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すべてを失った令嬢は騎士の愛を選ぶ——その愛は、もういりません  作者: 円花なまり
第四章 救うのは、愛

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38. 側にいると伝えたくて

 私の魔力が漏れ出たのは、体調不良の状態で感情が高ぶったのが原因だと医師から告げられた。

 殿下が来ると分かってから、いざという時の為に夜遅くまで法律や神託について調べていたのが原因だろう。それに会いたくない相手に会うのがストレスで体調にも影響が出ていたに違いない。

 その上で殿下の発言に今まで抑えていたのが爆発してしまった。……服が焦げただけでまだ良かった。もし本格的に魔力が暴発して燃えてしまったら、きっと侯爵家の屋敷を跡形も亡く灰にしていただろう。

 そんな危ない状況だったにも関わらず、伯母様は私が目が覚めたと聞くと殿下の応対を放り出して駆けつけてくれた。横になっている私の手を握って頬に手を添えて、良かったと涙目になる伯母様に、胸の内が温かくなる。追放先が伯母様達の北部で良かった。こんなにも、私を受け入れてくれている。

 あまりに殿下について何も聞かなかったから帰ったのかと尋ねると、まだ侯爵家に滞在しているらしい。「私に会いたい」と申し出ているらしいが、私が倒れたのと顔も見たくないと言ったのを受けて面会謝絶にしてくれたようだ。それでも引き下がらないと、伯母様が疲れた顔でため息を吐いていた。


「どうぞ」


 倒れてから数日後、ベッドの上で上半身を起こしてアルベルトと話をしていると、ドアがノックされた。

 返事をするとその横で付き添っていたグランツ卿が立ち上がり、端へと寄る。ドアが開いて現れたのは、ふらついた足取りの伯母様だった。


「エリー! ようやく解放されたわ。調子はどう?」

「だいぶ良くなってきたわ。今日はどうしたの?」


 ベッドの所まで来た伯母様が私に手を伸ばして抱き締める。その手に甘えていると、伯母様は身体を少し離して私に向いた。


「ようやく、あの人が帰ってきたから全部押し付けてきたわ」

「伯父様がお戻りに?」

「そう! ようやく! だからあなたの側に居られるわ」

 

 そう言って、伯母様は私に微笑む。


「今頃は主人が殿下を叱っている所よ。それも見たかったけれど、一刻もエリーの側に居たかったから全部任せて来ちゃったわ」


 そう言って肩を竦める伯母様に小さく笑みが零れる。


「中々一緒に居てあげられなくてごめんなさい。寂しかったでしょう?」


 寂しかった。

 口に出しかけて、そんな素直な気持ちを言っても受け止めて貰えることが嬉しくて、胸がじんわりと熱くなる。


「ええ。でもグランツ卿が手を握ってくれていたからとても助かったわ」


 伯母様の視線を向けられて、グランツ卿が背筋をさらに伸ばしている。


「この子に付き添ってくれてありがとう、グランツ卿。私からも礼を言うわ」

「……当たり前の事をしただけです」


 頭を下げてそう言う彼を、伯母様はただ見つめる。


「少し姪と話をしたいから席を外していただける?」

「畏まりました」


 一礼の後に顔を上げたアルベルトと目が合った。大丈夫よ、と視線で言うと、彼は小さく頷いて客室を出て行く。

 それを伯母様が見送ると、ベッドに腰掛けて私と向き合った。


「さて、女同士で楽しいお話をしましょう。いつからそんな関係になったの?」


 いつ、と言う伯母様の言葉に目を丸くして、首を横に振る。


「そうじゃないわ。仕えている主人だから手を握ってくれていたのよ」

「主人だから? エリー、ルヴェリア公爵家の騎士達は、あなたの体調が悪いからと手を握ってくれた?」


 目を丸くしたまま、首をゆっくりと横に振る。


「エリー、手を握るのはね、自分はここにいる、側にいると相手に伝える行為なの」


 そう言って、伯母様が私の手を握る。年配の伯母様の手はほっそりとしていて、私の手より少し温かい。


「あの子はきっと、あなたの側にいると伝えたかったから握ってくれたのよ」

「……………………」


 伯母様の言葉に、胸の内が熱くなる。


「何か、返せるかしら?」

「元気になって相手を安心させることね。何も気にせずにゆっくり休んで。……そうだ。あなたのお父様ももう少ししたら到着するそうよ」

「お父様が!? 忙しいのに、どうして?」


 思わず聞き返すと当たり前だと伯母様が答える。


「当然じゃない。婚約破棄は成立した。慰謝料も受け取った。もう終わった話のよ。それを今更連れ戻そうだなんて、あなたのお父様が怒らないはずがないでしょう?」

「でも、政務やお仕事でそんな暇は」

「関係ありません。もし来ないでうちに全部任せて静観しているようなら横っ面を引っ叩いていたわ」


 憤慨する伯母様に思わず目を伏せる。

 忙しい父に迷惑を掛けてしまった。

 申し訳ない事をしたと思ってしまう。


「エリーが落ち込む必要はないわ。医師から少しでも歩くように指示が出ているでしょう? グランツ卿と歩いて厩舎に行ってきたらどう?」

「厩舎?」


 伯母様が、優しく私を見て微笑む。

 

「あなたの馬が、あなたに会えなくて寂しがっているそうよ」

「…………!」

「もうそんなに懐かれたのね。贈った子を大切にしてくれて嬉しいわ。殿下と鉢合わせしないように配慮するから、顔を見せてあげて」


 伯母様の言葉に顔を上げて、しっかりと頷く。

 それを見て伯母様がさらに微笑んだのだった。

遅くなり大変申し訳ありませんでした。次は7/25の予定ですが……熱中症でぶっ潰れたら次週に持ち越します。

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