237プレイ目 ゼロイスからアンセム?
ログインしたら荒野でした。
「もうこのネタ古いと思うんだ…」
「今度はなんだ…帰っていいか?」
「わたしも賞金首狩りになる準備でもしようかな…」
椛はボヤきながら、近くにいた見知らぬプレイヤーと言い合い、ログや掲示板を調べた。
誰かが何かやったらしく、ワールドアナウンスで《少女がこの世界を否定しました。あの日に戻ります》と言うなり、全員がゼロイスの荒野に戻されたそうだ。
少女って誰だ。
さすがにレベル1に戻すとか、半月の間に集めたものを没収はしなかったが、転移門の登録は解除されているらしい。
どうやら道中でヒントを探せと言いたいらしいが、何を求めているのかが分からない。
それでは探しようがなかった。
「…あの日じゃなくて、メインサーバーに帰りたい…」
「何をさせたいのか説明しろよ。もうログアウトして寝る」
「俺もやめた」
周囲にいた何人かがログアウトしてしまった。見ていた者たちは「私もログアウトしようかな…」という顔で眺めていたものだ。
椛も勢いでログアウトしようかと思ったが、愛狼たちを思い出して留まった。
イベントなんてどうなってもいいが、月牙と流星を放って行くのは気が引ける。
ただそれだけのことだった。
騎獣がいるのでアンセムまで走るのはさほど時間がかからない。森の主どんが立ちふさがっていなければ。
主どんも復活していたので、レベル1の召喚獣ばかりだが、みんなで戦って突破した。
椛の召喚獣たちは主どんのお世話になっているので、すでに全ての攻撃を見切っている。
…タグが言っていたがレベルが下がってステータスが低下しているため、慣れたと思っていたら一撃で退場させられた子もいたので、いい経験になった。
主どん、強い。
そうして再びアンセムの街にやって来た。
マップは残っていたので、門番にあいさつだけして街に入る。
焼き芋の補充をしようかなと思いながら神殿に向かい、転移門に登録する。
あとは主どん道場で鍛え直して、月牙と流星をモフって過ごすのも悪くない。
文句は少女以外のヒントを出さない運営に言ってくれ、八天とやら。
そう思って神殿を離れかけたのに、唐突に《メモリアル・リンク》が発動した。
「椛さんっ」
「は?聖女様…?」
そして聖女様が小走りで出て来た。背後で神官たちが心配そうにおろおろしながら付いて来ていた。
「今日は移住者がこの世界に来る日、そうよね?」
「ええと、まあ」
「2年前のその日、なのね?」
《メモリアル・リンク》は聖女様が対象だったらしい。
椛も驚いて尋ね返した。
「記憶があるんですか?」
「良かった。誰も覚えていなくて…」
これがヒントか!と思ったが、聖女様とお話をした結果、分かった。
NPCたちは突然記憶が戻っただけで、特別な話など何も知らないのだということが。
トシュメッツ国の少女のことをそれとなく尋ねたが、何も分からなかった。
時の獣の話は「どこで聞いたの?」と驚いていたが、妖狐にゃんと同程度の知識しかなさそうだった。
八天は…怖いので聞かないでおいた。
あれはただのメッセンジャー。
そう思いたい。
その後、焼き芋屋のおじさんも《メモリアル・リンク》で記憶を取り戻していたが、巻き込んでごめんという気持ちにしかならなかった。
聖女様も同じだヨと言えば、とりあえずは安心していたものだ。
もちろん焼き芋屋のおじさんがヒントなど持っている訳がなかった。
アンセムに何人かたどり着いたクランのメンバーがいたので、声をかけて集まった。
商店街の各所にある休憩所のような小さな広場のひとつである。
「なんか仲のいいNPCと《メモリアル・リンク》が発動するようになった…」
「掲示板でも話題だな。ヒントだって」
「ログインしたら荒野でした、とほぼ同じだから何も知らなかったよ」
「いきなり放り出されただけの被害者ポジか」
「いや、《メモリアル・リンク》で巻き込んだ被害者…」
「近付かなければ巻き込まずに済んだのか」
やっぱりイベントなんて放置で良くね?という結論になる。
「わたしは主どん道場で鍛え直して、召喚獣たちと残りの余生を過ごしたい…」
「なんだ、負けたのか?」
「召喚獣たちが。ステータスの低下で躱せたはずの攻撃が回避できなかったらしいよ」
「ああ、低レベルのうちしか分からない奴だな」
「こっちの記憶も持ち越すのか?」
「なくてもいいよ。ロクなヒントもない、つまらんイベントやるより」
「闘技場に帰りたい…」
「これはこれで縛りプレイってことなら面白かったのにな」
運営は何が面白いと思ったのだろうか。
面白かったゲームをもう1度最初からやりたいと思うことはある。何度遊んでも面白い名作もたくさんある。
しかしやりたいと思った時に遊ぶから楽しいのであって、やる気もないのに強制されたら面白いものすらつまらなくなるのだ。
ましてやマトモなヒントも概要も分からないイベントなんて、それは闘技場で覇王のバトルを見るより楽しいのか?と聞きたくなるだけだった。
なんというか、RPGのストーリーを進めていたら突然ミニゲームが出て来て、クリアしないと進めないよ、と言われた時の気持ち。
しかも大嫌いな的あてとかシューティングゲームが出て来た時の「ざけんな!」という気持ち…
誰もがそつなくこなせると思うなよ。
ジャンル詐欺は意表を突くのではなく、ヘイトを稼ぐだけだと心得よ。
そんな気持ち。
「闘技場に行きたいけど、せっかく教えてやったのになんでいるの?とかって恐怖をバラまく奴が出て来そうで行けない…」
「アレに遭遇したのか…」
「遭ってないけど、恐怖デバフで察した…」
深海の主に遭遇していたら、八天とやらには遭いたくないだろう。美男美女ではなく災害だと思う。
「そんなことより、覇王の試合はあった?」
「こんな序盤に闘技場まで行ってなかったハズだから、見たことない対戦が観れた」
「一緒に行けば良かった!」
「団長も来たら良いのに」
「シークレットゲストすぎる!」
「王都じゃなくて闘技場で会いたい!」
そうしてイベントそっちのけで覇王やフレッド団長の話、闘技場の見どころの話で盛り上がった。生ける災害の話は忘れるのがコツだ。
イベントの話に戻ることはなかったものだ。




