252プレイ目 キト
ちょっと手強いダンジョンのボス素材を集めて来た椛は冒険者組合でクエストを片付けていた。
日替わりボス討伐クエストなどの、簡単な討伐クエストが中心である。
「糸とか布の納品クエストが多いね」
「常設クエストも多いのですが、最近増えてますね」
もともと芸術の国ミュウテラの首都キトには裁縫師や皮革師が多く、そんな職人たちから素材の納品クエストが多く出ていた。
召喚獣や従魔の見た目装備が可能になってプレイヤーたちが盛り上がっているが、NPCたちの注文も増えているのだ。
召喚士は廃れ気味だが、NPCの間では従魔のペットは意外と多いらしい。
貴族はキャットテイルなどの人気従魔を飼っているようである。
椛もキャットテイルは欲しい。
「納品するほど余ってないな…あ、でもコレはこれから商業組合で納品する予定の、バルジェ様の新作衣装の素材!」
「バ、バルジェ様がこの煌く糸で新作を…!」
「没にならなければ、きっと」
取り出して見せたのは手強いダンジョンのボス素材である。
キラッキラの白い糸だが、布になってもキラッキラの予感。
染料の素材も同じランクの物を使うらしいが、何色になるのかは知らない。
「いえ、これを手に入れて使わない選択はありませんよ。脚本が代わっても衣装に使用するはずです…!」
「それもそうだね」
何かしらの衣装にはなるだろう。
「あの、あの、非売品のブロマイド、一目で良いので…!」
「うん、今度ね」
なんで知っているのかなんて愚問だ。
ファンは同士諸君から情報が回って来るものなのだ。
冒険者組合の受付嬢たちもバルジェ様ファンだったというだけの話である。
商業組合の受付嬢も納品クエストの手続きをすると、報酬を取り出して椛に渡してから、隣に来て眺めていた。
報酬は封筒に入っていたので、椛が開けないと見ることも出来なかったから。
「ま、まさかのプライベートのバルジェ様…!オフの日のラフなお姿も素敵ですわ…!」
他の受付嬢たちもすすすと寄って来て、ついでに客たちは怒りもせずに便乗していた。
バルジェ様ファンが多すぎる。
そろそろ帰って良いですかと言いにくい。
しばらく足止めを食らったが、なんとか抜け出した椛は近くのカフェに入ってケーキセットを注文した。
日替わりケーキのセットらしく、今日はチーズケーキだった。
商業組合の近くにある大きな店なので客入りは良く、賑やかな店だ。でもプレイヤーの姿はほぼなかった。
程なく届いた紅茶とケーキを楽しみながら掲示板を見る。
あれだけ注文が殺到しているのならば、可愛いスクショや動画がたくさんあるはず。
「…自慢スレはやっぱりシラベが嫌ってる秘匿連中の巣窟だな…」
完全に乗っ取られて、内輪でマウントの取り合いをしていた。
しかしスクショでも分かる、安物感。
デザインが可愛いだけに残念感がマシマシだった。
デフォルトのワンピースのほうが可愛いかったな…天使たち…という気分になって来たのでそのスレは閉じた。
裁縫師たちのスレのほうが可愛い物があるかなと思ったが、こちらは愚痴がメインだった。ドケチが多かったそうだ。
そっと閉じた。
なにか、何か可愛いもの…!と探し回ってスイーツにたどり着く。
椛には可愛いもの探しは荷が重かったようだ。
召喚獣の見た目装備も欲しいが、家具探しも継続中だ。
今日はグノームの陸を抱いて商店街を歩いていた。買い物用の変装…いや、町娘ファッションに替えてある。
ちょっと大怪盗さんに会いたくなった。
日替わりボス討伐が出ていたら受けよう。
陸は大人しいしぬいぐるみのようで可愛いし、そんなに珍しがられないしで重宝する子だ。
もふもふではないが、ぽふぽふという感じの抱き心地である。
「あ、綺麗な薔薇色!でも高…!」
「貴重な染料なんですよ〜」
「ですよねー」
目を引く美しい色合いだったのでそんな気はしていた。家の屋根と同じ薔薇色なので部屋に合いそうだなと思ったのだ。
ちなみに大きな絨毯なので、染料代がなくても高そうだけど。
商業組合で聞かなかっただけあって、自分で素材を取って来るのも難しい物だったから諦めた。
リビング用に綺麗な柄の絨毯もいいなと思う。
でも薔薇色の絨毯に即決しそうなくらい惹かれた後だと、ちょっと見劣りして買う気になれなかった。
絨毯は日を改めて探そう。
他にも欲しいのに決めあぐねている物があるので、店を覗いて歩く。
欲しかった訳ではないのに、手頃な値段の小物はホイホイと買いそうになる。
「クッションは主どんクッションがある…!でも手触りが違うのも良いなあ」
そういえばまた主どんにしっぽを貰えたから、追加でクッションを作ってもらおうかなと思う。サイズの違うクッションがあれば使い分けられるだろう。
…散財する思考に流れてるなあ。
などと考えているうちに、家具ではなく服飾店の並ぶ通りに来ていた。
服ではなく糸や布などの素材が並んでいる店が多い。
値段とランクを見るまでもなく、けっこう良い布を売っているのが分かる。
せめてこういう布で作ってあげれば良いのにな、と思った。某さんたち。
ちょっと高価なリボンが売っていたので、ついついミルク用を買いそうになる。
乳白色の髪なので、ミルクはたいていの色のリボンが似合うはずだ。
「う、ここにもお高い薔薇色が…!」
「リボンサイズなら奮発して買うお客さんもいる人気商品だよ」
「ですよねー」
絨毯は無理だが、これなら買えそうと椛も思ってしまった。なんたる罠。
まだ素材を手に入れられないから買うしかないし、絶対にミルクに似合うしと悩む。
リボンだけでもつけてあげたい。
いやでも、バルジェ様に納品した糸の値段より高いような。あれは椛のレベルでも取りに行けるからか。
悩んだ挙句に、店内にプレイヤーがいない事を改めて確認してから、ミルクを召喚した。
「…思った以上に似合う!買うしかないね!」
「似合うね!」
店主も全面的に同意していたので、薔薇色のリボンを買った。
どうやって装備するのかなと悩んだが、メニュー画面から設定できた。
設定したリボンを使って結えば、簡単に装備できるようである。
「早く服も揃えたい…素材集めを頑張るぞー」
椛は安物では満足できないので素材集めと金策が急務になった。
でも目標があるほうが頑張れるものだった。




