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竜頭男と砂漠の死闘

ドラゴンヘッドの踵落としを、モノの剣が受け止めていた。

金属が軋む。

いや――違う。

空気そのものが、悲鳴を上げていた。

『……ほう』

ドラゴンヘッドの竜の瞳が、わずかに細くなる。

『人に戻ったか』

「悪いな。猫のままだと、さすがに分が悪い」

モノは軽く息を吐く。

だが、その足は沈んでいた。

圧だ。

たった一撃で、地面ごと押し潰されている。

『面白い』

ドラゴンヘッドは、踵にかけていた力をさらに込めた。

ギィィィ……ッ!

剣が、軋む。

足元の砂が、さらに深く沈む。

「……チッ」

モノは一歩、横へ滑るように力を逃がした。

その瞬間。

踵落としが地面に直撃する。

ドゴォン!!

赤い砂が爆発するように吹き上がった。

「モノ!」

ミイナの声。

だが、次の瞬間にはもう動いていた。

砂煙の中から、黒い影が飛び出す。

剣が閃く。

横薙ぎ。

ドラゴンヘッドの胴を狙う一撃。

――だが。

ガキィン!!

鈍い音。

刃は、止められていた。

腕一本で。

『軽いな』

ドラゴンヘッドは、片手で剣を受け止めていた。

そのまま――

握り潰す。

バキィ!!

剣が軋む。

「……っ!」

モノは即座に剣を引き抜き、後方へ跳んだ。

空中で体勢を立て直す。

着地と同時に、距離を取る。

『その程度か』

「準備運動だよ」

モノは笑った。

だが、その額には汗が滲んでいる。

(硬すぎる……)

(いや、それだけじゃねえ)

(技術もある)

ドラゴンヘッドは構えを崩していない。

無駄がない。

完全に“戦うための存在”。

『どうした、勇者』

一歩。

踏み出すだけで、砂が沈む。

『遠慮は必要ないぞ?』

「うるせえな」

モノはゆっくりと息を吐いた。

そして。

腰を落とす。

剣を――構え直す。

空気が変わる。

熱でも冷気でもない。

“殺意”そのものが、場を支配した。

『……ほう』

ドラゴンヘッドの口元が、わずかに歪む。

『ようやく来るか』

「行くぞ」

次の瞬間。

――消えた。

ドンッ!!

地面が弾ける。

一直線の踏み込み。

音より速く、間合いに入る。

斬撃。

連撃。

さらに踏み込み。

剣が、軌跡を残さずに走る。

ガガガガガガッ!!

火花が散る。

だが。

『遅い』

ドラゴンヘッドは、すべて受けていた。

腕で。

肩で。

時には拳で。

まるで、最初から見えているかのように。

「……っ!」

モノの目が鋭くなる。

(見切られてる……!)

その瞬間。

カウンター。

拳が、迫る。

「ぐっ……!」

ギリギリで受ける。

ドォン!!

衝撃。

体が吹き飛ぶ。

砂を滑りながら、数十メートル。

止まる。

「モノ!!」

ミイナが叫ぶ。

だが。

モノは、立った。

ゆっくりと。

口元の血を拭う。

「……なるほどな」

『理解したか?』

ドラゴンヘッドが、ゆっくりと構え直す。

「お前、ただ強いだけじゃねえな」

『当然だ』

低く、言い放つ。

『貴様らとは積み重ねが違う』

一歩。

また一歩。

近づいてくる。

『竜を喰らい、力を奪い、技を奪い』

『百年、鍛え続けてきた』

その圧が、空間を歪める。

『そのすべてが、この一撃にある』

拳を、構える。

空気が、震える。

「……いいね」

モノは笑った。

「やっと、まともに戦えそうだ」

その瞳が――変わる。

空色の中に、金色が滲む。

光が、脈打つ。

後ろで。

ミイナが、それを見ていた。

「……モノ」

この戦い。

今までとは違う。

“命を削る戦い”だと、本能で理解していた。

そして――

ドラゴンヘッドが、踏み込んだ。



ミイナは、この戦いを目で追うことすらできなかった。

完全に格が違う。

衝撃音が轟いたと思った瞬間、すでに別の場所に二人の姿が現れている。

助太刀しようものなら、完全に足手まといになる。

それが嫌というほど理解できていた。

ミイナは唇を噛み締める。

その時、肩にぽんと手が置かれた。

「任せるでござるよ」

「任せるニャ」

人の姿に戻ったクロスケとペルシャだった。

二人は同時に踏み込み、ドラゴンヘッドへ斬りかかる。

バキィィィン!

『数が増えたか?』

ドラゴンヘッドは、両手で二人の刀を軽々と受け止めていた。

「くらえ!」

そこへ、喉元めがけてモノの突きが飛ぶ。

ギィン!

だが、貫けない。

喉元までもが、異様な硬度を持っていた。

刀は首を貫くことなく、そこで止まる。

『三人がかりでこれとは……非常に情けなし!』

次の瞬間。

真紅の炎を纏った連続攻撃が炸裂した。

三人はまとめて吹き飛ばされる。

そこへ、間髪入れずにハイランドの雷が走る。

一直線ではない。

ドラゴンヘッドの周囲を囲むように、幾重にも走る雷撃。

追撃を防ぐための一手だった。

『なんだ、これは』

しかし。

ドラゴンヘッドは一切怯まない。

雷を物ともせず、そのまま悠然と歩み出る。

「帷を」

フィリアが静かに唱えた。

紫の靄が、ドラゴンヘッドを包み込む。

「小賢しい!」

ドラゴンヘッドが腕を一振りする。

その一撃で、靄は弾け飛んだ。

『勇者! 聖女! その仲間たち!』

その声には、明確な苛立ちが混じっていた。

『期待させおって! この程度か!』

ドラゴンヘッドは、明確に“失望”していた。

『貴様ら――全員出直してこい!』

空気が張り詰める。

そして。

――衝撃音。

ドラゴンヘッドが地面を蹴り抜いた。

ドォンッ!!

爆発的な踏み込み。

砂が礫となって周囲へと弾け飛ぶ。

ミイナは咄嗟に身を屈めた。

だが――

衝撃そのものに弾き飛ばされる。

視界が回る。

体が宙を舞う。

次の瞬間、地面に叩きつけられた。

ドサッ!

息が詰まる。

あたり一帯が吹き飛び、地形そのものが変わっていた。

まるで隕石でも落ちたかのように。

巨大なクレーターが生まれている。

その中心で――

ドラゴンヘッドは腕を組み、ただ立っていた。



『それで、なんなのだ貴様は』

ドラゴンヘッドは、ゆっくりとミイナに歩み寄る。

ミイナは咄嗟に飛び起き、抜刀術の構えをとる。

『なんだ? ふざけているのか?』

ドラゴンヘッドは一向に構うことなく歩み寄る。

ミイナは構えに一層力を込める。

『場違いなのだ』

一歩、また一歩。

『弱く、戦えもせず、守られるばかり』

影が迫る。

『そのような弱者には、虫唾が走る!』

――消えた。

いや。

“消えたように見えた”。

しかしミイナは、その思考を読んでいた。

顔面へ向けた右ストレート。

あまりにも直線的すぎる。

読める。

躱せる。

ミイナは身を捩る。

そして、カウンターのために剣を構える。

――だが。

ガシッ!

軌道が変わった。

拳は途中でねじ曲がり、ミイナの首を掴んでいた。

「うっ……!」

骨が軋む。

呼吸が止まる。

『足手まといめ』

ドラゴンヘッドの握力が、さらに強まる。

『なにか小賢しい手を使おうとしたな?』

視線が、見下すように細められる。

『姑息なり!』

力が、込められる。

『その首――へし折ってやる!』

その瞬間。

影が疾った。

『ぬおっ!?』

一閃。

「ミイナに触るんじゃねえ」

低く、怒気を含んだ声。

「蜥蜴モドキ」

モノだった。

その斬撃は、正確にドラゴンヘッドの腕を断ち切っていた。

『我の腕が……!』

だが。

その声に、怒りよりも――

わずかな高揚が混じる。

「腕の一本ぐらいでガタガタ言うんじゃねえよ!」

続けざまに、剣が振り抜かれる。

今度は胴。

ズガァン!!

切断には至らない。

だが、衝撃は通る。

筋肉を抉り、巨体を吹き飛ばした。

砂丘に激突。

砂煙が舞い上がる。

「モノ!」

「ミイナ、大丈夫か?」

「うん!」

「……もう一段階、解除だ」

モノの目が、鋭くなる。

「いけるか?」

「うん! いくよ!」

ミイナは両手を合わせ、祈りを込める。

白い光が溢れ出す。

やわらかく、しかし確かな力を持った光。

それは、呪いを“削り取る”光だった。

これまでの訓練で。

ミイナは完全な解呪こそできないものの――

段階的に呪いを剥がし、本来の力を引き出す術を身につけていた。

ただし。

負担は大きい。

一日三回が限界。

それでも――

今は、ここで使うしかない。

光が、モノを包む。

空気が、変わる。

白い光が消えたとき。

そこに立っていたのは――

一段、研ぎ澄まされた存在だった。

モノは、剣を構える。

ただの正眼。

だが。

その静けさが、異様だった。

空間が、張り詰める。

砂が、わずかに沈む。

遠くで。

ドラゴンヘッドが、ゆっくりと立ち上がる。

『……いい』

その声には、明確な愉悦があった。

『ようやく“戦い”になる』

モノは、口の端を上げた。

「ここからが本番だぞ」

一歩、踏み出す。

「蜥蜴モドキ」

『ふはは!』

ドラゴンヘッドが笑う。

『そう来なくては面白くない!』

『いくぞ、勇者!』

「かかってきやがれ!」

次の瞬間。

拳と剣が――

真正面から激突した。

ドォンッ!!

衝撃が、砂漠を揺らした。


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