253プレイ目 ゼロイス
モブ度の高い町娘姿で歩いていた椛は、移住者の街では逆に目立っていた。
なんでこんな所にNPCが?と混乱したプレイヤーも多かったらしい。
出入りしている家と利用しているクランの転移プレートで分かる正体だったが。
「なんでNPCに擬態してるんだ?」
「買い物してからこっちに戻る時、着替えるの面倒で…」
「ああ、椛らしい理由だな」
クランハウス(建設予定地)で会ったタグが納得していた。
タグもオークションで大金が手に入ったと言って家を注文して、イベント終了後に家具などを用意し始めたそうだ。
「でも寝室とリビングだけでも迷って困る…全室とか無理」
「オレもセット家具をまとめて飾って、それっぽくするだけが多いな。ひと部屋はクリスマス家具でまとめればいいだろ」
「みんなの家にありそう、クリスマス部屋」
他はイベント色が強くて使うのが難しかったが、クリスマス家具はシックで無難だった。クリスマスらしいツリーなどを飾らなければ、あまり季節感もなく使えるのだ。
椛も2階のリビング2はそれで誤魔化している。気が向いたら模様替えすればいい話だ。
「ロウガイがヤマト国風の家がいいんじゃって、買うに買えなくて拗ねてたな。中華風は派手だし…」
「ああ、色がね…」
ヤマト国には行けていないが、第二サーバーで行けるようになっていたから、多少の情報は流れて来ている。予想通りの和風の建物のようだ。
ワールドリセットしたので、すでに行けない状態に戻っているが。
「紅白家具で宴会場を作りたいって」
「あれを使う人、トータルで何人いるかな…」
「ロウガイが唯一のプレイヤーでも驚かないぞ」
椛も他にいないんじゃないかなと思ったものだ。
椛は自宅の寝室とリビングだけ、一応は内装を仕上げた。まだ納得していないが、模様替えする時に買えば良いのだ。
薔薇色の絨毯とか。いつかそのうち手に入れたい。
寝室はシンプルだが、アンティーク調の落ち着いた家具を一通り置いてある。天使のミルクの部屋なら全力でピンクにしたかもしれないが、チョコレート色のメリハリのあるカラーリングにした。
リビング2はクリスマス部屋だが、何もないよりマシだ。
1階のメインのリビングはフィギュアを飾るコレクションボードや、ぬいぐるみを並べた一角のおかげで賑やかになっている。
物量で誤魔化したとも言う。
だがここはライトブラウンの家具と明るい桜色の可愛い内装になっていた。
大きなソファに主どんのしっぽ丸ごとクッションが置いてある。色は部屋に合わせて白く染めてもらった。
作業部屋のほうには本棚を置いて、レシピ本や調薬セットなどを飾った。
雑貨屋で買った小物類も並べて、ちょっと生活感も出してみた。
タオルは使うものではなく飾るものなのだ。
置いただけで作業中の雰囲気が出る。使わないけど。
それとカメラで撮った写真を、大判で現像したものを額縁に入れて飾ってみた。
特に意味もなく森の主どんの格好いい写真だが、格好いいのでお気に入りである。
絵はタグ画伯に頼んだら「恥ずかしいからヤダ」と断られたが、絵の買える画廊の場所は教えてもらえた。
貴族街のほうにあるが、それなりに稼いでいる冒険者なら入れる所もあるそうだ。
金策しないと買えないけど。
「地下と屋根裏部屋は気が向いたらやろう」
フレンドを招いてもあんまり恥ずかしくない家になった。
そう思うことにした椛だった。
まだ召喚獣たちの見た目装備はあまり手に入れていないが、椛は次はどこに行く予定だったっけ…とメモを見ていた。
素材集めをしたいし酒造クランに行きたいが、他のメモにも行きたい場所、やりたい事が書いてあった。
封印都市デュランとか。
自宅のリビングで、主どんのしっぽ丸ごとクッションを置いたソファに座り、自宅なら制限なく召喚できる流星をモフって悩む。
流星も主どんクッションは気にいったようで、もふもふに埋もれて気持ち良さそうにしていた。
大きいソファにして正解だった。
ずっとここにいるのもいいなあ、とか冒険に戻る気が消えかけていたが、検証クランのシラベからチャットが入った。
[東の海のレイド戦が解禁した。詳細はグルタの街で確認して]
唐突すぎる知らせに思えたが、誰かプレイヤーが動いていたのだろう。
椛は流星に話しかける。
「東の海で大きいカニと戦えるんだって。西の海のエンペラークラーケンみたいな奴だよ」
「あんっ!」
流星が「あの大っきい魔物!?」「戦いたい!楽しみ!」と目をきらきらさせて喜んでいる。
椛も楽しみになって来た。
ヤマト国にも行きたかったが、レイド戦も楽しみのひとつだった。
うきうきとクランハウス(建設予定地)に行くと、クランのメンバーも集まっていた。
とても久しぶりに頼闇もいた。
「頼闇、ヤマト国、サムライ?」
「そうなのよお!やっと、やっと転職できるわあ!待ってて、バニーちゃんたち!」
バニーちゃんたちとの繋がりは不明だが、テンションMAXなのでそっとしておくことにした。
「なんでカタコトだったんだ?」
「兎の国で兎語しか話せなくなってそうだったから…」
「言いたいことは分からなくもない」
「検証クランがイベント進めたの?」
「みたいだな」
我先にとトシュメッツ国のグルタの街にプレイヤーが殺到しているらしいので、混雑を避けてクラメンはここにいたらしい。
椛はなんとなくで来て、メンバーがいたからこちらに来たが、転移門を使っていたら巻き込まれていた所だった。
掲示板にも情報が出ているので、それを確認しながら話す。
「NPCのほうから、そろそろヤマト国との交易を再開したいって言い出したらしいな」
「国内が落ち着いて来たからか?」
「何故か帝国も協力を申し出て来たって」
公式PVでそのあたりの流れが分かるかな、と思う。イベントの当事者以外はそれまで蚊帳の外だ。
イベント主になってドヤりたい派はその扱いにやたらと怒るが、椛はこうしてレイド戦だけ参加するモブ位置のほうが気楽である。
「つまりランスロット様参戦?またうちのアイドル様が相棒ヅラして大丈夫?」
「あれ人気あったからいいんじゃないか」
「トシュメッツ国に人気のイケメンがいるって聞かないし」
「そういえば三大国だけだね、人気のイケメンがいるの。いや、バルジェ様は違った」
「アルヴィーナにイケメンいたか?」
「王子様!」
ここぞと王子様のサイン入りブロマイドを出す。初めて見た者は「これが噂の」と感心していた。
金髪碧眼のまさに王子様という外見だから。
「魔法大国で1番有名なの、勇者の仲間の魔術王だろ」
「勇者の仲間がいたのか?」
「あ、20年くらい前に亡くなったっていう魔術王!勇者様の仲間だった!?」
「ああ、1人は故人って聞いたな、確か」
椛も聞いた覚えはあったが、調べ損なって忘れていた。
すぐに調べていれば、とちょっと悔やんだ。
「勇者エストールの仲間の魔術士も英雄じゃなくて魔女って呼ばれてたっけ」
「種族名に英雄って付けにくいからじゃないか?ヒューマンの英雄は聞かないし」
「ハイレオン帝国だと騎士国の英雄って呼び方になるらしいけどな」
「豪槍勇者の仲間だね…」
椛も薄目で確認したが、勇者伝説は普通の内容だった。そう気付いたところで真面目に読んだものだ。
豪槍勇者の仲間以外にも騎士国の英雄と呼ばれた人物はいたそうだ。
「騎士王っていう、ランクSSのすごい王のいた騎士国の伝説なら聞いたぞ。暗殺されて怒り狂って怨霊化して蘇って、封印される話」
「ホラーか?」
「将門伝説っぽいね」
「ランクSSでも暗殺されるものなのか」
「ランクSSの暗殺者がいたのか?」
「全人類を暗殺できそう…」
暗黒街で暗殺者組合がもっとも恐れられている元凶だったりするのだろうか。
掘り起こさなくていい歴史の闇を見てしまった気分である。
そしてヒマだとまったく関係のない話ばかりしてしまうのだった。
「…なんで主どんハウスなんだ?」
「天使の家じゃなかったのか?」
「アイドル様はどうした?」
と言われそうな椛の家
(だって流星はいつでも召喚できるけど、主どんは呼べないから!)




