第90話 全域接続
北方同盟・前線都市ヴァルグリム。
都市が軋んでいる。
崩壊と維持が、同時に発生している。
ドクン。
ドクン。
世界の鼓動と、
人の叫びが重なる。
アルカが叫ぶ。
「限界です!」
「補助構造、飽和!」
カルディアが言う。
「局所対応では追いつかない!」
ミヒャエルが歯を食いしばる。
「崩れるぞ!」
ラグスが笑う。
「なら上げるしかねぇな」
全員の視線が、アルトに集まる。
*
アルトは静かに立っていた。
目の前には、崩壊。
背後には、維持。
そして中央に――
カイネス。
(……足りない)
理解している。
今の構造では、
“間に合う範囲”に限界がある。
(なら)
一拍。
(範囲そのものを変える)
*
アルトは言った。
「全域接続に入る」
沈黙。
アルカが息を呑む。
「……それって」
カルディアが低く言う。
「都市単位ではない」
ミヒャエルが理解する。
「……領域全体か」
ラグスが笑う。
「やっと本番だな」
*
カイネスが興味深そうに言う。
「ほう」
一歩前に出る。
「できるのか?」
アルトは答えない。
ただ、手を広げる。
*
UIが展開される。
【接続範囲:拡張】
【対象:地域単位→広域】
【負荷:臨界】
(……超える)
アルトは静かに息を吐く。
「やる」
*
その瞬間。
世界が、繋がる。
ドクン!!!
鼓動が跳ねる。
地面。
空間。
人。
すべてに線が走る。
都市を越えて、
周辺領域へ。
さらにその外へ。
アルカが叫ぶ。
「……広がってる!」
カルディアが言う。
「範囲……拡張中!」
ミヒャエルが驚く。
「止まらないぞ……!」
*
光は見えない。
だが感じる。
“繋がっている”。
人と人が。
意識と意識が。
完全ではない。
だが確実に――
“届く”。
*
崩壊していた人々の動きが変わる。
完全崩壊に至らない。
支えられている。
アルカが震える。
「……止まってる」
カルディアが言う。
「全体で支えている」
ミヒャエルが呟く。
「個じゃない……」
「集合でもない」
ラグスが笑う。
「中間だな」
*
アルトは立っている。
だが――
明らかに負荷がかかっている。
UIが警告を出す。
【負荷:限界超過】
【個体境界:崩壊リスク】
(……重い)
意識が揺れる。
自分と他人の境界が曖昧になる。
(……持て)
歯を食いしばる。
*
アルカが叫ぶ。
「アルト!」
カルディアが言う。
「危険です!」
ミヒャエルが言う。
「やりすぎだ!」
ラグスが笑う。
「でも止めねぇだろ?」
アルトは答えない。
*
カイネスが、その姿を見て笑う。
「いいな」
一拍。
「壊れかけている」
アルトを見る。
「それが本質だ」
沈黙。
*
カイネスが両手を広げる。
「見ろ」
ドクン!!
彼の周囲で、
さらに深い崩壊が発生する。
今までより強い。
速い。
アルカが叫ぶ。
「また増えた!」
カルディアが言う。
「全域でも追いつかない!」
ミヒャエルが叫ぶ。
「押し切られる!」
*
アルトは目を閉じる。
(……まだ足りない)
一拍。
(繋ぐだけじゃダメだ)
理解する。
“受動”では維持できない。
必要なのは――
(……主導)
*
アルトのUIが変化する。
【新機能:未解放】
【条件:定義拡張】
アルトの目が開く。
(……ここか)
*
アルトは言った。
「定義を拡張する」
全員が息を呑む。
カルディアが呟く。
「……さらに?」
アルカが震える。
「これ以上……?」
ラグスが笑う。
「やるしかねぇだろ」
ミヒャエルが言う。
「決めろ」
*
アルトはカイネスを見る。
「お前は言ったな」
一拍。
「壊れるのが本質だと」
カイネスが笑う。
「そうだ」
アルトは答える。
「なら」
沈黙。
「壊れない形にする」
空気が変わる。
*
カイネスの笑みが深くなる。
「……やってみろ」
ドクン。
世界が揺れる。
アルトは一歩、踏み出す。
「次で」
一拍。
「決める」
*
全域接続は完成した。
だが――
それでも足りない。
物語はここから、
「存在の再定義」へと踏み込む。
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