第99話 選択の終点
北方同盟・前線都市ヴァルグリム。
夜明け前。
空はほとんど静かだった。
歪みは、わずかに残っているだけ。
だが――
完全には消えていない。
*
アルカが言う。
「……あと少しです」
カルディアが頷く。
「収束はしています」
ミヒャエルが言う。
「だがゼロにはならないな」
ラグスが笑う。
「当然だろ」
沈黙。
*
アルトはその“残り”を見ている。
小さな歪み。
小さな崩壊。
小さな選択。
(……消せる)
能力的には。
概念を書き換えればいい。
完全に。
誰も迷わないように。
誰も失わないように。
*
だが――
アルトは動かない。
*
アルカが気づく。
「……やらないんですか?」
沈黙。
*
カルディアも理解する。
「完全化は可能です」
ミヒャエルが言う。
「やれば終わる」
ラグスが笑う。
「楽だな」
沈黙。
*
アルトは言った。
「終わるだけだ」
空気が止まる。
*
アルトは空を見る。
「それは維持じゃない」
一拍。
「停止だ」
沈黙。
*
アルカが小さく言う。
「……じゃあ」
「どうするんですか」
*
アルトは答える。
「残す」
沈黙。
*
カルディアが問う。
「意図的にですか」
アルトは頷く。
「そうだ」
ミヒャエルが低く言う。
「リスクだな」
ラグスが笑う。
「面白いじゃねぇか」
*
アルトは言う。
「完全にすれば」
一拍。
「選ぶ必要がなくなる」
沈黙。
*
「だが」
「選ばない世界は」
一拍。
「人じゃない」
*
アルカが目を見開く。
カルディアが静かに頷く。
ミヒャエルが息を吐く。
ラグスが笑う。
*
アルトは続ける。
「だから」
一歩前に出る。
「ここで終わらせる」
沈黙。
*
アルカが震える。
「……終わらせる?」
アルトは答える。
「介入を」
空気が変わる。
*
カルディアが息を呑む。
「……離脱」
ミヒャエルが言う。
「管理をやめるのか」
ラグスが笑う。
「いいじゃねぇか」
*
アルトは言う。
「人に任せる」
沈黙。
*
その瞬間。
UIが展開される。
【接続:解除準備】
【維持構造:自律移行】
アルカが叫ぶ。
「待って!」
「それやったら……!」
カルディアが言う。
「制御がなくなります」
ミヒャエルが言う。
「崩れる可能性がある」
*
アルトは頷く。
「ある」
一拍。
「だからいい」
沈黙。
*
ラグスが笑う。
「最初からそれだろ」
アルトは小さく頷いた。
*
アルトは最後に空を見る。
人々を見る。
支え合う姿。
迷いながらも、手を伸ばす。
*
(……これでいい)
*
アルトは言った。
「終わりだ」
*
ドクン。
世界が一度、大きく揺れる。
接続が解ける。
アルトの中から、
“世界”が離れていく。
*
アルカが叫ぶ。
「……切れた!」
カルディアが言う。
「自律運用に移行」
ミヒャエルが呟く。
「……本当にやったか」
ラグスが笑う。
「これでいい」
*
世界は――
止まらなかった。
*
小さな崩壊は残る。
だが、
人が動く。
支える。
迷う。
選ぶ。
*
アルトはそれを見る。
ただ、それだけ。
*
アルカが小さく言う。
「……大丈夫ですか」
アルトは答える。
「分からない」
一拍。
「だから任せる」
*
朝日が昇る。
光が差し込む。
歪みは、ほとんど見えない。
だが完全ではない。
*
それでいい。
*
物語は次で――
終わる。
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