第89話 拡張される維持
北方同盟・前線都市ヴァルグリム。
歪みは消えていない。
だが――
「持ちこたえてる……」
アルカが呟く。
観測器の中で、崩壊しかけた個体が
“完全崩壊に至らず”踏みとどまっている。
カルディアが言う。
「補助構造が機能しています」
ミヒャエルが腕を組む。
「猶予ができたな」
ラグスが笑う。
「ならやることは一つだ」
アルトを見る。
「増やすんだろ?」
アルトは頷いた。
「ああ」
*
アルトは再び地面に手を置く。
だが今回は違う。
一点ではない。
“街全体”。
UIが展開される。
【補助構造:範囲拡張】
【対象:都市単位】
【負荷:極大】
(……ギリギリだな)
アルトは息を吐く。
「行くぞ」
*
ドクン。
光が広がる。
地面。
建物。
空間。
すべてに“細い線”が走る。
それは目に見えない。
だが確実に――
“繋がった”。
アルカが叫ぶ。
「範囲……拡張!」
カルディアが言う。
「都市全域に展開確認」
ミヒャエルが驚く。
「ここまでやるか」
ラグスが笑う。
「やるしかねぇだろ」
*
その瞬間。
別の場所で崩壊が発生する。
だが――
即座に“止まる”。
アルカが震える。
「……自動で抑えてる」
カルディアが言う。
「完全ではない」
「だが」
一拍。
「崩壊速度を大幅に低下させている」
*
アルトは言う。
「これで」
「人が間に合う」
ミヒャエルが頷く。
「戦えるな」
*
その時。
兵士の一人が近づいてきた。
震えた声。
「……あの」
アルトたちを見る。
「さっきの……」
言葉が続かない。
アルカが優しく言う。
「大丈夫です」
「今は持ちこたえられます」
兵士は戸惑う。
「……どうすれば」
沈黙。
*
アルトが言った。
「触れろ」
全員が見る。
アルトは続ける。
「崩壊しかけている者に」
「触れて、呼びかけろ」
兵士が驚く。
「それだけで……?」
「十分だ」
一拍。
「支えになる」
*
兵士は迷う。
だが――
走った。
崩壊しかけた仲間の元へ。
震える手で、肩に触れる。
「戻れ……!」
「戻ってこい!」
*
ドクン。
光が揺れる。
だが崩れない。
アルカが叫ぶ。
「還流率、維持!」
カルディアが言う。
「成立しています」
ミヒャエルが呟く。
「……本当に誰でもできるのか」
ラグスが笑う。
「だから言ったろ」
*
兵士が振り返る。
涙を流しながら叫ぶ。
「……戻った!」
歓声が上がる。
周囲の空気が変わる。
絶望から――
希望へ。
*
アルカが小さく言う。
「……広がってる」
カルディアが頷く。
「はい」
「維持が“共有”され始めています」
ミヒャエルが言う。
「システムだけじゃない」
「人だな」
アルトは静かに言った。
「それでいい」
*
だがその時。
遠くの空間が、再び歪む。
今までとは違う。
もっと強い。
もっと深い。
アルカが叫ぶ。
「高深度反応!」
カルディアが言う。
「さっきの比じゃない!」
ラグスが笑う。
「来たな」
*
空間の中心。
そこに現れる。
カイネス。
だが――
その姿は変わっていた。
身体の一部が完全に光に侵食されている。
人と、崩壊の中間。
アルカが震える。
「……あれ」
ミヒャエルが低く言う。
「完全に踏み込んでるな」
カルディアが言う。
「自発的な中途接続」
沈黙。
*
カイネスが笑う。
「いいな」
街を見渡す。
「広げたか」
アルトを見る。
「だが」
一歩前に出る。
「それで止まると思うな」
*
ドクン!!
周囲の空間が一気に歪む。
今までとは桁が違う。
複数箇所で同時崩壊。
アルカが叫ぶ。
「都市全域同時発生!」
カルディアが言う。
「補助構造が追いつかない!」
ミヒャエルが叫ぶ。
「限界か!」
*
カイネスが笑う。
「これが“数”だ」
一拍。
「維持できるか?」
沈黙。
*
アルトは前に出る。
「やる」
ラグスが笑う。
「当然だな」
アルカが震えながら頷く。
「……やります」
カルディアが静かに言う。
「全体最適に切り替えます」
ミヒャエルが言う。
「指揮を取る」
*
都市全体が揺れる。
崩壊。
維持。
崩壊。
維持。
せめぎ合い。
アルトは目を閉じる。
(……足りない)
一拍。
(もっとだ)
*
UIが、静かに反応する。
【拡張可能領域:検出】
【未使用リソース:存在】
アルトの目が開く。
(……まだある)
*
アルトは言った。
「もう一段階、上げる」
全員が息を呑む。
ラグスが笑う。
「来たな」
アルカが震える。
「まだあるんですか……」
カルディアが静かに言う。
「やるしかありません」
ミヒャエルが頷く。
「決めろ」
*
アルトは世界を見る。
崩れかけた人。
支える人。
広がる維持。
そして――
歪みの中心にいる男。
カイネス。
アルトは言った。
「全域接続に入る」
沈黙。
*
世界が――
次の段階へ進もうとしていた。
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