第98話 カイネスの答え
北方同盟・前線都市ヴァルグリム。
静寂。
人々は疲弊している。
支え合いは続いている。
だが――
長くは持たない。
誰の目にも明らかだった。
*
カイネスは、その光景を見ていた。
「……これが現実だ」
小さく呟く。
アルトを見ずに言う。
「終わらせるべき理由が、分かっただろう」
沈黙。
*
アルトは答える。
「分かった」
カイネスがわずかに笑う。
「なら」
アルトは続けた。
「それでも終わらせない」
沈黙。
*
カイネスの表情が変わる。
怒りではない。
困惑でもない。
「……なぜだ」
初めての問い。
*
アルトは言う。
「終わりは楽だ」
一拍。
「維持は苦しい」
カイネスは黙っている。
アルトは続ける。
「だからこそ選ぶ意味がある」
沈黙。
*
カイネスは静かに笑う。
「……理解できないな」
一歩前に出る。
「苦しみを選ぶ理由が」
アルトは言う。
「選べるからだ」
*
空気が変わる。
リシアが息を呑む。
アルカが見つめる。
カルディアが静かに聞いている。
ミヒャエルが腕を組む。
ラグスが笑う。
*
アルトは言った。
「お前は」
「壊れるしかない世界を見た」
カイネスの目が揺れる。
「だから終わらせた」
一拍。
「でも」
アルトは一歩前に出る。
「今は違う」
沈黙。
*
カイネスは何も言わない。
アルトは続ける。
「終わらなくてもいい世界を見た」
沈黙。
*
その言葉が、刺さる。
カイネスの身体が、わずかに揺れる。
光が滲む。
崩壊ではない。
“迷い”。
*
カイネスは小さく呟く。
「……それでも」
一拍。
「苦しい」
アルトは答える。
「そうだ」
沈黙。
*
「だから」
アルトは言う。
「一人でやるな」
空気が止まる。
*
カイネスが目を見開く。
初めて。
完全に。
*
アルトは言った。
「お前もだ」
沈黙。
*
カイネスの中で、何かが崩れる。
今までとは違う。
壊れるのではなく――
ほどける。
*
カイネスは笑う。
だがその笑いは、弱い。
「……遅い」
一歩、後ろに下がる。
「遅すぎる」
沈黙。
*
アルトは言う。
「それでもいい」
一拍。
「今からだ」
*
カイネスはしばらくアルトを見ていた。
そして――
視線を外す。
*
街を見る。
支え合う人々。
疲れながらも、続けている。
*
カイネスは小さく言った。
「……理解はできない」
沈黙。
*
「だが」
一拍。
「否定もしない」
空気が変わる。
*
ラグスが笑う。
「それでいいだろ」
ミヒャエルが頷く。
「十分だ」
カルディアが静かに言う。
「思想の停止ではありません」
アルカが小さく笑う。
「……仲間?」
カイネスは即座に言う。
「違う」
だが、その声は弱い。
*
カイネスは背を向ける。
「私は選ばない」
一拍。
「だが」
振り返らずに言う。
「お前たちの選択は」
沈黙。
*
「観る」
空間が揺れる。
そして――消える。
*
静寂。
ラグスが吐き出す。
「……終わったか?」
ミヒャエルが首を振る。
「いや」
カルディアが言う。
「終わっていません」
アルカが言う。
「……でも」
一拍。
「変わりました」
*
アルトは空を見上げる。
歪みは、ほぼ消えている。
だが――
完全ではない。
*
アルトは言った。
「最後だ」
沈黙。
*
まだ残っている。
小さな歪み。
小さな崩壊。
小さな選択。
*
それをどうするか。
それが――
本当の答えになる。
*
物語は次で、
すべてが決まる。
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