第100話 それでも
北方同盟・前線都市ヴァルグリム。
朝。
光が、街を包んでいた。
歪みは――ほとんど見えない。
だが完全ではない。
空の端に、わずかな揺らぎが残っている。
*
アルカが観測器を見つめる。
「……安定しています」
カルディアが頷く。
「自律維持、継続中」
ミヒャエルが息を吐く。
「人が回してるな」
ラグスが笑う。
「いいじゃねぇか」
*
街の中。
人々が歩いている。
普通に。
だが少しだけ違う。
誰かがふらつけば、
誰かが支える。
それは特別な行動ではない。
“当たり前”になっている。
*
アルカが小さく言う。
「……残りましたね」
カルディアが答える。
「はい」
一拍。
「文化として」
ミヒャエルが言う。
「システムじゃなくなったな」
ラグスが笑う。
「最初からそれが狙いだろ」
*
アルトは少し離れた場所に立っている。
もう、何もしていない。
何もできない。
*
アルカが近づく。
「……本当に」
一拍。
「これでいいんですか」
*
アルトは街を見る。
人々。
迷いながらも、動く。
完全ではない。
助からないこともある。
それでも――
続いている。
*
アルトは答える。
「分からない」
アルカが少しだけ笑う。
「……ですよね」
*
カルディアが言う。
「正解は存在しません」
ミヒャエルが頷く。
「結果しか残らない」
ラグスが笑う。
「気にすんな」
*
アルトは空を見る。
歪みは、まだある。
だが――
もう手を出さない。
*
その時。
一人の少女が走っていく。
リシア。
誰かに手を伸ばす。
「大丈夫!」
支える。
戻る。
笑う。
*
アルトはそれを見る。
何も言わない。
*
少し離れた場所。
誰にも気づかれずに、
一人の男が立っている。
カイネス。
静かに見ている。
何も言わない。
ただ――観ている。
*
アルトはその気配に気づく。
だが振り返らない。
*
カイネスは小さく呟く。
「……続いている」
一拍。
「不完全なまま」
そして、消える。
*
アルトは一歩、歩き出す。
街の外へ。
もう必要とされていない場所へ。
*
アルカが振り返る。
「……行くんですか」
アルトは止まらない。
「役目は終わった」
沈黙。
*
ラグスが笑う。
「だな」
ミヒャエルが言う。
「ここからは人間の仕事だ」
カルディアが静かに言う。
「証明は完了しています」
*
アルカは少しだけ迷って、
そして言う。
「……またどこかで」
アルトは答えない。
だが、足は止まらない。
*
街の外。
空は広い。
歪みは、遠くに薄く残っている。
*
アルトは歩く。
ただ歩く。
*
振り返らない。
*
背後では、
誰かが誰かを支えている。
特別な力はない。
だが、確かに。
*
人は、不完全だ。
だから迷う。
だから失う。
だから――
選ぶ。
*
それでも。
*
ドクン。
鼓動が響く。
それはもう、
世界ではない。
人の中で鳴っている。
*
――それでも、人は続ける。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
この物語はもともと
「有能すぎるが故に追放された主人公が、辺境で無双してざまぁする」
という王道の爽快系としてスタートしました。
ですが書き進めるうちに、物語は少しずつ形を変えていきました。
最初は「評価されない才能」
次に「正しい制度とは何か」
そして「世界はどうやって成り立っているのか」
最終的には、
「人は世界を維持できるのか」
という問いにたどり着きました。
この物語の結論は、とてもシンプルです。
「人は不完全でも、選び続ける限り終わらない」
誰かが誰かに手を伸ばす。
それは特別な力ではなく、
ほんの少しの勇気と選択。
この物語が、
そんな一歩のきっかけになれば嬉しいです。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。




