↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すべてを失った令嬢は騎士の愛を選ぶ——その愛は、もういりません  作者: 円花なまり
第五章 これからの話をしよう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/50

45. いつか、四人で

 父と話をしていると、扉がノックされた。どうぞ、と伝えると扉が開いて伯母様が顔を出す。


「いらっしゃいませ、公爵閣下。こんな所までご苦労様です」

「……エリーが世話になっている」

「いーえー、私の可愛い姪ですもの。これくらいどうってことありません」


 ほほほ、と口元に手を当てて微笑んだ伯母様が、私に笑顔を向ける。


「ようやく殿下が帰ったわ。エリー、一緒に馬に乗りましょう?」

「馬? でも伯母様、私まだ一人で乗ったことがなくて、医師からも激しい運動は……」

「もちろんよ。今日は馬上散歩よ。横乗り用の鞍を用意するから、服装も軽装でいいわ。私が先導するから、敷地内を一緒に散歩しましょう? 今日は様子を見て、練習はこの次、でどうかしら?」

「それなら」

「グランツ卿、ヴィオラを引いて歩けるわね?」


 伯母様の問いにアルベルトが姿勢を正して「はい、可能です」と答える。


「エリー、体調は?」

「問題ないわ」

「では昼食後に行きましょうか。服もそのままでいいわ。楽しみにしていてね」

「……ようやくエリーに会えたのに、時間を取らせてくれないのか」


 渋い顔をする父に、伯母様はあら、と答える。


「主人やあなたが到着するまで、私はずっっっと殿下の相手をしていました。エリーとの時間を楽しみに今日まで頑張ってこられたのです。公爵様も移動でお疲れでしょうから、本日は休んだ方がよろしいのでは?」

「それはそちらも同じだろう」

「いいえ。私にとって今からが癒やしの時間です。何でしたら、あなたも一緒に来たっていいのよ?」

「……………………」


 伯母様の言葉に父の眉間に皺が寄る。父は昔から動物が苦手で馬に乗れなかったはずだ。


「まだ数日うちに滞在するのでしょう? 少しエリーを借りたっていいではありませんか」

「……エリー」

「はい、父様」

「無理をしていないか」


 こくりと頷くと、父の手が頭に乗った。


「行っておいで。怪我はしないように」


 父の言葉に表情が明るくなる。はい、としっかりと頷いた。



   *   *   *



 体力が残るように、アルベルトが抱えて外に連れ出してくれた。待ち合わせの場所に着くと、既に鞍が装着されたヴィオラと、踏み台の側には犬が一匹、腹這いになってこちらを見ている。


「ヴィオラ、今日はよろしくね。あなたも、こんにちわ。いい天気ね」


 そう犬に話し掛けると尻尾を振ってくれた。


「番犬でしょうか?」

「きっとそうね。あ、伯母様が来たわ」


 厩舎の方から、乗馬服に着替えた伯母様が馬を引いてこちらに来た。

 連れてきたのは、黒く艶やかな毛並みに、鼻と脚に白が入る美しい馬体の子だ。脚が動く度に引き締まった筋肉が動くのが分かって、あまりの素晴らしさに思わず息を吐いてしまう。


「お待たせ。では行きましょうか。グランツ卿、エリーを乗せられる?」

「かしこまりました」


 アルベルトは私を抱えたまま、踏み台に乗って私を鞍の上に降ろす。


「鞍を掴んで、片足を鐙に掛けて? そうそう。一緒に手綱を持ってくれたらいいわ。くれぐれも動かさないでね」

「はい」

「では私が先導するから、着いてきてね」


 伯母様が踏み台も無しに馬に跨がる。犬もそれを見て立ち上がった。


「では、エリーを借りるわね」

「……………………」


 心配で着いてきた父は、犬がいたので少し離れた所でこちらを見ていた。

 目が合うと父が手を振ってくれたので、こちらも手を振り返す。

 伯母様が前に移動したので、アルベルトもヴィオラの引き綱を持って歩き始めた。ヴィオラがそれに合わせて脚を踏み出す。

 馬上からでも、一歩ごとに大地を踏み締める力強さが伝わってくる。


「侯爵夫人、この犬は?」

「うちの猟犬と番犬を兼ねている子よ。馬が好きで散歩の時は必ず着いてくるの。周りの見張りもしてくれるから安心して」

「かしこまりました。賢いですね」


 伯母様の馬から少し離れた横の位置で、馬を見ながら犬が歩いている。尻尾も立っているからとても楽しそうだ。

 厩舎から森の中の小道へと馬は進む。陽の光を柔らかくする木漏れ日に、森の中の清々しい空気に、木々の匂い。胸いっぱいに空気を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。


「エリー、大丈夫?」

「大丈夫よ」

「具合が悪くなったらすぐに言うのよ?」

「ええ、分かったわ。……伯母様も昔から乗馬を?」


 私の問いかけに、伯母様は身体を少し捻ってこちらを見る。


「そう。あなたのお母様に憧れて始めたの。学生の時だったから、もう数十年前になるわ」

「すごいわ。踏み台無しでどれくらいで乗れるようになったの?」

「覚えてはいないけれど、中々上手く行かなくて苦労したわ。どちらかと言うと、馬を引くのが難しかったかしら?」

「そうね。とても難しいわ」


 丘の上の屋敷でヴィオラの散歩に付き合った時に、アルベルトから馬の引き方を教わった。

 しかし、思うように動いてくれず、私もどうすればいいか分からなくなって、自分の歩き方すら分からなくなって固まってしまったのだ。

 最初はそんなものだと、アルベルトは微笑んでくれたけれど。


「練習すれば出来るようになるわ。基本的には二人で動くのでしょう?」

「ええ」

「なら、グランツ卿に馬に乗せてもらいなさい。乗ってしまえばこちらのものよ。すぐに上達するわ」

「はい!」


 アルベルトの方を見ると、私を見て微笑み、小さく首を縦に振る。私も同じように微笑んだ。


「あなたのお母様とも、こうして馬で散歩していたのよ?」


 先頭を歩く伯母様が、私に話しかける。


「私の嫁入りとエステル様の輿入れがちょうど同じ時期だったから、頻度は少なかったけれど、それでも王都から侯爵家に里帰りすると、こうして一緒に馬に乗っていたわ」

「……そうなのね」


 ……エステルは、母の名前だ。亡くなった母の話に、思わず視線を落とす。


「エリー、覚えている? 幼いあなたを連れて侯爵家に来た時のこと」


 馬の脚を緩めて、伯母様が私の横に並ぶ。


「あなた、馬に乗って大喜びしていたでしょう?」

「ええ、朧気だけれど」

「あなたのお母様がね、将来あなたも馬に乗るのではないかって話をしていたわ。そうしたら、こうやって三人で散歩が出来るわねって」


 そう言って、伯母様は目を潤ませて微笑む。


「エステル様の娘であるあなたと、こうして一緒に馬に乗れる日が来るなんて、夢みたいね」

「……伯母様」

「それに、今では息子の嫁達も馬に乗れるの。これからは二人ではなくて、機会があれば四人で散歩してもいいわね」

「……ええ」


 それまでに可能な限りは練習を……と言いかけて口を噤んだ。

 ……この身体がいつまで動いてくれるのか、まだ分からない。


「ねぇ、エリー。手綱を握ってみる?」

「え?」

「少し練習してみたら?」

「夫人」

「あら、今あなたが引き綱を握っているから、何かあっても対応出来るでしょう? 横乗りだから操作が難しいけれど、それもまた経験よ」


 アルベルトが、立ち止まる。ヴィオラもそれに合わせて立ち止まった。


「今日は俺が引き綱を持っていますので、まずは手綱を持つ感覚を覚えましょう。止める時や危ない時は俺が補助します」

「どう、すればいいの?」


 引き綱を緩めたアルベルトが、横に回って私の足を持って位置を教える。

 

「合図を出すのはこの辺りです。ここを足で軽く合図をしたら、ヴィオラは動き出します。止まる時は身体を起こして、手綱をゆっくり引いてください。ヴィオラが止まったらすぐに力を緩めます」

「……………………」


 上手く行くのか、とアルベルトを見ると、大丈夫だ、と首を縦に振られる。

 足でヴィオラに合図を送った。すると、ゆっくりとヴィオラが先程と同じ速度で歩き出す。


「そうそう。すごいわ。普通は苦戦するのよ?」

「……もう一回、となったら難しそう」

「そのうち覚えるわ。後ろから見ているから、やってみて」


 伯母様の馬が下がって、ヴィオラと私、グランツ卿が前に出る。身体が緊張するが、ヴィオラの足取りは軽い。出来たね、と言うようにヴィオラがこちらを振り向いたので、ありがとう、と首筋を撫でたのだった。

大変遅くなりました!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。