閑話休題 夜風と猫勇者
「それで、モノが勇者になったの?」
『ああ』
サンサーラ王国の第三王子復活祭はまだ続いている。
ミイナとモノはパーティの喧騒を離れ、バルコニーで話し続けていた。
夜風がミイナの髪とドレスの裾を揺らした。
「オゼロさんのこと、今でも思い出す?」
ミイナは控えめに尋ねた。
『……ああ』
『俺は勇者になったが、あの人を超えられたとは思えない』
モノの言葉は静かだった。
「強さがってこと?」
『それもあるが、勇者としての生き様っていうのかな。とにかく、カッコよかったんだよ。あのジジイは』
「ふふっ」
ミイナは楽しそうに笑った。
『なんだよ。そんなにおかしいか?』
「うん。だってモノ、オゼロさんのことお父さんみたいに思ってるんだなって」
『……オゼロが父親?』
黒猫は少し考え込むような仕草をした。
『……あのジジイが父親らしいことをしたか? 殴られたし、褒められたことはないし、騎士団にぶち込まれて、何回も殺されかけたんだぞ?』
『ただ、俺を拾った。勇者の器として。それだけだろ?』
「うん。そうだね。それでも、憧れてたんでしょ?」
『憧れ……そうか、俺は憧れてたのか。アイツの中に父親を求めていた……そうなのかもしれないな』
「モノ?」
『いや、なんでもない。気づかせてくれたことに礼を言わなきゃな』
「どうして?」
『憎まなくていいと教えてくれたからだよ。父親を求めてるなら、憧れてもいいだろ?』
「うん」
ミイナはモノに向き直った。
「それで、ヘカトキリオスはどうなったの?」
『あれからすぐに、冒険者ギルド“メダリオン”と、大陸教会連合から魔王認定された』
「魔王……」
ミイナは小さく首を傾げた。
「魔族の王ってこと?」
モノは鼻を鳴らした。
『違う。あれは種族の名前じゃない』
黒猫はバルコニーの手すりに飛び乗る。
夜の庭園を見下ろしながら続けた。
『教会が“こいつは世界にとって危険だ”って判断した奴につける称号だ』
ミイナは少し驚いたような顔をした。
「じゃあ、魔族じゃなくても?」
『なる』
モノはあっさりと言った。
『強すぎる竜血を持った奴とか』
『都市や国家を脅かす災厄とか』
『禁術に手を出した魔導士とか』
『そういう連中を、教会が魔王として指定する』
夜風が二人の間を通り抜けた。
ミイナは静かに呟く。
「怖い名前」
『実際、ろくでもない奴ばっかりだ』
モノは尾をゆっくり揺らした。
『ちなみに魔王は一人じゃない』
「え?」
『今、教会が公式に認定してるのは“十大魔王”だ』
ミイナは目を丸くした。
「十人もいるの?」
『ああ』
モノは短く答える。
そして、夜の城を見つめながら言った。
『その一人がヘカトキリオスだ』
「倒さなきゃね」
『ああ。その為にここまで来たんだ。今更、引き下がれるか』
モノが耳をピンと立てる。
「みんなともその時代に出会ったんだね」
『ああ。長い付き合いさ』
「……そういえば、ペルシャさんは?」
『ペルシャ? そうだったな。アイツとは最初敵同士だったんだ』
「え!? モノとペルシャさんが!?」
『そんなに驚くことかよ。うちの国の馬鹿王がまたやらかしてな。獣王国と戦争になったんだよ』
「そこで、出会ったんだね」
『ああ。ミイナ、ここからはペルシャとの出会いもそうだが、俺の敗北の話だ。情け無いところも沢山あるかもしれない。それでも聞いてくれるか?』
「うん。私、全部知りたい」
「……そうか。そうだな、あれから俺は——」
夜風はまだ止みそうにはなかった。




