245プレイ目 ファルティ
エルフの国の王都ファルティに転移門で来た椛は、忘れないうちに試練をクリアした証の腕章を確認した。
先日まで同じエルスティ王国のシャクナの街にいたので装備したままだった。
聖堂の導師たちにあいさつをして、聖堂前広場に出た。今日の気分でシルヴェストルのフェザーを召喚し、ふかふか羽毛を堪能する。
これは良いものだ。
花蜜を集めに来ただけだが、他にもっと効率の良い金策が見つかるまでは何度も来る都になるだろう。
自分用が欲しいから、用が無くなる日は来ないけど。
「シンプルに品質10のパンに塗るだけで美味しいからなあ…」
品質10の時点で手軽さはないのだが、料理人プレイヤーに頼んでシンプルなパンを売ってもらったのだ。
売り物のパンは、その基本のパンから加工する物もあるから作る手間はさほどではないらしい。
そのパンに花蜜を塗ったらめちゃくちゃ美味しかったのだ。パンケーキにも合うが、甘くないパンのほうが花蜜の甘さが引き立つというか。
花蜜だけ舐めても美味しいのだから言うまでもない事実だろうけど、つい食べすぎてしまいそうになった。食べやすかったから。
集める手間を考えると手が止まるだけだ。
「いや、金策金策」
手間がかかるので売りたくない気持ちを、金策の必要性で押し込める。上位職になれないままでいるのはツラいのだ。
「プレゼントボックス集めが滞るけど、金策金策〜」
2周年イベント中なのでプレゼントボックス稼ぎが出来ない作業は避けたかったが、上位職になりたいので仕方がない。
シークレット枠以外はコンプリート出来たが、可愛いフィギュアを無限に集めたかった。
後半の復刻ぬいぐるみも集めたいし。
…早く終わらせてイベントアイテムの回収に移りたいものだ。
毎日ゼロイスの自宅に帰るとはいえ数日は滞在する予定なので、椛は冒険者組合で冒険者カードの照合をしてもらった。
これは冒険者の現在地を組合に知らせておいて、連絡を取れるようにしておくシステムだ。
今回は花蜜集めしかしない予定だが、どこに行っているのか分かるようにしておいた。
「そういえば、前回来た時にたむろってた連中がいない…」
「神様の贈り物を集めに出ているようですね。他の国に行けば良いのに」
受付嬢に尋ねたら、ボソッと好感度が地の底みたいな1言がついて来た。
試練を受ける気がないなら他に行けよ!と椛も思う。
証の腕章が欲しいならエルフの英雄の指導を受けるしかないはずなのに、なんで居座っているのか理解できない。
試練を受けようともせず、腕章を着けている椛を射殺しそうな眼で睨みつけて来て、NPCたちに嫌われているのに居座っている。そんなプレイヤーたちがこの王都にはいるのだ。
イベントのアイテム集めはしたいらしいが、何が楽しいのか分からないプレイスタイルである。
何か楽に証が手に入る手段があるとでも思っていそうだが、ここに居座る意味はないと思う。
椛は「何日か花蜜集めするよ」と伝えたら組合には用がないので今回はもう来ない場所だが、睨んで来る連中がいなくて良かった!とだけ思って外に出た。
次に商業組合に入って、シャクナの街の食堂のような人気店の情報を仕入れる。
食べ比べてみないと椛の好みに合うか分からないため、食べ歩くことになるだろう。
とても楽しみだった。
椛は花蜜を集めて、美味しいと評判のお店の食べ歩きしかしていなかったが、プレイヤーの一部はシークレット枠を狙って盛り上がっていたようだ。
花蜜集めに飽きてちょっと掲示板を眺めた椛は、シークレットの妖狐のスクショを見て感心した。
今回は隠さずにスクショを上げる人がいるんだな、と。
去年は「持っているとバレたら狙われる!」と秘匿する空気しかなかった。
二陣の自慢げに持ち歩いた人のエピソードを思い出して、すぐに仕舞い直した。
あんまり思い出したくないエピソードである。
「予想通り妖狐にゃんだったな。掲示板ってNPCには見せられない設定だったっけ…」
見せられるモノでもないので考えた事がなかったが、召喚獣に掲示板のスクショを見せる方法はなさそうだった。
掲示板上で閲覧はできても、スクショや動画を取得する事は不可能なのだ。
掲載した人が取り下げない限り制限なしで見られるから、プレイヤーがその仕様で困る事は少ない。
悪用したい奴が喚いていたり、現物を飾って眺めたいと嘆く人もたまにいるが、トラブル防止措置だったはずだ。
今はただ、天狐に見せられたら満足して大人しくなるのにな、と思っただけである。
「そうだ。後にしようと思って忘れてた。風の塔のアイドル様…でもな。後半のアレがな…」
去年のリベンジで後半も荒れる予想である。
その直前にアイドル様動画を出すとか、また煽りだなんだと言われそう。
椛はファンの人から「可愛い!」というポジティブな反応をもらいたいだけで、レア物狙いの連中のジェラシーなんていらないのである。
不愉快なだけだから。
ついでに鼻息荒く(ただの予測)語尾が強く(!!を多用する人)「アイドル様の新作待ってます!!!」と何度も書き込むプレイヤーがいると、載せたくなくなる天邪鬼なのだ。
遭遇したら絡まれそうだし。
「うん、イベントが終わってほとぼりが冷めてからで良いか!忘れそうだけど!」
むしろ絶対に忘れる自信しかないけど、誰かが催促して来たら思い出すだろう。きっと。
クラメンたちも金策をして家を作ったそうで、ゼロイスのクランハウス(建設予定地)でたまに会うようになった。
もちろん転移プレートを利用するからだ。
「2年もかかるとは思わなかったけど、やっぱり自宅で休めるの良いよな」
「だよね。クリスマス家具しかないけど」
「他は使いにくいよな」
クランのメンバーに女の子はいないので、クリスマス家具以外の使用率はたぶん0%だ。
紅白家具なんて、全プレイヤー中に何人利用者がいるだろう…という使いにくさだが。
「あ、掲示板での人気がいまいち高くないけど、魅惑の羽毛体験してみる?なんで召喚士限定なんだ…!って悔しくなること請け合い」
「知らずにいたい奴じゃねえの、それ…」
「フクロウならいるけど、アレをモフるほど好感度を上げるの大変そうだからなー」
椛は未だに賢翼に「モフらせて!」とは言えない。
そんな話をしてからフェザーを召喚してクラメンに渡すと「何これ柔らかい!」と一瞬で魅了されていた。
フェザーは「どいつもこいつも同じ反応を…」という達観した様子で大人しく抱かれていた。
「コウモリのほうは見た目も可愛いけど、仕草なんかが可愛いんだよ」
「実物が見たい」
「それはそう」
ブルーバットのコモリ君も召喚する。
こちらは椛の肩に乗せてみたが、小首をかしげる仕草や青いクリっとした目で見上げて来る様子、話に合わせて控えめなのにオーバーリアクションを取る所など、全てが可愛い。
肩に乗せてしまうと椛には見えないのだが、クラメンが「召喚士だけズルい」と悔しがっていたものだ。
「お豆はどうなんだ?」
「…うちの子、フェザーを見ると『最高のオフトゥン!』って張り付くから…」
フェザーもうんうんと頷いていた。
振り払わずに好きにさせていたはずだが、迷惑ではないこともなかったようだ。
「オフトゥンか…空の騎獣って、こんな手触りなのか…?」
「空飛ぶオフトゥン…?」
まだレベルが足りないのだが、それは非常に気になる要素だ。
気持ち良すぎて張り付いてしまいそうである。
豆電球狸と同じ状態になるけど、抗えないかもしれなかった。




