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昔話 一騎打ちと涙

モノとペルシャは城壁の上で向かい合っていた。

周りの兵士たちは誰一人動かない。

「お前ら、手を出すなよ」

「お前らの敵う相手じゃねえ」

モノの宣言に周囲は静まり返る。

「そうですか? 一斉に攻めれば分かりませんよ?」

ペルシャがクスクス笑いながら言う。

「総大将がそんなにアホなら苦労しないんだがな」

モノは剣を肩に乗せながら答える。

「では、始めましょうか」

「ああ」

二人の剣が合わさる。

凄まじい轟音と衝撃が迸った。

城壁の石が砕け、火花が夜空に散る。

クロスケが思わず叫んだ。

「なっ……!」

だが次の瞬間、二人の姿は消えていた。

キィンッ!!

鋭い金属音が夜を裂く。

城壁の中央に火花が走った。

かと思えば、今度は城壁の端。

次の瞬間には空中。

二つの影が、夜の中で交差している。

「速い……!」

兵士の一人が呟いた。

だが、誰も追えない。

見えたと思った瞬間には、もういない。

キィン!!

キィィン!!

金属音だけが夜に響き続ける。

クロスケが歯を食いしばった。

「……強いでござるな」

ハイランドが静かに答える。

「実力はほぼ互角みたいですね」

次の瞬間。

ドンッ!!

衝撃が城壁を揺らした。

二つの影が再び現れる。

モノとペルシャ。

互いの剣が噛み合ったまま、睨み合っていた。

ペルシャの尾がゆっくりと揺れる。

「……なるほど」

口元が楽しそうに歪んだ。

「これは」

剣を押し返す。

「思っていたより、ずっと面白いですね」

モノが鼻で笑った。

「そっちこそ」

金色の瞳が細くなる。

「さっきの連中とは格が違う」

次の瞬間。

二人の姿が、また消えた。

ドンッ!!

城壁の上で衝撃が炸裂する。

石畳が割れ、破片が宙に舞う。

兵士達が思わず後退した。

「さ、下がれ!」

「巻き込まれるぞ!」

だが。

美女で野獣隊の獣人達だけは、目を輝かせていた。

サーバルが興奮した声を上げる。

「すごっ……!」

ソマリが腕を組んだまま呟く。

「姉様、本気ですね」

城壁の上。

再び火花が弾ける。

キィンッ!!

そして、二人の戦いは激しさを増していくのだった。



決闘は夜明け前まで続いた。

お互いが持てる力と技の全てをぶつけた決闘であった。

東の空から朝日が差し込む。

(やばい……もう限界だ……)

先に限界が来たのはモノの方だった。

体力や気力の限界ではない。

アレルギーのものだ。

モノは猫アレルギーだった。

当然、白猫の獣人にもアレルギーは反応した。

目からは涙が溢れそうになり、鼻水も垂れてきそうだ。

モノは最後の力を振り絞ってペルシャの剣を弾いた。

ペルシャの剣が宙に舞う。

モノの剣がペルシャの首筋で寸止めされる。

「……これまでですか」

ペルシャは観念した様に言う。

「ああ、ここまでだ」

モノは剣をそっと下ろした。

「……なんのつもりです? 情けをかけるのですか? 侮辱ですよ?」

ペルシャはモノをキッと睨みつける。

その時、モノの瞳から一筋の涙が流れた。

ペルシャの目が、わずかに見開かれる。

朝日の光の中で、その涙ははっきりと見えた。

「……」

ペルシャは黙ったままモノを見つめる。

やがて、ゆっくりと口を開いた。

「……まさか」

小さく呟く。

「貴方……」

モノは必死だった。

(やばい……くしゃみが……)

鼻の奥がむずむずする。

目は完全に潤んでいる。

涙は止まらない。

(くっそ……猫アレルギー最悪だ……!)

だがペルシャには違って見えた。

白猫の将軍の尾が、ふわりと揺れる。

「……そこまで」

小さく笑った。

「そこまで、私との決闘に心を動かされましたか」

「は?」

モノが一瞬だけ固まる。

しかし次の瞬間。

くしゃみが来そうになり、口を押さえる。

「……っ」

ペルシャの目が柔らかくなる。

「分かります」

朝日の中で、白猫の将軍は静かに言った。

「命を懸けて剣を交えた者同士にしか分からないものがあります」

「いや、違——」

モノが言いかけた。

だが。

ペルシャはその言葉を聞いていなかった。

一歩、モノに近づく。

「勇者モノ」

楽しそうに笑った。

「私は決めました」

尾が大きく揺れる。

「貴方を気に入りました」

モノは涙目のまま固まる。

(いや、違う)

(違うって)

ペルシャは続けた。

「この戦争が終わったら」

くすりと笑う。

「私の伴侶になりませんか?」

モノの思考が止まった。

その瞬間。

「——へっくしょん!!」

盛大なくしゃみが城壁に響いた。

沈黙。

ソマリがぽつりと言う。

「……姉様」

サーバルが笑いを堪えながら呟く。

「完全に惚れてるな」

ペルシャは真剣な顔のままだった。



「ともかくだ、あのバカ王には俺から言っておく。奴隷も解放させる。それでいいな?」

「うん! 異論はないニャン」

「……お前、キャラ変わってないか? それになんだその語尾……」

「こっちの方が素だニャン」

ペルシャはモノに引っ付きながら言う。

「やめろ! くっつくな! 痒くなるだろ!」

「酷いニャ! こんな美人がくっついてるのに!」

「自分で言うな! それに猫は猫だろ!」

「猫の何が悪いニャ! しなやかで、キュートでなんの問題もないニャン!」

「俺には大問題だ! 離れろバカヤロー!」

モノは必死にペルシャを引き剥がそうとする。

だが白猫の将軍は、腕にしがみついたまま離れない。

「嫌だニャン」

尾を楽しそうに揺らす。

「勇者モノはもう私のものニャン」

「誰がいつそんな話した!?」

モノが叫ぶ。

城壁の上では兵士達が呆然としていた。

クロスケがぽつりと呟く。

「……勇者殿」

「何だ」

「勝ったでござるよな?」

「……多分」

ハイランドが呆れ混じりに言う。

「歴史に残る決闘の後とは思えませんね」

城壁の下では美女で野獣隊が騒いでいた。

サーバルが腕を組みながら笑う。

「やっぱり姉様だ」

ソマリがため息をつく。

「完全に捕まえましたね」

「勇者くーん!」

「姉様の伴侶決定おめでとー!」

「結婚式いつ!?」

「やめろぉぉぉ!!」

モノの悲鳴が城壁に響く。

ペルシャは嬉しそうにモノの腕に頬を擦り付けた。

「照れてるニャン」

「違う!!」

モノは涙目だった。

「だから離れろって言ってんだろ!」

「くっつくな!」

「くしゃみ出る!」

ペルシャが首を傾げる。

「くしゃみ?」

「うっ……」

モノの鼻がぴくりと動く。

(やばい)

(来る)

「へっくしょん!!」

盛大なくしゃみが城壁に響いた。

沈黙。

そして。

美女で野獣隊が一斉に笑い出した。

サーバルが腹を抱えている。

「勇者、猫アレルギーじゃん!」

ソマリも笑いを堪えながら言った。

「それは相性最悪ですね」

ペルシャは一瞬だけ固まった。

そして。

にこりと笑った。

「問題ないニャン」

モノが嫌な予感を覚える。

「なんでだ」

ペルシャは自信満々に言った。

「毎日一緒にいれば慣れるニャン」

「慣れるかぁぁ!!」

勇者モノの叫びが、朝焼けの王都に響き渡った。


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