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昔話 魔王の呪いとそれから

目指すは西の果てのレスカリオテ。

四人の冒険は順風満帆とはいかなかった。

魔物との遭遇、魔王軍幹部との戦い、それぞれの街の頼まれごと、様々な事件が一行を襲った。

野を越え、山を越え、様々な困難を越えていくうちに、四人の絆は深まっていった。

そして、旅立ちから二年が過ぎた頃、ようやく遠方にレスカリオテの街並みと城が見えたのだった。

「いよいよですわね」

焚き火を囲みながらフィリアが言う。

「はい。遂にここまで来ました」

ハイランドが頷く。

「早く倒して、ゆっくり寝たいでござるな」

クロスケはそう言って笑った。

「明日だ。遂に明日、決着がつく」

モノの空色の目が焚き火の炎を反射してギラリと光った。

「みんな、俺についてきてくれてありがとな」

「あら?素直に感謝するなんて珍しいですわね」

「そうですよ。縁起でも無い。モノはモノらしく太々しくいてください」

「そうでござるよ。今更、気持ち悪いでござる」

「なんだよ!せっかく人が感謝しているのに!なんだその態度は!」

そう言って皆で笑い合った。

そして、この日の夜は更けて行ったのだった。



そして、魔王は、倒れた。

黒い血が石畳を濡らし、重たい音を立てて魔王の杖が床に転がる。

玉座の間には、まだ戦いの余韻が残っていた。

焼けた空気、砕けた柱、崩れた壁。

それでも――終わったのだと、誰もが思った。

勇者は、剣を下ろしたまま立っていた。

息は荒いが、致命傷はない。

仲間たちも同じだ。

戦士は膝をつき、聖女は祈りの言葉を呟き、魔法使いは杖を支えに立っている。

勝った。

間違いなく、勝利だった。

「……終わった、のか?」

誰かがそう口にした瞬間だった。

床に倒れ伏している魔王が、笑った。

粘っこく、気持ちの悪い笑い声だった。

「なるほど……流石は勇者一行。このワシを倒すとは、想像以上の強さよ」

老人だった。

魔王は、痩せた老人の姿をしていた。

血を流し、胸を貫かれ、それでもなお、ゆっくりと上体を起こす。

その眼が、勇者を見た。

死にかけのはずの魔王の鈍色の瞳は、怪しい光を湛えている。

視線が、交差した。

その時、勇者の周囲に無数の眼玉が浮かぶ。

百。

千。

勇者を、戦士を、聖女を、魔術師を。

無数の眼球が、すべてを見つめている。

「……っ! クソッ! 呪いか⁉︎」

膝が震える。

視界が割れる。

「安心しろ。殺しはしない」

魔王は、穏やかな声で言った。

「殺してしまっては、面白くない」

老人は、杖に手をかける。

その仕草は、あまりにも弱々しい。

「お前たちの、最も忌むべきものへ姿を変えてやろう」

勇者が斬りかかろうとした瞬間、激痛が走った。

身体が、崩れる。

骨が縮み、筋肉がほどけ、世界が異様に大きくなる。

声を上げようとしても、喉が応えない。

落下する視点。

床に叩きつけられた衝撃。

次に感じたのは、喉の奥のむず痒さだった。

涙で視界が歪む。

勇者は、くしゃみをした。

あまりにも甲高い音。

自分の口から出たそれが、人の声ではないことに、勇者は戦慄した。

「時間は、いくらでもある」

遠くで、魔王の声がする。

「私はいずれ復活する。

無力な姿で永遠の時を生きろ!

そして指を咥えて、私の野望を見ているがいい!」

最後に見えたのは、

無数の眼が、ゆっくりと閉じていく光景だった。

呪いを受けた勇者の意識は、遠ざかっていく。

そして世界は、暗転するのだった。



勇者一行は呪われた。

勇者は猫に。

戦士は案山子に。

魔術師は魔物に。

聖女はアンデッドにされた。

最初のうちは四人で行動を共にしていた。

しかし、それも永くは続かなかった。

まず、ハイランドが空腹に耐えかねて何処かへ走り去った。

次にクロスケが動けなくなった。

さらに、フィリアが腐り落ちた。

そして、黒猫のモノが一人きりになった。

モノは最初、途方にくれていた。

非力な黒猫の姿にされ、人間に言葉も通じない。

仲間達とは散り散りになり、宿敵の魔王には敗れた。

心が折れそうだった。

何もかも投げ出してしまいたくなった。

それでも、モノはオゼロの最後の言葉を思い出していた。

《戦え》《アイツを殺せ》

その言葉を胸に、復讐の炎を燻らせ続けることができた。

さらに、もう一つだけ希望があった。

この二年間の旅のどこかで噂を聞いたのだ。

“この大陸のどこかに全ての呪いを解くことができる一族がいる”と。

モノは、死に物狂いでその一族を探し求めた。

東から西へ、北から南へ。

人とは喋れない。

野良猫や、盗み聞きを駆使して情報を仕入れた。

そして、その一族はシャクナ族と言い、どうやら山岳地帯に住んでいると言うところまでは突き止めたのだった。


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