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旅立ちと次の目的地

いつのまにか、あたりは静まり返っていた。

夜風はやみ、モノとミイナは沈黙に包まれる。

『そして、後はミイナと出会ってからの出来事さ』

モノが、一拍おいてから口を開いた。

「……うん」

『なんだ?神妙な顔して』

「モノ……辛かったね……」

ミイナは思わず、黒猫の体を抱きしめていた。

『うわっ!なんだよ急に!ドレスに毛がつくぞ?』

「うん。わかってる」

『離れろよ……』

モノはそう言うが、離れてほしくないのは口調から明らかだった。

「うん。もう少しだけ」

『そうか……もう少しなら、仕方ないな……』

そうして二人は、静かな夜に身を寄せ合っていた。

——のだが。

「あ!ミイナ!ずるいニャ!婚約者を差し置いて!モノとくっついてるニャ!」

ペルシャが騒がしく登場した。

『そうでござるよ。見当たらないと思ったら、こんなところにいたでござるか』

クロスケも後から続いてくる。

「も、モノもなかなか隅に置けませんね……」

ハイランドはしみじみと言う。

「恋ですわね!まさかの三角関係ですわね!?来ましたわー!!」

フィリアに至っては、とても楽しそうである。

『なんだよ!騒がしい!あっちいけよ!』

モノが照れ隠しなのか、声を張り上げる。

「そ、そんなんじゃないよペルシャさん!ただ、夜風に当たってただけ!」

ミイナは慌ててモノを離した。

「それにしては随分と仲良さそうだったニャ!怪しいニャ!」

ペルシャは目を細くして睨みつける。

それを遠くから、王族や貴族が生暖かい目で見ていた。

「なあ、姉さん。アイツらって意外と……」

「愉快」

「ふふっ。案外、ああ言う人たちが魔王を倒すのかもしれませんよ?」

三姉妹が呟く。

こうして、夜は更け、朝までお祭り騒ぎは続いたのだった。



『やっぱり、俺は翡翠竜に会いにいくべきだと思う』

数日後、一行は王宮の中庭にいた。

主に室内に入れないハイランドのためである。

「ま、またその話ですか」

『やっぱり反対でござるよ。モノが最後に会った時、どうなったかは知ってるでござる』

ハイランドとクロスケは首を横に振る。

『それでもだ。アイツらをそのままにはしておけない。このままだと、また五十年前の二の前になる』

「それでも、言葉も通じないのでしょう?どうやって説得するのです?」

『それは……』

フィリアの問いに、モノが口籠る。

「私ならどうかな?」

ミイナが一歩前に進み出た。

「私、動物と話せるし、竜さんとだって話せるかも」

「でも、危険すぎではありませんか?」

ペルシャが横から言う。

「危険でも、会いにいくべきだと私も思う」

ミイナの口調は断固としていた。

「これ以上、魔王の好きにさせないためにも。それに、モノの友達を放っておけないよ」

『うーん。しかしでござるな……』

『頼む!行かせてくれ!』

モノは頭を下げた。

「し、仕方ありませんね」

「まぁ、こうなるとモノは譲りませんものね」

「なるようになるニャ!」

渋々といった程だが、皆が縦に首を振った。

「話は聞かせてもらったよ!道案内は任せな!」

「私たちも行く」

「公国の竜種研究所の仕事がまだ残っていますからね」

デクサ、シニサ、メディアナの三姉妹も現れる。

「決まりだね」

ミイナがみんなを見渡す。

『ああ。次の目的地は、たてがみ山脈だ!』

モノはホッとしたような顔で意気込むのだった。



そこから二日間、ミイナたちは準備に明け暮れた。

武器の手入れ、保存食、水の確保。

さらには王から渡された支度金で、服装など一式を最新のものに切り替えた。

二日目は客間でたっぷりと寝て、英気を養った。

そして、翌日の夜明け。

王宮の東門は、まだ薄い霧に包まれていた。

空は淡く白み始め、街はまだ眠りの中にある。

その門の前に、一行は集まっていた。

「準備はいいですか?」

ペルシャが荷物を確認する。

「水袋、保存食、治療薬……問題ありません」

メディアナが淡々と頷いた。

「ふわぁ……まだ眠いですわ……」

フィリアは欠伸をしながらも杖を握り直す。

「拙者は万全でござる」

クロスケは案山子の胸を張った。

「私は大丈夫」

ミイナも頷く。

そして最後に、黒猫が門の前に立った。

『……行くぞ』

モノが小さく言った。

その声に、皆の視線が集まる。

『目的地は、たてがみ山脈』

黒猫は空を見上げた。

遠い北東の空。

そこには、まだ見えない山脈がある。

『翡翠竜の巣だ』

しばし沈黙が流れる。

やがて、クロスケが小さく笑った。

『まったく、モノは相変わらずでござるな』

「ええ、本当に」

ペルシャも肩をすくめる。

「でも」

ミイナが言った。

「それがモノだから」

モノの尻尾が小さく揺れた。

「門、開けます!」

門番の声が響く。

重たい城門がゆっくりと動き出す。

ギィィィ……と低い音が朝の空気に広がる。

やがて、王都の外へと続く道が姿を現した。

朝日が差し込み、街道を黄金色に染める。

モノは一歩、外へ踏み出した。

『……行こう』

その言葉に、一行も続く。

こうして。

黒猫の勇者と、その仲間たちは——

再び旅に出た。

目指すは、北東。

たてがみ山脈。

翡翠竜の巣へ。

そして。

その先に待つ、魔王との決戦へ向かって。


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