表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
126/140

平原と球体男

それから数日が経った。

一行は、ついに旧イスカリオテ平原へと到達していた。

かつての豊かな大地は、今や荒れ果てた死の平原と化している。

砂と岩、そして無数の骨が転がるだけの、不毛の地。

その果て――

視界の奥には、魔王の城が聳えていた。

『遂にきたぞ!我らが悲願!宿敵の居城に!』

シャオティエンが雄叫びを上げる。

竜たちもそれに続き、空を震わせる咆哮を響かせた。

――しかし。

その雄叫びは、途中で途切れた。

誰もが、同時に気づいたのだ。

――来た。

彼方。

魔王城の門が、音もなく開く。

その奥から、ゆっくりと一人の人影が現れた。

奇妙な男だった。

頭が――球体。

顔の凹凸は一切なく、ただ滑らかな球体が首の上に乗っている。

まるで仮面のようだが、違う。

“それが顔だった”。

身体は人間と同じ。

だが、仕立ての良い礼装を纏い、まるで舞踏会に向かうかのような優雅さを漂わせている。

足取りはゆっくり。

だが確実に、こちらへと近づいてくる。

『なんでござるか……あれは』

クロスケが低く呟く。

『ゆ、油断はできません……』

ハイランドの声が、わずかに強張った。

その時。

球体の頭が――わずかに“こちらを向いた”。

目も、口もないはずなのに。

確かに、“見られた”。

そんな感覚が、全員の背筋を凍らせた。

空気が、凍りつく。

その瞬間――

ミイナの脳内に、声が響いた。

《勇者とそのお仲間の皆様、こんにちは。私は魔王軍幹部、“マテリアルヘッド”》

金切り声が、脳を直接引っ掻くように響く。

「っ……!」

ミイナは思わず頭を押さえた。

周囲を見れば、仲間たちも同じように苦悶の表情を浮かべている。

全員に、直接“届いている”。

《大変長らくお待ちしておりました。ここからのお相手は私がいたしますよ。お楽しみに》

「なんですか、このふざけた声は……」

ペルシャが耳を塞ぎながら吐き捨てる。

《たった一人で?と思いましたね?

そう、私は一人――ですが、一人ではありません》

《それを、今お見せしましょう》

その声は、竜たちにも届いていたのだろう。

一頭の翡翠竜が、怒りのままに飛び出した。

一直線の突進。

――その瞬間。

マテリアルヘッドの球体の頭が、ぐにゃりと歪む。

そして。

“葡萄のように分裂した”。

ドカン!!

竜の突進が直撃する。

分裂した球体は、派手に吹き飛んだ。

――だが。

終わらない。

散らばった球体の一つ一つから、肉体が“生えてくる”。

新たなマテリアルヘッドが、次々と生成されていく。

《さらに増えますよ》

分身たちの頭が再び分裂する。

増殖。

増殖。

増殖。

「……何、あれ」

ミイナは、思わず呟いていた。

球体が震え、粒が弾けるたびに、新たな個体が生まれる。

その繰り返し。

瞬く間に――数が膨れ上がる。

平原を埋め尽くすほどに。

最初に突進した竜は、すでに包囲されていた。

《はい。君は終わりですね》

無数の腕が、刃へと変化する。

翡翠竜は抵抗する。

だが、その度に――敵は増える。

止まらない。

削れない。

そして。

やがて。

力尽き、地に崩れ落ちた。

『な、なんでござるか……どうすれば……』

『焼き払ってくれる!』

数頭の竜が前へ出る。

青い炎が吐き出される。

戦場の大半を覆い尽くす、圧倒的なブレス。

だが――

《はい。“ジルコニア”》

その一言で、すべてが変わった。

マテリアルヘッドの全身が、白へと変質する。

白磁のような装甲。

それは、熱を拒む結晶体――ジルコニア。

炎が触れる。

だが、焼けない。

ただ表面をなぞるだけ。

内側には、何一つ届かない。

――無傷。

《私は増える。そして材質も変化する》

《つまり――》

《君たちは、ここで終わりです》

『ば、化け物ですね……』

ハイランドの声が、かすかに震えた。



「ミイナ……呪いを解け……総力戦でやるしかない」

モノの声は低く、しかし迷いがなかった。

「……でも!」

ミイナは即座に否定した。

この先には、魔王ヘカトキリオスが控えている。

ここで力を使えば――またモノが倒れるかもしれない。

「早くしろ……数が増えきる前にケリをつける。勇者の眼で――平原ごと沈めてやる」

「ダメ!」

ミイナは強く首を振った。

「そんなことしたら、モノが持たないよ!」

一瞬の沈黙。

だが――

「他に倒す手立てはないだろ。いいからやるんだ」

押し切るような声。

その時だった。

――背後から、声。

「放て」

次の瞬間。

空が、黒く染まった。

幾千、幾万。

数えきれないほどの矢が、一斉に放たれる。

それは雨ではない。

嵐だった。

轟音と共に、マテリアルヘッドの群へと降り注ぐ。

《む!――タングステン!》

即座に反応するマテリアルヘッド。

その全身が、鈍い金属光沢を帯びた。

重く、硬く、絶対に砕けない金属――タングステン。

ガガガガガガッ!!

矢は弾かれ、砕け、地面へと散る。

完全防御。

だが――

「お待たせしました。遅れてすみません」

穏やかな声が、すぐ背後で響いた。

ミイナの肩に、ぽん、と手が置かれる。

振り向く。

そこに立っていたのは――

サンサーラ王国第三王子、サンディ=サンサーラ。

その背後には、大軍。

旗が翻り、砂塵が舞い上がる。

王国の援軍が参戦したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ