第97話 限界の重さ
北方同盟・前線都市ヴァルグリム。
夜。
街は静かだった。
だが、それは安らぎではない。
“疲労”の静けさだった。
*
アルカが座り込んでいる。
観測器はまだ動いている。
だが手が止まる。
「……はぁ」
息が重い。
カルディアが近づく。
「休んでください」
アルカは首を振る。
「……まだ、終わってない」
だがその声に力はない。
*
ミヒャエルが周囲を見る。
人々は支え合っている。
だが――
明らかに疲弊している。
誰かが倒れれば、また誰かが支える。
終わらない循環。
「……消耗戦だな」
*
ラグスが壁にもたれる。
「いい感じだったんだけどな」
一拍。
「長くは持たねぇ」
*
その時。
一人の男が崩れ落ちる。
崩壊ではない。
ただの――
疲労。
だが、その瞬間。
近くの人間が一瞬躊躇する。
*
「……え」
ほんの一瞬。
その間に、揺らぐ。
ドクン。
光が滲む。
*
アルカが叫ぶ。
「……ダメ!」
駆け出す。
だが――
遅い。
男は崩壊しかける。
*
その瞬間。
別の人間が飛び込む。
「俺がやる!」
触れる。
支える。
戻る。
*
アルカが膝をつく。
「……また」
ラグスが低く言う。
「ギリギリだな」
ミヒャエルが言う。
「余裕がない」
カルディアが言う。
「維持が負担になっています」
沈黙。
*
アルトはそれを見ていた。
(……これが限界か)
維持はできる。
だが――
続かない。
*
アルカが震える声で言う。
「……これ、ずっと続くんですか」
誰も答えない。
*
ミヒャエルが言う。
「人は無限じゃない」
ラグスが言う。
「そりゃそうだ」
カルディアが言う。
「負荷は蓄積します」
一拍。
「必ず破綻します」
沈黙。
*
アルカが顔を上げる。
「……じゃあ」
「どうすればいいんですか」
沈黙。
*
アルトは言った。
「……減らす」
ラグスが聞く。
「何をだ」
「維持の負担を」
カルディアが言う。
「どうやって」
アルトは答えない。
*
その時。
空間が揺れる。
ラグスが笑う。
「……来たな」
*
カイネスが現れる。
だが――
前とは違う。
完全に崩れていない。
だが完全に戻ってもいない。
中間。
*
カイネスは静かに言う。
「見ただろう」
街を見渡す。
「限界だ」
沈黙。
*
アルトは言う。
「まだだ」
カイネスは首を振る。
「違う」
一歩前に出る。
「もう始まっている」
沈黙。
*
カイネスは指を指す。
人々。
疲弊。
躊躇。
「崩壊は止まっていない」
一拍。
「形を変えただけだ」
空気が重くなる。
*
アルカが震える。
「……そんな」
カルディアが静かに言う。
「正しいです」
ミヒャエルが低く言う。
「別の形の崩壊だな」
ラグスが吐き捨てる。
「クソみたいな話だな」
*
カイネスはアルトを見る。
「だから言った」
「終わらせるべきだと」
沈黙。
*
アルトは答える。
「違う」
カイネスが問う。
「何がだ」
アルトは言う。
「まだ足りない」
一歩前に出る。
「だが」
一拍。
「答えはある」
沈黙。
*
カイネスは静かに見ている。
「……なら見せろ」
一歩下がる。
「最後だ」
空間が揺れる。
だが消えない。
その場にいる。
*
ラグスが笑う。
「逃げねぇのか」
カイネスは答える。
「観る」
一拍。
「お前の“最後”を」
*
アルトは空を見る。
歪みは、まだ残っている。
人も、限界に近い。
(……ここで決める)
*
アルトは静かに言った。
「強制はしない」
沈黙。
カルディアが息を呑む。
アルカが見つめる。
ミヒャエルが黙る。
ラグスが笑う。
カイネスが目を細める。
*
「だが」
一歩前に出る。
「任せる」
沈黙。
*
世界が、わずかに揺れた。
物語はここから、
「最後の選択」に入る。
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