232プレイ目 ゼロイス?
2周年を迎える前に、長期メンテナンスの時期である。
没入型VRの安全性を確保するために、義務となっているものだ。
政府からの監査も入り短縮することはできないが、1日12時間をメンテナンスに当て、残りの12時間を開放してプレイ出来るようにする1ヶ月コースと、1日24時間メンテナンスをして半月で終わらせるコースがある。
現在は1ヶ月コースが主流で、ログイン人口の多い夜間は遊べるゲームが多い。
昨年の『リアース オンライン』は新しいサーバーを用意しました!点検は完了しております!とメンテナンス期間ゼロだった。
そして今年も同じことを言い出した。
ただし最新のサーバーはかなり強化できたので、ユーザー数を倍増しました。2万人が同時接続可能になった新世界でお楽しみ下さい、とか言い出した。
「なんで再びの荒野スタート…」
「全部リセットされてるんだけどー!?」
「1ヶ月もこれかよー!」
おかげで荒野に2万人が放り出されている。
椛も愛狼たちがいなくなっていて崩れ落ちかけた。
「半日メンテが良かった…1ヶ月やるなら半日メンテで良かっただろ…」
しかも2万人ということは、隣のサーバーの二陣たちと一緒ということだ。
やらかし連中とは関わりたくなかったのに。
1ヶ月間、別のゲームでもやっていようかなとかなり本気で思ったものだ。
全てリセットされたと思ったが、フレンドリストだけは残っていた。
椛がフレンドたちに[ハジメマシテ]とチャットを送ると、案外近くから「ぎゃっ!?」「ホラーはやめろ!」と声が上がっていた。
「お茶目なあいさつなのに」
「宇宙人かと思っただろ!」
「似たようなものだった!」
「なんだと!?」
しばし言い合い、不毛なので今後の話をした。
「召喚士の上位職の話を聞いて、救援クエストで召喚獣を増やして、装備の新調のための素材集めをして…って予定を立ててたけど、メンテの間にスカッと忘れる自信があるんだけど、どうしたら…」
「家を買ったとか注文したとか言ってたけど、いつ完成するんだ?忘れてないか?」
「あ、完全に忘れてた人の顔だ」
「大金を払ったんだからさすがに忘れない!って豪語してたあの日…」
「やめてー、やめてー」
椛は反論ひとつ出来なくて頭を抱えた。
なんかもう、キャパオーバーである。メモリの増設を切に希望する。
外付けメモリ(フレンド)たちにメンテ明けに確認してくれ、と頼み込んでおいた。
「未来の自分にメールでも出しておけよ」
「そんな機能、あったかな…」
「そういう映画なんかのネタなら聞いた気がする」
ただ書くだけではなく、忘れた頃に届くのだ。見れば思い出せる、かもしれない。
という話(お願い)をしてから、メンテ期間の話題に移った。
「別ゲーやろうかと思うんだけどさ、おすすめある?1ヶ月で終わる奴」
「ソロゲーだよな。乙女ゲームで女心を学び直せ」
「FPSでエイム力を磨いて来いよ」
「両方いらねえ」
「レトロゲームとか?」
「夜の1、2時間だけしか遊べないのを拡張してくれる時間加速がないのはなあ」
「慣れるとそうだよな」
みんな他のゲームなどやっていないので、おすすめなどなかった。
大作MMOの体験版が出てた、モーションアシストが駄目だった、という話しか出ない。
「そうだった…モーションアシストの罠…」
「あれに慣れるとリアルでこけやすくならないのか?」
「モーションアシストに喜ぶタイプ、リアルでは突撃とかしないから…」
「運動部なら自分で判断するだろ」
バトルの時に激しく動くのと、リアルの動きは全く違う。なので影響が出たという話はほとんど聞かない。
例えば後ろに転びそうになってアシスト機能が働くからといって、反射的に転ばないように動いてしまうことはなくならない。
あくまでそこで転ばないようにアシストするだけだ。
「リアルで突撃するタイプとは」
「芸能人を見つけた鬼女の群れ」
「タイムセールの時間に半額商品を狙う狩人」
「刑事さん」
「アクション俳優」
「スプリンター」
「それは突撃じゃないだろ」
他人を押し退けて我先にと突撃する連中だ。
きっと人生という名の戦場で生きているのだろう。
「話題の新作とかあったっけ?」
「来月なら」
「ああ、海外の大作MMO。賞金首狩りものだっけ」
「あ、賞金首という名のPKゲーだっけ。ストレス発散でひと狩り行きたい」
「人狩り…」
「でも双剣はなかったぞ」
「何故!?」
「忍者刀はあった」
「侍の刀とは別なんだよな」
ゲームの開発者たちは忍者ブームの世代なのだろうか。そんな流行りがあったかな、と椛は思うのだが。
ぐだぐだ話しているうちに、他のプレイヤーたちは散って行ったようだ。遅れてログインして来た者が「なんでだよ!」と怒っている。
「…面白いゲームないし、やるか…」
「モーションアシストがなければヒマ潰しくらいにはなったのに」
「覇王と団長のバトルが見たい!」
「…は!今なら鬼女の国に行ける!」
せっかくなので椛はブローゼスト王国に行くことにした。
闘技場で遊ぼうという者は多かったものだ。
だらだらと冒険者組合のテントに並んで冒険者登録をして、道具屋のテントで罠を買って、椛たちは南の森で少しレベル上げをした。
最初はレベルがぽんぽん上がるところはちょっと楽しい。
「猪は捕まえたしクモ狩りでもしない?そろそろ夜だぜ」
「ああ、無限湧きするんだっけ」
「レベル10まで上げるぜ!」
「無理だろ」
「だよね」
パーティも組まずに10数人で適当にやっていたが、これだけいればどのくらい対応できるものか試してみることにした。
「クモ糸を売って、早くマトモな服を買うんだ」
「武器くらい新調しないと難しくないか?」
「鍛冶師…残ってなくね?」
「行ってしまったか…」
「でも主どん以外もけっこう強いよ、あっちの魔物」
生産職だけなら森の主とのバトルは発生しないことを思い出した。しかしある程度のレベルは必要だろう。
「そもそも、主どんの攻撃を1度でも食らったらお終いのデスゲームだし、攻撃力低くてもそのうち勝てるよ、回避さえ成功し続ければ!」
「人数いれば行けるだろ。ソロじゃなきゃいけない縛りでもしてんの?」
「…してないヨ」
「主どんとはいつもタイマン勝負だからつい」
基本ソロが多いので、主どんはタイマンで越えなければいけない壁に思えていたが、そんな縛りはないのだ。
でも調子が狂うなと思ったものだ。
みんなでクモ狩りはなかなか楽しかったし、生産職たちもまだ最低限のレベル上げをしている所だと言ってゼロイスに残っていた。
それならと鉱石を取りに行って、武器だけは新調した。防具を作るほどオオカミ素材が貯まっていなかったのだ。
初日はそのあたりで切り上げて、2日目は役所で話を聞いて粗品をもらってから北に向かった。
声をかけたら集まったフレンドだけだが、他の者たちもそれぞれで進めているようだ。
北の森の魔物は少し手強いが、ソロでも勝てる相手だ。経験値が美味しいので、主どんに出会う前にレベル10になる者が多かった。
椛もレベル10になった。
「そういえば、隣のサーバーは2周年でまたワールドリセットじゃなかったっけ」
「ああ、1ヶ月前にやったばっかり!ってなるのか」
「レベルとか持ち越しだから、まだ…」
「NPCにハジメマシテって言われるのがキツそう…あれはどの時空の話だったかって混乱しそう」
「1ヶ月じゃ混ざるか」
などと話していたら、森の主が現われた。
武器を構えて散開する。
「ここで1人だけ死に戻ったら…ツラい」
「笑うのかと思った」
「おう、笑うな」
「ソロで頑張れ」
「笑われる立場になるが良い…!」
2年の間に何度も戦った相手である。
通常攻撃のモーションだって全て覚えてしまった。
思った以上に早く終わり、椛は空を仰いだ。
「主どんMK=Ⅱが待たれる…」
「ちょっと分かる。主どんはもっと強くないと…」
「なんか物足りない…」
みんな簡単に越えただろうな、と話しながらさらに北へ向かった。
主どん装備のために、主どんと戦いまくったはずなのだ。
だが、その後アンセムに向かう途中の暇つぶしで覗いた掲示板で椛たちは現実を知る。
レベル差の暴力で勝っていただけのプレイヤーたちは、主どんの強さを再認識させられて、勝てない!と喚いていたのだ。
スタダ組だった者には、初体験の脅威だったらしい。
「レベルが上がれば、タンクが主どんの攻撃を余裕で受けられるから…」
「魔術士が魔法でソッコーで仕留めるらしいぞ…」
「ソウナンダ」
誰も主どんの全ての動きを覚えるほど真っ向勝負などしていなかった。
椛の召喚獣たちだって、主どんの動きは覚えてしまったのに。
「モーションアシストのないゲームを選ぶのはバトル好きだからだと、いつから勘違いしていた…?」
「そうじゃない連中も多いんだな…」
いろんな人がいるね、で片付けることにした。自分の近くのプレイヤーを基準に考えすぎたのかもしれない。
ここには闘技場でバトルするのが好きな連中しかいなかった。




