なく間合いを図る。

――瞬間。

魔王の肉片が膨張した。

どんどんと膨らみ、巨大化していく。

「勇者よ、これならばどうする?」

第二形態だった。

肉片は再生を繰り返しながら膨れ上がり、

六本の腕と三つの赤黒い目玉を持つ、醜い竜へと姿を変える。

「ようやく本気か! 待ちくたびれたぜ!」

「そうでござるな!」

モノとクロスケが、怯むことなく斬りかかる。

ブンッ!

魔王――いや、魔王竜ヘカトキリオスは高速で回転し、

尻尾を二人へと叩きつけた。

バキィ!

二人は吹き飛ばされる。

壁に激突する寸前で受け身を取るが、

そこへ黒炎が迫った。

「危ない!」

ハイランドが即座に盾の魔術陣を展開し、二人を庇う。

「小賢しい!」

魔王竜は火を吐くのを中断し、六本の腕を握り込む。

そして――

拳を、連続して叩きつけた。

とてつもない速度のラッシュ。

盾の魔術陣が、砕ける。

「ぐっ!」

「うおっ!」

「がはっ!」

三人は、まとめて叩き潰された。

「深淵を!」

フィリアが唱える。

魔王竜の足元が液状化し、骸骨の腕が脚を引き摺り込もうとする。

「無駄だ!」

「きゃっ!」

魔王竜は強靭な尻尾を振るい、フィリアを吹き飛ばした。

壁へ激突し、動かなくなる。

――瞬く間に。

立っているのは、ミイナ一人となった。



「一人になったな、小娘。見逃して欲しいか?」

魔王竜の声には、明らかな嘲りが混じっていた。

「ううん。ここまでは予想通りだから」

「は?」

ミイナは、すでに祈りを終えていた。

一日三回しかできない祈りの、二回目。

段階的に呪いを剥がす、シャクナ族の術――第二段階。

白い光が、部屋を包み込む。

ビュン!

魔王竜の身体が、宙に浮く。

ドガァァァアン!

凄まじい速度で壁へ叩きつけられた。

勇者モノの金色の瞳が、魔王竜を捉えている。

“殺戮眼”が、発動していた。

「効いたぜ。クソ魔王」

「流石にタフでござるな」

「危ないところでした」

モノ、クロスケ、ハイランド。

三人が、戦線へ復帰する。

しかし――

魔王竜は平然と立ち上がった。

「効かぬな。我の体は翡翠竜の鱗で覆われておる。貴様らの刃など挫いて見せよう」

「そうでござるか?」

クロスケが、抜刀の構えを取る。

「やってみなけりゃわからぬでござるよ!」

神速の抜刀術。

ガギィン!!

魔王竜の腕に、阻まれる。

《九重増幅円爆裂魔術陣》

赤熱した火球が、再び顔面を襲う。

ガシィッ!

「うっ!」

だが魔王竜はクロスケを鷲掴みにし、

そのまま盾として火球を受けた。

ズガァァァアン!

「が……は……」

火球はクロスケに直撃し、黒煙を上げる。

「野郎……!」

モノが跳躍し、目玉を狙って高速の突きを放つ。

「馬鹿め!」

魔王竜は六本の腕を翳す。

掌から黒い雷が迸り、モノを貫いた。

「ぐわっ!」

モノは吹き飛ばされ、壁へ激突する。

それでも、すぐに立ち上がる。

「ダメだ。ミイナ。出し惜しみできねえ。三回目だ。完全解除で闘う」

「で、でも!」

ミイナは躊躇った。

三回目の解呪――それを使えば、エステラは底をつく。

もう、戦力にはならない。

この戦いで役に立てているとは思えない。

それでも――完全な足手纏いになることに、抗いたかった。

「このままだとジリ貧だ! ミイナ! 頼む!」

モノの声は、必死だった。

こんな声を、ミイナは聞いたことがなかった。

「うん……わかった。モノを信じる!」

ミイナは、三度目の祈りを捧げる。

白い光が、部屋を覆い尽くした。

「……解いたな?」

魔王竜ヘカトキリオスの、不気味な声が響く。



白い光が、消えない。

いや――

消えているはずなのに、何かが残っている。

静まり返った玉座の間に、奇妙な“重さ”だけが沈んでいた。

「……?」

ハイランドの表情が歪む。

「おかしい……」

彼は、自らの掌を見つめた。

「魔力が……」

試しに、指先に火を灯す。

しかし――

その火は、ふっと揺らぎ、弱まる。

「減っている……?」

「何言ってやがる。さっきまで全開だったろ」

モノが眉をひそめる。

だが、その言葉の途中で違和感に気づいた。

「……なんだ?」

身体が、重い。

ほんの僅か。だが確かに、力の“乗り”が鈍い。

クロスケもまた、刀を握り直す。

「……力が、抜けていくでござる……」

刃の冴えが、明らかに鈍っている。

「そんなはず……」

ハイランドが首を振る。

「消耗じゃない……これは……」

視線が、ゆっくりと魔王へ向く。

――逆に。

あれだけ焼かれ、切り刻まれたはずの巨体が。

「……何だ、あれは」

モノの声が低くなる。

魔王竜の鱗。

先ほどよりも、わずかに光を帯びている。

脈打つように。

まるで、何かを“取り込んでいる”かのように。

「……奪われている?」

ハイランドの呟きが、空間に落ちた。

沈黙。

その沈黙を、楽しむように。

魔王竜ヘカトキリオスは、ゆっくりと首を傾げた。

「ようやく気づいたか」

三つの眼が、細められる。

「遅かったな」

その声には、確かな愉悦が混じっていた。


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