246プレイ目 メニータン
イグシオン王国のグルメの街は、メニータンという街の中の一角にあった。
王都イグナの東にあるメニータンに来た椛は、冒険者組合や神殿の転移門に登録してからグルメの街の区画の入口に向かった。
エルフの国で花蜜をたっぷり集めて来た椛は、高原の街モーゲンに行った時に王都イグナの転移門に登録してあったので、数時間ほど愛狼たちと走ればたどり着いた。
山道ではなく峡谷の底に敷かれた街道だったから、走りやすいけど景色はいまいち良くなかったが。
グルメの街は商店街と北の貴族街にまたがるように区切られていて、神殿から大通りを東に歩けば入口の門が見えて来る。
街を囲む街壁ほど高くはないが、壁で仕切られていた。
「ここにランクSSの料理人『天の餐』ベリアナ様がいらっしゃる…!」
「ようこそ、グルメの街へ」
「資格なき方は残念ながらお招きできませんよ」
「グルメオークションにコレを出したい」
グルメの街を守る門番たちに花蜜の小瓶を出して見せると、鑑定してからグルメの街のマップをくれた。そしてまずオークション会場に行って登録するようにと言われる。
門番たちは仮の入場許可しか出せないので、オークションに登録して初めて正式な許可証が貰える仕組みだそうだ。
きっとレアアイテムを持って来ても売る気がない奴を滞在させないためだろう。
「許可証はオークションに出品してから1年間有効なので、期限が切れたら再度許可証を発行していただくことになります」
「ごゆっくりとグルメの街をお楽しみください」
対応の丁寧な門番たちに礼を言って、椛はグルメの街の門をくぐった。
ここでしか買えないと聞いた高級食材リストは門番たちからも買えるらしいが、オークション会場の受付で売っているそうだ。
オークション会場で聞いてみようと思ったのだった。
グルメオークションの会場は、暗黒街の裏オークション会場よりも華やかな外観だった。商品リストの出ている看板も贋作くさいポスターとは違って、見やすく記されている。
大劇場を思い出した椛は、防具だけ外して大きな扉の入口からエントランスホールに入った。さすがに大劇場には劣るが、ここもきらびやかである。
吹き抜けにはなっていないが、高い天井には豪華なシャンデリアが下げられていた。
ちょっと内装を見回してしまったが、重厚なデザインのカウンターがあったのでそちらに向かう。受付は数カ所あったが、金持ちっぽい客が美女たちのところにいたので、椛はロマンスグレーの男性の受付にした。
「コレを出品したい」
「かしこまりました。お手続きいたしますので、少々お待ち下さい」
花蜜の小瓶を出せば、余計な問答もなくすいすいと進む。聞かれたのは許可証の有無くらいだ。
初出品なので許可証も同時に発行され、オークションでの落札後に入金される仕組みなどを説明された。組合の口座に直接入金なので、このまま放って帰っても問題ないくらいだ。
金策目的なので複数の出品だが、そのあたりの調整はオークション側でしてくれるらしい。
何個出品されてもすぐに落札される人気商品だそうだ。クラメンたちもけっこう出品しているらしいのに。
「あ、高級食材リストの本はここで買えるって聞いたけど」
「はい、取り扱っております」
予定通り1冊購入する。思ったより分厚い本だった。
グルメの街で買えると検証クランのシラベが教えてくれたので、手に入れたいと思ったのだ。
もちろん参考にして高級食材を入手するために!売るのではなく、自分で食べたいだけだが。
オークション会場でやることは済んだので、世界中の食材や高級店が並ぶグルメの街を見て歩こうかなと思っていたら、美人の受付嬢たちに何か言っていた客の1人が居丈高に話しかけて来た。
「貴様、他にも花蜜を持っているのだろう。売れ」
「…マナー違反じゃないの?」
椛はアホではなく、ロマンスグレーの受付の人に聞いた。もちろん頷いて、奥から物々しい装備の警備兵たちを呼び出してから、恭しくオハナシしていた。
オークションに出品するような物なのに、そのオークションの受付で堂々と「売れ」と言い放つ神経が分からない。欲しかったら落札するのがここのルールだろうに。
変なイベントじゃないよなとクエストリストを見てしまったが、クエストではなかった。
たまたまテンプレ小物貴族でも居ただけだろう。
シラベに聞いたら「いつ行ってもいる」「下手に関わるとイベント起きそう」と言っていたので、関わらなければ大丈夫だ。たぶん。
グルメの街は全体的に高級路線なので、椛は良いところのお嬢さん風の服とメイク、髪型に変えてから歩いていた。
冒険者姿だとテンプレ小物貴族に絡まれやすくなる気がしたからだ。
中央のオークション会場の北側にレストラン街があり、ここに店を出せる料理人は限られている。
ランクS以上とまではいかないが、闘技場で例えれば各部門の上位陣のみということである。
そして南側には多種多様な食材が売られていた。現地価格より高いのだが、ここで全て揃うと思えば料理人にとっては最高の環境だろう。
肉、魚、野菜と大まかに分かれているので、目当てがあるなら探しやすい。
「これ、店がたくさんあるというより、全て管理してる組織がある感じ?」
「管理は商業組合がしているよ。店の場所の振り分けとかね」
やはり黒幕は転売屋の元締め…という気分になったが、管理担当というだけかもしれない。
国も事業に関わっているらしいのだ。
「あ、卵。イーグルの卵、たっか」
「帝国から輸入してるからね」
現地の買い取り価格を知っている身としては高いとしか思えない。手軽に買えるけど、自分で集めようと思うに充分な値段だった。
「1度に百個くらい美味しい卵をドロップするエリアボスはどこかにいないの?」
「うーん、フィールドボスなら…あ、レベル95推奨で危険度の高い火山フィールドにいるボスの卵がそうだったはず!あれが最後に出品されたの、何十年前だったかな…」
「勇者様たちでもなければ無理そう…」
レベル95だけなら頑張れば行ける日も来るだろうが、危険度によっては一生無理である。しかも火山フィールドとか…
ダンジョンじゃないから負けたら神殿に帰されるし。
卵の楽々ゲットは諦めて、食材を見て回った。どれも高くて買う気は起きないが、どこで入手できるのかは聞けた。
オークションに出す高級食材ほどではないので、買ったリストには載っていない情報も多いようだった。
忘れないようにメモをして、外部メモリ(フレンド)たちにメールしておく。
椛より記憶力の良い者に伝えておきたい情報も多かった。
茶葉は食材扱いだが、料理スキルがないと淹れられない。
料理スキルも高くないと美味しく淹れられないらしい。
茶葉コーナーで紅茶専門店と珈琲専門店を出す予定の料理人クランを思い出した。早くゼロイスで開店して欲しい料理人たちだった。
食材売り場からレストラン街に移ったところに、そんな紅茶専門店と珈琲専門店が並んでいた。こういうのがやりたいんだろうな、という店である。
スクショを撮りながら入ってみて、お値段に慄きつつも紅茶を1杯注文してみた。
給仕に尋ねれば、その1杯に関する説明が流れるように出て来る。
産地、加工した料理人、淹れ方、おすすめの飲み方、今回注文したものとは違うおすすめの飲み方など、いつまで続くのかなと思うくらい多岐に渡る。
お貴族様はそんな蘊蓄を聞くのが好きそうだ。
さらにカップなどの説明になり、砂糖やミルクの説明も始まる。止めないと迷惑だろうかと思ったが、営業スマイルなので感情が読めない。
完璧だった、という感想しか出なかった。
お店を出て、もう余計なこと聞くのやめようと思う。そしてロウガイに美味しかったとスクショ付きでメッセージを送っておいた。
その後はまだ入りやすいスイーツ専門店に行って、甘い物の誘惑に負けて少し買ってから帰ることにした。
奥のほうには近付くのも気が引ける高級レストランが並んでいる気配がしていた。
ドレスコードだけでなく、馬車で優雅に乗り付けないと恥をかく、そんなハイソな気配だ。
いつか行ってみたいが、いつになるのかは不明だった。




