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昔話 復讐と竜喰い砂漠

それからまた五十年の時が過ぎた。

その間にこの大陸は様変わりした。

大陸の覇者、ハイト王国が滅んだことにより、サンサーラ王国が力をつけた。

この地域のほとんどがサンサーラ王国の領内となったのだ。

さらに草原が砂漠へと変貌した。

西のレスカリオテから広がった砂漠は、もはや大陸の半分を飲み込もうとしていた。

モノは失意のどん底にいた。

あれからモノはシャクナ族探しの旅を再開したが、一向に手掛かりは掴めなかったのだ。

そんな折、翡翠竜の世代交代の節目が近づいてきた。

それは、翡翠竜の復讐の時が近づいていることを示していた。

モノは再び、竜の巣を訪れることを決めた。

今度は止めるために。



『たのむ!どうか、思いとどまってくれ!』

『出来ぬ! 我らの五十年は、この日のためにあったのだ!』

『相手も、襲撃に来ることはわかっているはずだ! また罠かもしれない!』

『それでもだ! 罠など、踏み潰してくれる!』

『それが出来なかったから、前回敗れたんだ! わかるだろう!?』

『我らを侮辱するか!? 猫の分際で!』

『侮辱なんてしてない! ただ、無駄に死んでほしくないだけだ!』

『それが侮辱だというのだ! よいか? 我らは今度こそ、翼と誇りを取り戻すのだ! お主も来い! 責任を取れ!』

モノの言葉は、竜たちには響かなかった。

結局は押し切られ、竜たちは出陣することになった。

モノも竜の背に乗せられ、渋々と同行することになった。

再びの世代交代だった。

竜の卵を次の世代の翡翠竜に託し、竜たちは出撃する。

目指すはレスカリオテの魔王城。

翡翠竜たちは、ただ真っ直ぐに進軍した。

その進路にあるものなど、一切気にも留めなかった。

『おい! 街があるぞ! 避けろよ!』

『聞こえぬな!』

竜たちは進路にあるあらゆるものを踏み潰して進んだ。

村。

街。

砦。

そのすべてが廃墟と化していく。

この出来事を人々は後に――

「竜災害」

と呼ぶことになる。

そして。

――竜たちは、再び敗れた。

今度はレスカリオテにすら辿り着かなかった。

道中に広がる広大な砂漠へ差し掛かったときだった。

砂嵐の中から、一人の男が姿を現した。

竜の頭を持つ男だった。

赤黒い目を持つその男は、翡翠竜とモノを見上げてニヤリと笑った。

「よく来たな。勇者モノ。

 そして翡翠竜どもよ」

男は腕を広げる。

「だが、貴様らはこの“竜喰い砂漠”で息絶えることになる!」

『なにを! ほざくな!』

後にドラゴンヘッドと呼ばれる魔王軍幹部と、翡翠竜たちの戦闘は激しさを極めた。

竜の咆哮。

砂嵐。

魔術の爆発。

砂漠そのものが戦場となった。

モノも戦った。

しかし、まるで相手にならなかった。

戦いについていくことすら出来なかったのだ。

そして――

戦いの結末は、あっけなく訪れた。

最後に立っていたのは、ドラゴンヘッドだった。

翡翠竜たちは、すべて倒れていた。

「残念だったな、竜ども」

ドラゴンヘッドは笑う。

「また、竜血を貰うぞ」

竜の亡骸から血が吸い上げられる。

赤黒い血液が宙に浮かび、やがて巨大な球体となった。

そしてその血の球体は、一直線に魔王城の方角へと飛び去っていった。

こうして――

モノは三度目の敗北を喫したのだった。



命からがら逃げ出したモノは、また数年かけて竜の巣に戻っていた。

五十年後の悲劇を、あらかじめ止めようと思ったからだ。

しかしモノが目にしたのは、凄惨な光景だった。

「グルルル!」

「ギャァァァス!」

竜の子供たちは共食いをしていた。

『おい! どうしちまったんだ! やめろ!』

モノは体を張って止めようとするが、黒猫の体ではどうにもならない。

話も通じなかった。

そして理解した。

魔王の呪いだと。

今度は、言葉と知性が奪われたのだ。

モノは竜の子供たちが死んでいくのを、黙って見ているしかなかった。

モノの心は折れた。

そして絶望のまま、時を過ごすことになるのだった。



「ようやく見つけました」

とあるオアシスの街で、モノは声をかけられた。

『……なんだ』

「なんだとはなんですか。婚約者に向かって」

『……婚約者? だれだ?』

「ペルシャです。獣王国のペルシャ。随分と探しましたよ。まさか、本当に猫になっているとは」

『うるさい。放っておいてくれ』

モノはそっぽを向いた。

「いいえ。放っておけません。今のあなたは、とても不安定に見えます。希望を持たなくては」

『……希望ね。これ以上、俺にどうしろって言うんだ』

モノは俯きながら言った。

「そうですね。まずはこれを読んでください」

ペルシャは古びた古文書の切れ端を差し出した。

『……これは?』

「ペンタグラム大学の歴史研究室から失敬したものです。千年前にカエルにされた王子について書かれてます」

『……それがどうしたって言うんだ』

「読み飛ばしていいですよ。後半のここからです」

ペルシャは、とある一文を指差した。

《シャクナ族には代々、蛇と盃の紋様の指輪が伝わっている。それは、里のありかを示すための魔道具らしい》

『……! これは!』

「そうです。私も貴方の呪いを解くために歩き回りました。そしてシャクナ族にたどり着いたのです。そしてペンタグラムではこんな噂があります。シャクナ族の生き残りの女の子が奴隷商に捕まったと」

『本当か!?』

「ええ。ですから、探すべきは指輪と奴隷の少女なのです」

『ペルシャ! ありがとう!』

「婚約者ですから、当然のことです。私は一度ペンタグラムに戻ります。更なる情報があるかもしれません」

『ああ! 俺は片っ端から奴隷の少女を見張ることにする! 幸か不幸か、部下みたいなのが増えちまったしな』

「聞きましたよ。この街の野良をみんな力でねじ伏せたそうですね。あまり無茶はしないでください」

『俺が猫に負けるか!』

「貴方もその猫なのですよ」

こうして、モノはペルシャと別れた。

それから何年もの間、モノは奴隷商を追い続けた。

――そして、月日は経ってあの日。

「こんにちは、黒猫さん」

モノはミイナと出会ったのだった。


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